第五話 先輩はお見通し その3 練習前のミーティング
「紅莉栖ちゃんはね、人や自分の能力や状態を魔法で見ることが出来るんだよ。状態確認表って言ってね」
そういう事か。
「悪かったな、真偽魔法を使うというのは花梨先輩のブラフだ」
壁からはそんな説明も。
やられた! そう思ってももう遅い。
「さて、この班は他の班と違って全員、既にその辺の魔物相手には充分に勝てる程度の力を持っている。明日の午前は昼食担当になるからそれを除いて明日の午後いっぱいまで自分の長所を鍛える。そして明後日は実際に魔物狩りをする予定だ」
おいおい壁ちょっと待った。
『いきなり魔物狩りなんて危ないだろう』
例によって固化しているので魔法音声で抗議する。
「遙がいれば問題無いだろう。壁呼ばわりされた事は別として、遙の魔法戦闘力は充分に評価はしているんだ」
まだ壁の件を根に持っていやがる。
「松戸にそんな実力があるの?」
極悪非道女は懐疑的だ。
「それは間違いないです。前世でも魔界四騎士を一人で倒せるくらいの魔法戦士だったようですから。ただ目覚めつつある魔王の力を自分の目で確認した結果、勝ち目がないと判断して以降は魔法開発と他の勇者捜索に身を転じたようです。でもその実力は今でも残っています」
ツインテの魔法、あんまりだ。私が隠していた事も全て見えている模様。
「私が練習用の槍を余分に持っているから後で模擬戦をして貰えばいい。理澄は攻撃も魔法も全部ありで遙は一切攻撃無しで。私もやるつもりだ」
「面白そうだな」
勝田さんまで話に乗ってきた。
おいおい勘弁してくれ。
『でもそこまでして訓練する必要があるのか? 私にはこの面子、この前程度の魔物相手なら充分な実力があると思うのだが』
これは私の本音だ。
二年生はもとより極悪非道女も勝田さんもそれなりの魔力を感じる。
赤塚さんも中距離以上なら遅れをとることは無いだろう。
はたしてこれ以上強化する必要があるのだろうか。
「この前くらいの魔物なら遙一人でも充分だろうけれどさ。花梨先輩によればもっととんでもない魔物が出てくる予兆があるんだと。明後日の魔物狩りである程度それはわかるだろうって話だ」
おいおい。
「そんな魔物狩りなんて行って大丈夫なんでしょうか」
赤塚さんが当然の心配をしている。
「遙もいるし花梨先輩も当日は同行するそうだ。危険があったらその時点で撤退する。花梨先輩の次元魔法は魔物でも妨害不能なレベルらしいから心配しなくていい」
確かに花梨先輩の次元魔法は冗談じみた威力がある。
次元魔法に関してだけなら魔界四騎士レベルより遙かに上だ。
だが何故か花梨先輩の次元魔法は何処かで憶えがあるような気がするのだ。
直接知っている訳では無いのだが、何か何処かで似たような魔法を感じたような。
まあ気のせいかもしれないが。
『あと私の体質では全員の面倒を見るなんて不可能だぞ。固化するからな』
「それは大丈夫です。障害除去!」
何だその魔法は! 一等魔法技術士である私さえ知らない魔法だ。
「もう固化が消えているはずです。大体八時間前後はこれで大丈夫な筈です」
お、確かに身体が動く。
「これで訓練には支障が無いはずです。そんな訳で午後はまず赤塚さんに訓練のアドバイスをして、それから格闘系のみなさんと模擬演習ですね」
「防具と模擬刀、模擬槍は持ってきたから心配するな」
残念ながら固化状態を理由に寝て過ごす訳にはいかない模様だ。