第十三話 合宿初日 その1 テント設営
ここ文化研究会の合宿は基本的にいつもの実験準備室から始まる。
全員集合した後、花梨先輩が準備室の扉を閉め、再び開く。
開いた先が目的地、今回は真っ青な空と砂浜、そして海が見えた。
降りてみると少し岩交じりの砂浜。
海の向こうには大きな島か何かが見える。
日差しは背後からで、じりじりというか無茶苦茶暑い。
「まずはテントを設営します」
花梨先輩がそう言って、どさどさとテントやポール、ビニールシート等を砂の上に置く。
袋等にはそれぞれ『明神学園』と大書してあった。
どうも学校の備品を借りてきたようだ。
「基本的にどれも同じ形・大きさのテントです。本体とポール、下に敷くシートとを取って組み立ててください。場所は各班まとまって平らな場所に張って下さい」
と言う事は毎度お馴染みの面子と一緒に張る必要がある訳か。
左右を探すと百合亜さんが本体とポールを手に取ったのが見えた。
歩いて行く方法を見ると壁とかポニテとかいる。
あの辺だな。
極悪女やも一足先に一セット持って歩いている。
「この辺でいいだろう。そこそこ平らだし広いし」
壁が小石とかをどけながら足で砂を少し平らにしている。
だが手動では甘いな。
「ちょっと逃げてくれ。土魔法で整地する」
「わかった」
壁やポニテが予定地から退いたので土魔法を一発。
「整地転圧!」
元々は野営地を作ったり畑を調えたりする土移動魔法だ。
ここは砂なので土相手より簡単。
あっという間に綺麗に平らにされ小石とかも除去された場所が出来上がる。
「そう言えば土魔法なんてあったね。建築屋のドワーフ何かがが使っていたな」
ドワーフと言えばグラードはどうしているかな。
ちらりと見てみる。
「整地転圧! 土壁形成!」
テント設営でなく本格的土木工事をやっていた。
土壁が下からどんどんそびえていき、鐘楼のようなものがついた西洋風小型城砦ふう建造物が組み上がっていく……
花梨先輩が珍しく慌てた感じで走って行った。
「佐和さん、熱意はわかります。ですが今回は他人の土地ですしキャンプということで。ですので本格的建造物の建立は控えて下さい」
「折角ですから、台風でもびくともしない頑丈な城砦程度は……」
「ひ・か・え・て・く・だ・さ・い!」
「はあい……」
うん、相変わらずだ。
見なかった事にして作業を再開する。
「とりあえず平らにしたからビニシを敷いてペグで固定しよう」
「……そうだね、アレは見なかった事にして」
「ああ」
皆さんあの城砦風構造物を見てしまったようだ。
まあ気にしない事にして続ける。
テントそのものはよくあるドーム式テントだ。
組み立てるのはとっても簡単。
出入口をそれぞれ揃えて無事完成。
更に荷物置き場からマットと寝袋を持ってきて、テント内に入れておけばOKだ。
「こんなものかな」
「そだね」
「じゃあ取り敢えず個人の荷物をそれぞれテントに入れてと」
真っ当なキャンプ的荷物整理をやっている間もグラードの魔力は感じている。
城砦を崩したのは確認したがまだ何かやっているのは間違いない。
奴はよくも悪くも『極めすぎたドワーフ』で鉱山作業から鋳造鍛造、戦闘に建設建築土木工事までドワーフ的技能を完璧以上に極めていた。
転生してもある程度その辺は変わらないようだ。
そんな事を思いながら一人きりのテント内でマットを広げシュラフを設置。
いつでも寝れる体勢にしてから外に出る。
城砦は無事取り壊され、砂浜と草地の境目付近に綺麗にテントが並んでいる。
一見普通に立てたように見えるがうちと反対側、一番右端のテントに微妙な違和感を感じた。
目で見てもわからないが魔力的に何かおかしい。
中程のテントから花梨先輩が出てきて大きなため息をついた。
一番右側のテントに向かって歩いて行く。
「佐和さん、地下室も無しで願います」
「これくらいいいですよね。他から見てもわかりませんし。それに涼しいしいざという時は……」
「お・ね・が・い・し・ま・す!」
「はあい……」
佐和さんこと元グラードはがっくりした様子でテント内へ戻っていく。
それを確認した花梨先輩が大きな大きなため息をついたのが見えた。
うん、苦労しているな、花梨先輩。
まあ花梨先輩いつもは無敵だし、たまにはいいかもしれない。
私は生温い目で見守ることにした。