第五話 先輩はお見通し その1 悪夢の始まり
五月三日金曜日朝九時二十九分。
集合場所であるいつもの理科実験準備室に入る。
「これで全員揃いましたね。それでは移動します」
花梨先輩がそう宣言。
「それではそちらの扉を開けて下さい」
えっ?
開いてみると向こう側が廊下では無い!
眩しいくらいの日差しが照りつける屋外だ。
出てみると何処かの駐車場という感じの場所だった。
横にいかにも元ペンションらしい若干ファンシーな建物がある。
次元魔法で強引に理科実験準備室と他の場所と直結したようだ。
相変わらず花梨先輩の次元魔法はとんでもない。
「それではご自分の部屋に荷物を置いて、十時に再集合です。再集合の場所は一階の食堂になりますので宜しくお願いします」
パンフレットを見る限り、私は一人部屋だ。
まあ他は女子だから当然の配慮と言えよう。
ただこの合宿、顧問の先生も付かないし不安だらけだ。
まずは部屋に移動。
女性陣と狭い階段や廊下でくっつくのは避けたいので短距離移動魔法で移動する。
遠視魔法を起動。二階の二〇八号室を探す。
確認して部屋の玄関に移動。靴を脱いで部屋へ。
入った瞬間嫌な予感がした。
部屋そのものは悪くない。和室六畳と広くは無いが窓も大きい角部屋だ。
ただ問題は一方の壁。壁というか全面が襖になっている。
多分これ、広げると隣の部屋と一体化する奴だ。確認する気は無いけれど。
隣の部屋の奴が余計な事をしないように祈りつつ荷物を置いて一休み。
女子がいない空間は気楽でいい。このまま集合ぎりぎりまで仮眠しよう。
そう思った時、襖の向こうにガヤガヤという気配を感じた。
どうやら隣の部屋に女子が入ってきたらしい。
「五人で十畳か。ちょっと狭いな」
「ねえ、ここの襖を開けたらもっと部屋が広くなるんじゃない?」
これは天敵ポニテの声! おい馬鹿やめろ!
『固化レベルⅢ!』
とっさに襖に魔法をかける。
「あれ、開かないよ」
よしよしと思った時だ。
「魔法固定されているね。そんな訳で魔法解除!」
うっ! 解除されてしまった。
勢いよく襖が開け放たれる。
「これで広くなったな」
「あ、遙だ。やっほー」
ポニテに固化(中)をかけられる。
正確には寝ている上に馬乗りにされたのだ。
最近はこれくらいやられても何とか呼吸は出来るようになった。
己の進歩がとっても悲しい。
「六人で十六畳か。これならだいぶましかな。窓が多くて明るいし」
極悪非道女がそんな事を言う。
ちなみに隣の部屋の面子はポニテ、ツインテ、極悪非道女、赤塚さん、勝田さん。
壁とラスボスがいなくてましだと思うべきだろうか。
ポニテと極悪非道女だけでもう勘弁してくれ状態なのだけれど
『こら! 男女同室なんてあり得ないだろ!』
固化しているので魔法音声で抗議。
「でも遙だけ一人で六畳使うの、ずるいじゃない!」
これはポニテの言い分だ。
「私達は気にしないから大丈夫だ」
勝田さん、あなたも異常を認めるのですか。
「仕方無いから我慢してあげる」
極悪非道女! 我慢しないでいいから部屋を元に戻せ!
「採決を取ります。部屋はこの状態のままにするべきだと思う人は挙手!」
ツインテがそんな事を言う。
私以外の全員が手を挙げた。
なんと赤塚さんまで手を挙げている。
ブルータス、お前もか!
シーザーの気持ちが良く分かった気がした。
「あきらめようね、遙」
ポニテが死刑宣告。
あああ……
ところでこの時の私は気づかなかった。
紅莉栖先輩が使った魔法解除呪文の発音が私のフィルメディ式とほぼ同じ事に。
安住の部屋を奪われた事でそれどころではなかったのだ。