第十四話 合宿二日目 その2 イベント準備中
何も暑い日中に活動することは無いと思う。
そう思いつつも取り敢えず寒冷・氷雪魔法講習会を実施。
結果はまあ、私自身以外には大変好評のようだ。
「魅せろ白銀の刃! 氷吹雪刀槍!」
ご機嫌で英美里さんが海へ氷雪魔法を連射している。
新たな攻撃魔法が手に入った事がよほど嬉しいらしい。
「氷温保存庫!、よしよし。なら次は急速冷凍!、更に凍結乾燥! ふっふっふっ、これで冷やし方向への魔法は完璧ね」
生活班の清花先輩は怪しげな生活魔法をマスターしたようだ。
そんな感じで皆さん無事ほぼ思い通りの寒冷系魔法を使えるようになった模様。
もちろん魔力の大小によって使える範囲に差があるがそれはまあ仕方無い。
ただ魔力は練習である程度は増大させる事が出来る。
ここまで使えるようになったら、後の応用は自分次第だ。
私も凍結乾燥なんて魔法は教えていないし。
「やるなシャルボブ、十人以上の攻略対象の好感度がアップしたぞ」
グラードもとい佐和さんが変な事を言う。
「なんだその好感度というのは」
「エロゲによくあるパラメーターだ。カンストするとエッチへのルートが選択可能になる」
「いらんそんなの!」
私は女性には興味が無いというか苦手だ!
「特にD班内はほぼ全員まもなくカンストだぞ。どうだここは一線越えて」
「せんわい! このロリコンドワーフめ!」
全く。
「だいたいお前だってエアコン魔法も氷雪魔法も使用可能だろ! 少しは手伝え!」
佐和さんは私とほぼ同じくらい魔法を使えるはずだ。
前世でのグラードがそうだったし。
「ドワーフの魔法は起動の仕方が違ってな。人類に教えるには適していない」
「今世でのお前が使えるんだから問題無いだろ」
「面倒な事は出来る奴に任せて物を作っている方が楽しい」
「それが本音かよおい!」
「製作班は皆そんなもんだ」
まあそうかもしれないけれどな。
「ところで遙、相談が一件ある」
「何だ」
「この浜から西南西方向八百程度、岩場の下に小さな浜があるのわかるか」
「どれ」
遠隔視魔法を起動する。
「確かにあるな。幅五十メートルもない小さな浜だ」
「そこをよく見てみろ」
視覚だけでなく気温その他色々な情報を確認してみる。
佐和さんの言いたい事はすぐにわかった。
「魔力の溜まり場があるな。龍脈の関係で溜まりやすくなっている」
「ここで今日みたいにいい感じで魔法をぶっ放していると、どうなる」
言いたい事はすぐにわかった。
「確実に魔物に変化するな。魔力がいい具合に固まって」
「今はまだ魔物としての意識も発生していないけれどな、時間の問題だ」
確かに。
「散らしに行くか? 今なら簡単だろう」
「いや、確かにそうなんだがな。アレ、わざとじゃないか」
えっ?
「どういう事だ!」
佐和さんはにやりとする。
「さて質問です。ここで私とシャルボブがあそこの魔力溜りを散らしに行っていいでしょうか。不味いと思う人は申し出て下さい」
「はいはーい」
あ、いつもの声がした。
花梨先輩がふっと出現する。
「あれはまだ見て見ぬふりをして貰いたいな、お兄ちゃん。あれは大事な合宿のイベントなんだよ!」
「誰がお兄ちゃんですか! その口調変えるのをやめて下さい」
全く!
「そんな訳でな、遙が気づいて動く前に確認しておこうと思った訳だ。今年の一年で気づきそうなのは遙くらいだと思うしな」
「用心深いですね、明美さんは」
花梨先輩の台詞に佐和さんは頷く。
「私は面倒だから手を出さないですけれどね。遙はお人好しだから気づいたら退治しかねないと思って、確認してみました」
「ええ、あれは一定以上ここで魔力を使うと牛鬼に成長して、この浜辺を襲いに来きます。そこで皆さんに魔物との実戦をしていただくのが恒例行事です」
「やはりそうですか」
なるほど、そういう事か。
「でも危なくないですか」
「一応常に監視はしています。それに二年生以上は皆さん知っていますので、まあ大丈夫かと。そんな訳でこの件については口外しないようお願い致します」
「わかりました」
全くいろいろ企んでいるんだなあ。