孤立無援3
『幸村様、500の敵兵がコッチへ進軍して来ます』
佐助が斥候から帰って来て幸村に報告をする。
『よし、佐助は100を率いて山に潜み敵の背後を叩け、僕がそれまで正面から止める』
『分かりました、任せて下さい』
佐助の部隊が西側の山に伏兵として移動して行く。
幸村と宇都宮方の家臣 益子氏が相対する事になる戦場は少しだけ拓けた場所になる。
『よし、敵が現れたな。弓隊準備!』
弓隊が弓を構え敵軍が近寄るのを待つ。
敵の騎馬兵が突撃して来たタイミングに合わせ弓を一斉に射掛ける。
すかさず幸村の騎馬兵が敵に突撃し
さらに足軽隊で押し込む。
幸村は騎馬兵、足軽と順番に一旦兵を退かせ
500m程、後退すると
敵後方に居る大将目掛けて佐助の伏兵部隊が攻撃を開始した。
それに合わせ幸村隊がもう一度、力攻めを開始する。
こう綺麗に挟まれると、挟まれた側は敵軍が実際の兵数の何倍にも感じ、個々の兵士が勝てないと判断してしまう。
兵と言っても村人が大半なのだ、命が大事だと思ってしまう。
『潰走が始まるな…左側の包囲を緩めよ!そこから敵を逃せ』
幸村はすかさず左手を攻撃を緩め、そちらから敵を潰走させる。
敵を全滅させるのが戦の勝ちではない
敵を逃すのが勝ちなのだ。
蜘蛛の子を散らす様に潰走して行く敵兵をじっと見つめていると
佐助が幸村の所へ武者を連れて戻って来た。
『幸村様、お土産です』
『お土産?』
『敵の大将みたいですよ、捕えました』
佐助の隣に居る武将は後手に縛られていた。
『そうか、貴方の名は?』
『俺は益子家の家臣、飯村備前守だ』
『そうですか、では飯村殿は我が殿に引き渡すのでそれまで大人しくして下さい』
『…俺の事?』
急に幸村の背後から龍が声を掛けたので
幸村は驚き飛び退いた。
『りゅ 龍さん!いつの間に!?』
『あぁ、幸村が敵と交戦中って言うから先に走って来たんだわ』
戦の最中だと言うのに龍は楽しそうに笑っていた、もちろん幸村の反応にだ。
『む…其方が桔梗城の城主か。俺の負けだ、殺せ!』
囚われの飯村備前守は勢いよく叫ぶ。
ーーが龍には届かなかった。
『ん?断る。なんで負けて捕らわれた奴が処分を決めんのよ』
『…と、捕らわれるのは武士の恥だ。殺せ』
『嫌だっつの』
『…え?』
『佐助、そいつ逃がしてやって』
『『え?』』
佐助と飯村備前守が同時に声を上げたが
すぐに佐助は飯村備前守を解放した。
『飯村さん、俺はあんたを殺しに来た訳じゃないから、目と鼻の先に城を建てるのを黙って見過ごすつもりがないだけ』
『…分かった。しかし必ず雪辱を果たすぞ』
『あぁ、いいよ何度でもかかって来なさい。何度か戦って勝ち目ないと思ったら俺の配下になればいいさ』
龍の対応は甘過ぎるのだろうが
負けない自信の表れとも言える。
実際、負けるつもりはないのだろうが。
『かたじけない…では戦場で再び会おう』
飯村備前守は去って行ったのだが龍は少し後悔していた。
『あの建築途中の城を貰うからって言うの忘れたや』
(そんな事は宣言しなくていいよ…)
とその場に居た幸村と佐助は同じ事を考えていた。




