第十話 真の目的 その1 花梨先輩の目算
「取り敢えず今現在の皆さんの力がどれ位通用するか、皆さん自身で確認してみて下さい」
花梨先輩の台詞と共に、私達から見て武器が並んでいるのと反対側に部屋が大きく伸びる。
更に二十メートル位先にわざとらしい白色の壁が出現した。
「この魔法壁は第一の魔物ドミナスの防護魔甲と同じ強度を持っています。遙さん、念の為確認してみて下さい」
どれどれ。
「魔法防護壁・片側適応!」
防護魔法を私自身含むこちら側にかけてから攻撃魔法を唱える。
「絶対氷結槍・最大加速・誘導追加!」
現時点の私の最強魔法のひとつだ。
氷の槍は魔法壁に突き刺さるとともに大爆発を起こす。
防護壁から向こう側が一気に霧混じりの爆発で見えなくなった。
「除去!」
これは花梨先輩だ。
霧混じりの空気が晴れて壁が見えるようになる。
壁には僅かな穴が開いていた。
しかし貫通はしていない。
「残念ながら今の私の魔力ではここまでだ。第一の騎士にすら大した傷を負わせる事が出来ない」
「皆さんそれぞれ最大魔法をぶつけてみましょう。ただし遙さんが防護壁を張っているのでこの位置から使用出来る魔法でお願いします」
つまり私の張った魔法防護壁をそのまま使う訳か。
「破邪強襲槍!」
「爆縮弾!」
「風多重衝撃弾!」
「無常波連衝!」
それぞれなかなか強力な技なり魔法だ。
しかし視界が開けた後、あちこちからため息が出てしまう。
「ヒビすら入っていない……」
「私もです」
「だめだこりゃ」
「……」
仮想敵である魔法壁には小さな傷すら入っていない状態だ。
「これがそのままの状態の今の私達の実力です。しかしがっかりする事はありません。例えばこんな方法があったりします」
花梨先輩は背後の武器からAKのカービンモデルらしい小銃を取る。
「勿論この銃単体ではあの敵には効果がありません」
花梨先輩はAKのセフティを外し、腰だめに構えて引き金を引く。
ダダダダッ!
数発弾が発射されたが壁に当たって跳ね返って落ちた。
勿論壁にはヒビすら入っていない。
「しかしこの武器に魔力を加えると威力が変わります。これは慣れている遙さんにお願いしましょう」
「銃の扱いなんてやった事は無いぞ」
「銃弾に魔力をのせるのは出来るでしょう」
そう言って花梨先輩は私にAKを渡す。
仕方無い。私はAKを構える。
構え方は花梨先輩がやったのの見よう見まねだ。
反動が来ないよう魔力でAKを固定。
引き金を引くと同時に魔力を銃弾にのせ、加速させる。
ダダダダダダダダダッ!
一気にかなりの数の弾が出た。
その全てが風魔法と金魔法で威力を高め魔法壁に迫る。
何とも言えない衝撃音と砂煙。
数秒後、晴れた視界に見えたのは削れて貫通痕が出来た魔法壁だった。
おーっという歓声が上がる。
「この通り、現代武器を併用することによって威力を倍増させる事が出来ます。勿論弾の速度に魔法をのせるなんて技は今は遙さんしか出来ないでしょう。しかしこれは練習すれば皆さんでも出来る技術です」
なるほど、確かにこれなら威力を数倍に増やすことが出来る。
かつて百合亜さんに小石を使って教えた方法の強化版だ。
この練習は効果的な魔法訓練にもなる。
ただ問題がひとつ。
「皆で練習するほど銃弾の余裕があるんですか」
「ですから入手性のいいAKにしたんです。紛争地域に行けばいくらでも転がっていますから」
おい花梨先輩! 洒落にならない事を言わないでくれ!