第四話 GWの不穏な計画 その3 自己紹介シートの記載
三十分後、練習用人工空間で私は頭を抱えていた。
目の前の机には例の自己紹介シートが置いてある。
「悩むのでしたら後程書けばいいのではないでしょうか」
横で風衝撃弾練習中の赤塚さんがそんな事を言う。
「いや、悩み事を後に残したら安眠できなくなる。何としてでも帰りまでには作成しなければ」
自己紹介シートは名前、ふりがな、出身世界と職業等一通りの項目は埋めてある。
問題は使用魔法の部分だ。
「それにしても風衝撃弾の誘導、大分慣れてきたな」
「はい、熱を使った応用を教えて貰って、動きも威力も大分よくなりました」
風衝撃弾に熱魔法、特に寒冷系魔法を加えると一段と強力になる。
今赤塚さんが練習しているのは正にその強力版だ。
風衝撃弾をできる限り低温で作成し、目標のかなり上方向目がけて放つ。
低温の風衝撃弾は重いから下に向かって曲がりやすい。
風魔法でうまく誘導することによって見えない場所でも上から敵を狙える。
しかも超低温の風衝撃弾を常温に戻せば空気の膨張によって威力も数倍以上。
これを上手く使えるようになればかなり強力な魔物でも相手に出来る訳だ。
「出来れば攻撃魔法は風魔法以外明らかにしたくないけれどな」
「でもこの風衝撃弾も炎魔法と寒冷魔法を使っていますよね」
「赤塚さんが使えそうだから教えたまでだけれどさ。出来ればあまり多人数に教えたくない」
赤塚さんとは毎日練習しているから普通に会話が出来る。
触らなければ固化する事も無い。
でも他の面子が加わるとなると勘弁して欲しい。
「でも真偽魔法で判断されたら、誤魔化している部分もわかってしまいますよ」
「真偽魔法さえ誤魔化せば何とかなるか」
考えてみればそういう魔法もある。
その名も強力自己暗示!
そうか、そうすればバレないよな。よし!
「決めた!風魔法と補助魔法、短距離移動魔法だけにしておこう。赤塚さんも他の魔法については黙っていてくれ」
「わかりました」
そんな訳で私は自己紹介シートを完成させた。
よし、これで眠りを妨げる問題は無くなったぞ!
「さて、赤塚さんの方も威力的には充分になったからさ。次は連射の練習をしよう」
◇◇◇
赤塚さんが強化した風衝撃弾を二発まで連射出来るようになったところで。
「今日は終了時間です」
花梨先輩が現れた。
「どうですか、調子は」
「威力は大分上がりました。あと二発だけ連射ができるようになりました」
「流石ですね。合宿で成果を見るのが楽しみです」
実験準備室へと移動する。
到着と同時に私は自己紹介シートを花梨先輩に渡す。
強力自己暗示は既に予呪文の形で唱えてある。
真偽魔法をかけられると同時に発動させる事が可能だ。
「わかりました。こちらは預からせていただきます」
花梨先輩は特に疑ったりもせずにシートを受け取った。
ひょっとしたら真偽魔法というのはただの脅しだったのだろうか。
でも簡単に済むならそれにこした事は無い。
さて帰るか。カバンを片手に短距離移動魔法を起動する。
いつもの通り昇降口近くの目立たないところへ移動。
さて、今日も弁当を食べたら寝るぞ!
そう思いながら私は厚生棟へと歩き始めた。