第七話 楽園追放 その1 風呂場から
この女子ばかりの場所での合宿は非常に辛い。
食事も席が出入口近くの端だからなんとか固化しないで食べられる程度。
でも当然味を意識するような余裕は無い。
ささーっと食べて洗面所へ魔法移動して食器等を洗い、魔法で食器置き場へ戻す。
よし、一人になれる場所へ逃げよう。
幸い今回の合宿所、風呂が二箇所ある。
広い方を女子専用にするから狭い方は使っていいと言われている。
そんな訳で自分の荷物から着替えとタオル、ボディシャンプー等を取りだして、例によって魔法移動で風呂へ。
『男子』と書かれた札があったので念の為入口にかけておく。
電気も全部つけて入っているぞとわかるように。
さて、まだ浴槽にお湯が入っていないので蛇口を捻る。
ちょっと褐色に近いお湯がドバドバと入り始めた。
のんびり身体を洗いながら女子のいない自由を謳歌する。
ああ平和だ。
ゆっくり髪まで洗ってもまだ浴槽のお湯は入れるほどの量では無い。
仕方無いので魔法でお湯を足す。
この辺は初歩の水魔法と熱魔法だ。
水の量がかなり多いのでそれなりの魔力は必要だけれども。
寮では味わえない足を伸ばせる風呂で大きく伸びをうつ。
狭い風呂と言っても4~5人は余裕サイズ。
両手両足を思い切り伸ばして全身で浴槽を占拠。
うん、これは快適、しばらくここに籠城してもいい位だ。
魔法でお湯の温度を長湯に適したぬるめに変更。
大きな窓を網戸状態にすると外の気持ちいい風が入ってくる。
うん、極楽極楽。
思わず鼻歌が出てきそうになるくらいだ。
流石に大声で歌う度胸は無いから小声で、ナユタン星な曲を我々はと歌い始める。
調子に乗って数曲目、PVなら目が光ってくるあたりだった。
「この風呂を使っているのは遙か?」
雰囲気を壊す台詞が廊下側から聞こえる。
これは壁の声だな。
「ああ、男子入浴中だ」
「浴槽とかも使える状態?」
「ああ、いい湯加減だ」
しかしなんでそんな事を聞くのだろう。
「そっか、ならちょうどいいね」
???
何がちょうどいいのだ。
しかも最後の声は壁の声じゃ無いぞ。
脱衣場に三人ほど入ってくるのが見えた。
ちなみに脱衣場は風呂からすりガラスである程度見える状態。
身長的に一人は壁、他は今のところ不明だ。
しかし何故脱衣場へと思ったら、壁らしいのがいきなり服を脱ぎ始めた。
「おいちょっと待て! 私が入浴中だ!」
「女子の方の風呂、まだ浴槽にお湯が貯まっていないから入れないんだよ。でもここなら浴槽小さいから先に貯まっているんじゃ無いかと思ったんだ」
この声、三人のうち一人はポニテと確定。
ならもう一人はツインテだきっと。
「こっちは魔法でお湯を足したんだ。向こうも誰かの魔法でそうすればいいだろ」
「やったけれど浴槽が広すぎて魔法ではお湯が貯まらないんです」
「それに遙なら一緒に入っても固まるだけだから実害は無いだろ」
おい何だその発想は。
もっと気を確かに持ってくれ。
すりガラス越しに見ると既にに下着を抜いているモーション。
そう言えば上半身は既に肌色だ。
これは一刻の猶予も無い。
スキャンして取り敢えず屋上と周辺に誰もいない事を確認。
「短距離移動魔法!」
全裸のまま屋上へと移動。
「物質転送!」
脱衣所に置いた着替えとタオルを籠ごと取り寄せる。
そそくさと身体を拭きながら思う。
壁とポニテとツインテ、許すまじ!