第六話 何気に皆さん結構強い その1 訓練開始
「まず赤塚さんは魔法の連射の練習からだ」
全員の面倒を一度に見るわけにはいかないので、最初は赤塚さんから。
まずは予呪文という方法論について説明する。
「つまり呪文を完成一歩手前のところで留めておくのですね」
「そう。最初は呪文を留めて、そして打つ。その二段階に分けて練習。それが出来るようになったら二発貯めて二発打つ。そんな感じで練習」
「留める呪文は別の種類の方がいいですか」
「最初は同じ呪文で練習した方がらくだろう。初歩の空気弾程度でいい。予呪文を貯める練習だから威力は小さくていい」
「わかりました」
やっぱり赤塚さんは素直でいい。
しかも飲み込みが早いからこれだけ教えればある程度は出来るようになるだろう。
「その予呪文って私達でも使えるのか」
赤塚さんへの指導を見ていた勝田さんがそんな事を尋ねる。
「魔法を使えれば誰でも出来る筈だ。本当は敵と接近して戦う格闘型の戦士の方が必要性は高いんだがな。無詠唱魔法でも似たことは出来るが詠唱呪文の予呪文の方が色々技を仕込みやすい」
「攻撃魔法だけでなく治療魔法等も使えるのか」
「どんな魔法でも使える筈だぞ。治療魔法なら魔力込みで予呪文にしておいて、必要な時に対象人数や効果を選択するなんて事も可能だ」
「わかった」
そう言えばこの面子、ツインテ先輩という補助魔法・回復型がいる。
補助回復型の呪文が早いと戦闘時には非常に楽だ。
私はパーティを組んだ事が無い分、常に回復と状態異常対策の魔法は予呪文を込めていたな。
何せソロで行動不能になったらそのままサヨナラだから。
「私達もその予呪文を練習した方がいいだろうか」
勝田さんがそんな事を言う。
「いずれは練習した方がいいが、その前に格闘戦の方を確認しよう。そんな訳で練習だ。取手先輩、まずは模擬刀を貸してくれ。両手剣タイプがいい」
「遙って魔法メインの戦士じゃないの?」
「ソロメインだったから基本何でも使える」
壁は長い道具入れをごそごそさせて模擬刀を引っ張り出す。
「これでいいか?」
「ありがとう」
一応礼を言って軽く構えて見る。
うん、しっかり金属製の本物並みの重さがある。悪くない。
「それではまず勝田さんから。得物は槍でも刀でもいいが一応模擬試合用を使ってくれ。魔法も使用可能、ただ本気魔法だと洒落にならないから当たったのがわかる程度で頼む。ただ格闘戦そのものは本気でいい。一応治療回復魔法を一通り持っているから即死攻撃以外は何とかなる」
「わかった」
「いきなり実戦形式!」
ポニテが驚く。
「防具は?」
「大丈夫。今はまだ必要無い」
「いいのか、こっちは本気で打ち込んで」
「もちろんだ」
私自身はこの神無き世界で剣を振るった経験は全く無い。
でもかつていたフィルメディでは刀も槍も使っていた。
そしてここ神無き世界での魔法の効きから予想できる事がある。
ちょうどそれを試すいい機会だ。
勝田さんから五歩程離れた場所で剣を中段に構える。
勝田さんも模擬槍を手に取って八相に構えた。
「よし始めよう。いつでもいい」
「では遠慮無く」
いきなり外連味の無い突き攻撃で来た。
剣と槍との間合いを考えれば正しい技だ。
斬るより突く方が威力も大きいしモーションが少ない分早い。