第七話 楽園追放 その2 眠りの園から
着替えて部屋に戻ると誰もいなかった。
さて、今のうちに寝る場所の確保をしておこう。
この部屋の構造は和室十畳と和室六畳の二間。
それに幅半間の次の間がついている。
私は布団とシーツのセットを押し入れから出し、狭い部屋の次の間へ持って行く。
置いてある椅子とテーブルをどかし、広い方の次の間へ。
代わりに出来た二畳ほどの細長いスペースに布団を敷く。
荷物も全てここに移動させる。
これで狭いながらも個室が完成した。
次の間と和室を仕切る障子を閉めてやっと一息。
さて、それでは睡眠リゾートへと旅立つとするか。
寝さえすれば全ては救われるのだ。
そんな訳で睡眠導入魔法を自分にかける。
お休みなさい。
Zzzzzzz……
◇◇◇
うっ、呼吸が苦しい。
しかも全身動けない。金縛りだ!
この合宿所、ひっとして霊道とかそんな場所に……
そう思ってちょっと経ったら突如動けるようになった。
目を開けると見覚えある顔がすぐそばにいる。
ポニテだ。
「ほら、こうやったらあっさり目が覚めるんだよ」
おいこらポニテ何をした!
そう言いたいところだが何をしたかはわかっている。
布団の上から抱きついて、私を固化(強)にして呼吸困難で起こしたのだ。
殺す気か、まったく。
まあツインテがいるなら死ぬ一歩前からでも助かるのだろうけれど。
『起こす必要は無いだろう、まだ外は暗いし』
何せ窓際の次の間だから外の明るさはよくわかる。
ちなみに魔法音声なのはまだ固化から完全回復していない為だ。
「だって折角の合宿だよ。色々やらないと楽しくないじゃない」
『勝手にやってくれ。私は寝る』
「窒息死するのと参加するのとどっちがいい?」
おい洒落にならないぞそれは。
布団ごとどっかに短距離移動かけて逃げようか。
付近を走査するが適当な場所は見当たらない。
何せ男子入浴中の風呂場までやってくる連中だ。
仕方無い、起きるとするか。
身を起こすとふっと甘いような香りを感じた気がした。
見ると全員風呂に入った後らしくパジャマなんて着ている、ってパジャマだと!
合宿と言えば寝間着はジャージだろう!
そんな薄地の布の服なんてとんでもない。
しかもシャンプーの香りとかまで飛び交っていて……
ばたっ! 固化した俺は再び倒れる。
かろうじて固化(中)なのでなんとか呼吸は可能。
これはまずい、なんとかしないと。
あのツインテの障害除去、あれを開発しないと命が危ない気がする。
「あ、また寝た。ならまた起こすぞお~」
『やめてくれ! 固化して動けないだけだ! この部屋で正常稼働するのは私には無理だ!』
魔法音声でそう伝えつつ、頭の中で必死に考える。
あの障害除去魔法は毒・麻痺解除魔法の応用で出来るだろうか。
『毒・麻痺解除!』
効く様子は無い。別の系統の魔法のようだ。
『頼む紅莉栖先輩、いるなら教えてくれ。今朝かけてもらった障害除去、あれはどういう魔法なんだ。それを知りたい』
「教えてもいいですけれど……」
「まずは遊んでからだよ」
ポニテの声がかぶさる。
少し遅れて。
「障害除去!」
お、楽になった。これで眠れる。
「さあ効いたのはわかっているから起きるのだ! でないと窒息死させるぞ!」
このまま寝るのはポニテが許してくれないか。
やっぱりそうなるとは思ったのだが。
仕方無く私は身を起こす。
うん、空気成分含めて女の子成分ぎっちりだけれど魔法のおかげで何とかなる。
「さて、まずはカードゲームマラソン、UNOから行くよ」
仕方無く私は布団を出て和室の方へと移動を開始した……