第十話 真の目的 その1 花梨先輩の作戦
「しかし遙はあんな恐ろしい存在を倒したのか」
話がやっと怪しい方向から変わった。
「いや、第一の騎士や第二の騎士はさっき見たあれほど強大ではなかった。それに今の私の魔力は前世の五割あるかどうかだ」
つまり現状では勝ち目はない。
「それじゃどうするの」
知っているとすれば私ではない。
「花梨先輩、そろそろ教えてくれてもいいだろう。どういう作戦で、どうやってあの第三の騎士を、そして第四の騎士と大魔王を倒すつもりなんだ。既にそれくらいは考えているだろう」
「ええ」
花梨先輩は頷く。
「まず作戦のひとつは私達の魔力の強化です。この世界は魔力に乏しいため、普通に魔法を使うだけでもアトラ世界の数倍の力を必要とします。故にこの世界で訓練を続ければ、かつてアトラ世界で身につけていた魔力を越える事は難しくありません」
なるほど、高地トレーニング理論みたいなものか。
「そして作戦のもうひとつ。それはこれから案内します。皆さんお立ち下さい」
何だろう。
私達は立ち上がる。
「これから私の武器庫へご案内します」
花梨先輩の台詞と共に空間移動魔法が発動する。
到着したのは白い巨大な部屋だった。
体育館よりさらに広く、天井壁床全てが白い空間だ。
「ここは私が魔法で作った人工空間です。ここに紛争地域等から集めた兵器を保存しています」
巨大な戦車、それよりは小さいが明らかに戦車と思われる車両、飛行機型の代物、各種銃器類がごっそりと置かれている。
「これらの武器でもそのままでは魔王級の敵には効きません。しかしこれら武器の攻撃に魔力をのせてやれば魔王級の敵とも充分戦えるでしょう」
主力戦車に無人戦車に……
「でもこんなもの操縦できるのか?」
「最新型ですのでほとんど自動化されています。魔法と組み合わせれば車外からも操縦可能です」
「何で戦車がメルカバⅦ型なんだ?」
「車内がそこそこ広いので全員が乗って移動出来ますから。自動装弾装置がついたメルカバはⅦ型以降ですので」
「無人攻撃機まである」
「手に入れるのは苦労しました」
「なぜ小銃がAKなんだ!」
「入手性の問題です」
おいおい、どうやって手に入れたんだ!
それに世界観が変わってしまうだろう!
まあ確かに有効だとは思うけれど。
「でも大型兵器は第三の騎士には使えないな。何せ場所が日本の洞窟の中だ」
「ええ。あの存在は小火器までの武器と私達自身の魔法戦闘で倒さなければなりません。それでなくては以降の敵など相手に出来る筈もありませんから」
なるほど、それならばだ。
「ならこれからは毎日が特訓か」
何せ実力で第三の騎士に勝たなくてはならないのだ。
授業等出ている暇はないだろう。
「いえ、皆さんはあくまで普通の高校生生活を送っていただきます。訓練は今まで通り放課後と合宿の時のみとします」
なんだと!
「私と違って皆さんはこの世界の人間でもあります。更に言うと第三の騎士は来年初頭に復活しますのでそれまでに倒さなければなりません。最後の騎士と大魔王は春休みに戦う事になります」
なんだって。
いきなりそんな事を言われても……
「間に合うのか」
「ええ。充分に間に合うはずです。むしろ無理に魔法を使うと身体に反動が生じる危険性もあります。この世界は魔力に乏しいので。
ただ、今までと訓練内容は少し変える予定です。それはご承知の程よろしくお願い致します」