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プロローグ 入学式の放課後

 突然だが最高の贅沢とは何だろうか。

 酒池肉林とか旅行とか人によって色々意見があるだろう。

 だがかつて時間を惜しんで勉強し研究し続けてきた私の意見は“惰眠”だ。

 ただ時間を無駄に使って寝まくる。

 この時間の浪費こそ最高の贅沢だ。 


 そんな訳で高校入学初日、真っ直ぐ寮の自室へと帰ろうとした私に第一の障害が立ち塞がった。

 昇降口先から延々と続くサークル勧誘の列である。

 勿論私はサークル等という時間の無駄遣いに参加する気は無い。

 さっさと寮の自室に帰って惰眠を貪りたいからだ。

 だが昇降口の外にずらり並んだ上級生は一人も逃すまいと餓狼のような目でこっちを見ている。

 そう言えば先生も言っていた。

「この学校は何も無いのでサークル活動が大変盛んです。ただ生徒数が少ないこともあり、各サークルの新人争奪で毎年色々問題が起きています。もし無理矢理加入させられたとかいう事がありましたら遠慮無く職員室まで相談に来て下さい」


 だが私は他の人間と違う。

 大魔法こそ神無きこの世界では使えない。

 でも人間個人の魔力と意志で起動させる一般魔法は使用可能だ。

 そんな訳で私は昇降口を出る寸前、魔法二つを詠唱する。

無意識無関心(ダム・ダメド)!」

肉体強化(ヴラヴル)!」

 慣れもあって発音はフィルメディ式だが効果は確認済みだ。

 唱えると同時に歩き出し、勧誘の混乱が起きている中を一気に通り抜ける。

 多少身体がぶつかったりもするが魔法の効果で誰も気づかない。


 学園事務棟付近まで来たところで一息ついた。

 昇降口から約五十メートル、流石にここまでは勧誘の上級生もいない。

 多少人が見ていたところで解除しても特に誰も気づかない、その筈だった。

魔法解除(バラ)

 かけていた魔法を解除する。

 さて、後は夕飯と朝食の弁当を厚生棟で買って惰眠を貪ろう。

 そう思って数歩歩いたところだった。


「見つけた」

 不意に前方で女子の声がしたような気がした。

 でも前には誰も見当たらない。

 それに私がそう言われるような事は思い当たらない。

 だから無視して更に一歩踏み出す。出した靴先が何か硬い物に当たった。

 思わず転びそうになり前に手を伸ばす。

 手がそのまま何かに触れた。

 見ても何も無いが、微妙に柔らかい壁のような物がある。

 おかげで転ぶのは免れたが何だこれは。


「何だこの壁は」

「悪かったな」

 ちょうどその壁から声がした。

 同時にふっとそこにうちの制服姿の女子が出現する。

「確かに私は無い方だが、思春期女子の胸を触っておいて壁は無いだろう壁は」

 転びそうになって思わず出した両手が思い切り彼女の両胸に当たっていた。

 それも両手のひらがどんぴしゃで両胸に当たっている。

 私は焦った。

「済まない。故意じゃ無いんだ。前にいることに全然気づかなかった」

 手を引っ込めてそう言おうとした。

 でも実際は言えずに固まっている状態だ。


 私には女性経験がほとんど全く無い。

 今世では母と妹以外には縁が無い。

 更に前世では完全に女性と隔てられた環境にいた。

 一流の魔法使いは異性厳禁なのだ。

 童貞は三十過ぎると魔法使いになれると言われているがそれは間違い。

 童貞か処女で無いと一流の魔法使いになれない。

 少なくともフィルメディでは。


 おかげで記憶が目覚めて以来更に女性が苦手になっている。

 でも確かに両手の先の感触、ほのかに柔らかいし体温も感じる。

 いつまでも触っているのは問題だとわかっている。

 その筈だが初体験の事態に身体が固まって動けないし声も出ない状態だ。

「いつまで触っているつもりだ!」

 そう言われてやっと手が動いた。びしっと体側につけたきおつけ! の姿勢になる。


 私が壁扱いしてしまった彼女は少し怒ったような笑ったような微妙な表情をする。

「これは乙女として許せない事案だな。代償は払ってもらおう。覚悟しろよ」

 えっ、何を!

 そう思った瞬間、ふっと軽い浮遊感がして風景がぼやけた。

 これが何か私は知っている。

 短距離移動魔法(クワィ・ヌル)

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