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孤独の次にあるもの

作者: 伊月

澄んだ空気の夜

吐き出される白い息

その向こうに見える星空


静寂に包まれた空間で

ただ一つ鳴り響く自身の鼓動


何故こんなにも煩く鳴り響くのか

答えなど、とうに見つかっている

ただ、その現実に目を向けたくないだけ


だんだんと荒くなる息が

あの時の空間を、騒音を、思い出させる






_______先月の、よく晴れた土曜日


最愛の人が事故にあった

ペットの散歩途中に軽自動車が突っ込んできたという


運転手は酒を大量に摂取したまま運転

スピードを上げ続け

信号を無視し

人を轢いて、そのまま民家に突っ込んだ


幸い、一命を取り留めたものの

彼は一向に目を覚まさない


もうすぐ私達の付き合って1年目の記念日だと言うのに

その目は固く閉じられたまま

開く気配すら感じられない


軽自動車の運転手からは

多額の慰謝料を支払われた

治療費も全額負担してくれるとのことだ


しかし、彼が目を覚まさないのならば

意味が無いのだ

金で責任を取ろうなんて

無理な話だと思わないか


もしこのまま彼が死んでしまったら?

もし、息はしているのに

一生目を閉ざしたままだったら?


失くしたものは、奪ったものは

一生戻らないのだ


その責任を、悲しみを

金なんかで済ませられるものか


今、あんなことがなければ

彼は私の隣で一緒に夜空を見上げて

星座を探したり

「寒いね」なんて笑いあっていたかもしれない


こたつで暖をとりながら

みかんを食べて、テレビを見て

笑い転げていたかもしれない


本来あるべきだった未来が

今ここにないことに絶望しそうだった


もし、このまま彼が目を覚まさなかったら

そんな不安が頭に過ぎる


考えたくない結末ばかりが

しゃぼん玉のように浮かんでは弾ける


_____prrrr prrrr prrrr


突如鳴り響いたスマホの着信音に

荒れている心臓が跳ねる


画面を見てみれば

そこに表示される彼の名前


目を見開いて、震える手で

画面の通話ボタンをタッチする


機械を通して聞こえる

少し掠れた彼の声


「おはよう」


優しく響くその声に

涙が突如降り出した雨のように流れる


「心配かけちゃった?

ごめんね、ただいま」


恐らく微笑みながら呟くように発せられた

彼の言葉に思わず悪態をついた


「ただいま、って呑気なこと言ってんじゃないわよ!

帰ってくるの、遅すぎよ……!」


泣きながら返したこんな言葉にも

笑いながら「ごめんって」と返してくれる


その声は、掠れているが元気そうで

「とりあえず、明日朝から行くからね!」と伝えて

突然の宣言に戸惑っているのを無視してガチャ切り


さっきまでの荒い息や

不安は何処へやら


たっぷりこの1ヶ月の不満を言って

困らせてやるんだ、なんて

悪戯心さえ芽生えさせる



夜は寒い、それは孤独を感じさせ不安を誘う

しかし、それを乗り越えれば

その先には暖かい朝が待っていて

希望と安心をくれるのだ



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