第十話 真の目的 その3 花梨先輩の訓練
そしてここからの訓練は危険なので基本防護壁を展開した人工空間で実施。
勿論訓練とは小銃をぶっ放しながら魔法を付加する訓練である。
「汚物は消毒だ! ヒャッハー!」
壁はAKを連射しながらも身体がぶれることなく安定している。
もっともその台詞はどうかと思うけれど。
沙羅先輩や英美里も大丈夫なようだ。
この辺りは槍使いで重量物を魔力で振り回す事に慣れている。
だから連射でかかるとんでもない反動もうまく魔力で抑えているのだろう。
問題は極悪女、杏奈先輩、紅莉栖先輩、百合亜さんの四人だ。
下手すれば単射でも反動で姿勢を崩してしまう状態。
仕方無い。
「百合亜さん、銃は腕力で支えようとしない。基本は構えた後に右腕、肩、腰、脚の順番に意識して魔力を通して、その魔力で支える形にする。魔力のイメージは私は強くて少しだけ撓む金属の板バネをイメージしている。まず魔力を通してそのイメージを作ってから引き金を引いてみてくれ」
「わかりました」
「何を百合亜ばっかり」
「遙は百合亜には優しいよね」
「理澄達にも聞こえるように言っている」
「はいはい」
「あと脚をもう少し開いて。膝も少し曲げた方がいい」
何やかんや言いながらも皆さんアドバイスを聞いて真面目にやっている。
反動で吹き飛ばされていた四人も少しましになってきたようだ。
さて、私も練習しようかと思った時だ。
花梨先輩がにこにこしながら私の方を向く。
「遙さんはAKでは物足りないでしょうから特別メニューを用意しました。こちらの銃をお使い下さい」
嫌な予感がする。
恐る恐る花梨先輩の指す方向を見てみると、確かに銃に分類されるものがあった。
カービンタイプのAKよりも何倍も何倍も大きくて重そうだ。
長い長い給弾ベルトに大きくていかにも威力がありそうな弾がひっついている。
「これを手持ちで撃てとおっしゃるのですか」
本来は車載とかヘリ搭載とかそういうサイズだろうこれは。
「一応米軍では歩兵が使用する銃です。三人がかりになりますけれど」
M2重機関銃である。
本格的な装甲車以外なら大型車だろうと一発命中だけで四散させる代物だ。
コンクリ製の塹壕や壁等もぶち抜ける安心の大型兵器。
だが当然ながら非常に大きくて無茶苦茶重い。
「もう一度お尋ねしますが、これを一人で持ち運んで撃てとおっしゃるのですか?」
「遙さんの訓練ならそれくらいは必要でしょう。弾速も威力も気持ちいいくらいですから是非とも試してみて下さい。一応QCB仕様の最終改良版です」
人を何だと思っているのだ。
まあ練習になりそうだしやるけれどさ。
案の定筋力だけでは持ち上げるだけでやっと状態。
魔力で支えて何とか振り回せるかなというところだ。
しかも長くて重い給弾ベルトがとっても邪魔。
「本来は三脚つかって使う代物だろ。何で手持ちできないのに肩掛けスリングなんてついているんだ?」
「お兄ちゃんなら手持ちで肩掛けで使用してくれると思って」
もうやだ、こんな妹!
まあやるけれどさ。
腰だめというか棒術の横無双構えのように右脇に無理矢理抱える。
仮想敵の魔法壁に向けて、セフティ解除して、撃つ。
ズドドドドドドドドドドドドドドッ!
冗談みたいな反動と発射速度。
私でも魔力をのせるがやっとの重くて速い銃弾。
気を抜くと飛んでくる空薬莢。
ただ確かにその分威力は桁違いだった。
第一の騎士の固さという壁が見事に半壊する。
「流石お兄ちゃん!」
「だからそれはもういいから!」
「面白そうだな、私もやってみていいか?」
壁が興味を示す。
「絵麻さんはまだやめた方がいいと思います。こんなの人力で使う代物ではありませんから」
おい花梨先輩! 私に使わせておいてその言い分は無いだろう!