第十三話 合宿初日 その2 私の優先事項
「それではこの後、午後六時まで自由時間にします。昼食はご飯だけは食当班で炊きます。それ以外は皆様の獲物次第になります。夕食も同様です。また水中眼鏡やゴムボート、汎用武器等は中央のテントに入っていますので各自自由にお取り下さい。それは解散!」
一気に皆が動き出す。
自分のテントへ着替えに戻る層、装備テントへ走る層。
ちなみに私は自分のテントへ戻る層だ。
やる事は決まっている。昼寝だ。
今はまだ暑い。もう少し涼しくなるまで寝るとしよう。
そんな訳で自分のテントに入り、寒冷魔法を少し使いながら寝袋へ。
持続魔法で気温設定は二十度程度を維持。
うん快適な昼寝日和だ。
それではお休みなさい……
◇◇◇
うっ、息が苦しい! 身体が動かない!
いわゆる金縛り状態か、それとも……
「遙、起きろ!起きないと死ぬぞ!」
何が起きているのかその声でわかった。
『起きるから退いてくれ!』
金縛りが解けた。
仕方無いので目を開ける。
水着姿のポニテと百合亜さんが視界に入った。
ポニテは小柄なくせにビキニ、しかも思ったより胸がある。
百合亜さんはシンプルな白のワンピース型。
あ、視界が動かない。
呼吸が苦しい……
「障害除去!」
ツインテの声。辛うじて呼吸は可能。でもまだ動けない。
「障害除去!」
ツインテ二発目の障害除去でやっと呼吸が出来るようになった。
慌てて深呼吸。酸欠のせいで頭がくらくらしてきた。
これはだめだ、お休みなさい……
「これ以上寝ると障害除去を解除します」
ツインテの死刑宣告が聞こえた。
仕方無い。私は目を開けて身を起こす。
「折角快適に寝ていたのに何用だ!」
「そろそろお昼だけれどおかずが足りない」
おいポニテ。
「そんな事で起こしたのか」
「絵麻が頑張っているけれど今のところ獲物はメゴチ三匹だけ」
「まだ暑いから昼飯パスで寝るというのは」
「紅莉栖、障害解除魔法お願い」
「わかった、起きる!」
仕方無い。快適な寝袋から這い出る。
「着替えた方がいいんじゃない?」
私は今はTシャツにジーパン姿。
海に出る服装ではない。
「大丈夫、海に入る気は無いから問題無い」
「それで獲物は捕れるの?」
「大丈夫」
外に出る。
もあっと襲ってくる夏の暑さ。何で私はこんな地獄にいるんだ。
まあ考えても仕方無い。
「何か用意した方がいいものはありますか」
百合亜さんが聞いてくる。
「取り敢えず装備テントに行って用意してくる」
「見張りとしてついていくね」
ポニテ、ツインテ、百合亜さんを従えてゾロゾロと装備テントへ。
「それにしてもあのテント涼しかったよね。どうやったの?」
「寒冷魔法を弱め広範囲で持続的に使っているだけだ。慣れると温度調整と時間調整も出来る」
「クーラーいらないね」
「便利です」
そんな事を言いながら装備テントへ。
「イラッシャイマセ、何カオ探シデスカ」
グラード、もとい佐和さんがいた。
「何でここにいるんだ」
「砂浜で童心にかえって砂の城作りをやっていたら花梨先輩に怒られた。罰としてこのテント内に閉じ込められた」
「出られないの」
「そこから外に出ても、出た先がこのテントの中だったりする。私限定で空間歪曲をかけられたみたい」
相変わらず花梨先輩無茶苦茶するな。
でもその前に一応聞いてみよう。
「参考までに作ろうとした砂の城はどんな感じだ」
「地上三階地下二階、鐘楼付きの地下牢付き。RPG基本形のお城を現物大でデッキと城壁含めて」
「うんそれはグラードが悪い」
こういう奴だ。
でもまあ仕方無い。前世のよしみで助けてやるか。
「花梨先輩、真っ当に獲物取りさせますから佐和さん借りて連れて行っていいですか」
姿は見えないけれどあの人のことだ、これで聞こえるだろう。
「わかりました。くれぐれも非常識な土木作業をさせないようお願いします」
案の定声が返ってきた。
何処から聞こえたかはよくわからないがまあいいだろう。
「そんな訳でグラード、獲物取りを手伝ってくれ」
「わかった、で、何を作ればいい?」
「作らないでいいからバケツ人数分とトングを五本持ってついてきてくれ」
「あいわかった」
そんな訳で一行の人数は五人に増える。
ただ砂浜は歩きにくい。足を取られて疲れる。
疲れるのは私の流儀ではない。
「面倒だから移動魔法使うぞ。短距離移動!」