奇々怪々4
『龍さん!』『龍様!』
部屋に入るなり、幸村一行が同じ様な言葉を発した。
『おぉ!信繁様にお前ら!』
座っていた龍も懐かしい顔の面々に思わず立ち上がった。
『良く生きていてくれました!上田城の最期の話しを聞いたら…』
幸村は上田城での事を思い出し少し泣きそうな顔になる。
『いやいや、俺なんか早々には死なない自信ありますからね。現に今も生きている』
『さすが龍さん!あの状態から生き残るとは凄いです』
佐助も嬉しそうな顔をしている。
『あぁ、そうだ座って下さい。おーい 弥五郎〜お茶持って来てよ〜』
『龍さん、佐竹殿に聞きましたが本当にココの城主になられたんですか?』
『えぇ、何故かそうなってしまいました。何故かついでにこのまま関東を制覇してやろうかなとも思ってますけどね』
軽く言ってるが そこそこ恐ろしい内容だ。
そう簡単に関東を制覇出来るならとっくに他の大名家が制覇しているはずだ。
『失礼します。龍さんお茶が入りました』
『おぉ サンキュー…って早いな』
『えぇ 来客者が来られたと言う事だったので急ぎ湯を沸かしておきましたので』
弥五郎は理解も早いが気が効く人間だ。
『あぁ コイツは荒川弥五郎って言います。佐助と同じか少し年下かな?』
『真田信繁様ですね。初めまして荒川弥五郎と申します。御一行様も宜しくお願いします』
『あぁ 私は信繁と申します。こちらこそ宜しく』
幸村は座り直し弥五郎に挨拶をした。
『俺は佐助って言うんだ。』
『…雫です』
『…。』
『あれ?ところで雫の隣に居るのはどちらさん?』
幸村はそう言われ思い出した。
そういえば才蔵と龍は会った事がないかも知れないと。
『私の弟の才蔵です』
しかし先に答えたのは雫だった。
『…才蔵です』
『おぉ? 確かにこれは雫の兄弟だわ』
雰囲気が雫そのものだと龍は笑った。
『…龍さん、城主になったと聞き、相談があります』
『…相談?』
『はい。私は越後に落ち延びようと思い旅立ちました。しかし どうせ落ち延びるならその前に旅をしようと、ここまでやって来ました』
『旅ですか』
『龍さんと佐竹殿が話し合い佐竹が兵を引いたと言う話しを聞き一度佐竹義重殿に会ってみたいと思ったのです』
『話し合い…あぁ…はい』
実際は話し合いだけでなく1対1の戦いをしていたのだが…と言いかけたがやめた。
『そうしたら龍さんが居ると言う話しを聞けて驚きました。それで居ても立っても居られず此処に参ったのです』
『偶々でしたか』
『はい 偶々です。しかしこれは千載一遇の巡り合わせだと思っております』
(そこまで?)
と言いかけたが、これもまた口にするのをやめた。
『私を末席で良いので配下に加えて頂きたい』
『配下!?』
『はい、真田はもうありませぬ。私は命を懸けて仕えるべき人を考え探していました。それは越後の上杉殿でも佐竹殿でもありませぬ。龍さん、貴方です』
主君では無かったとは言え、直属の上司の様な関係の人間から 突然そう言われても
どう反応すれば良いのか分からずに居る。
『いやぁ…信繁様にそう言われると嬉しいのですが、この世界に来てから拾って貰った恩もあるし、真田の家臣でしたし、その様な方を俺の家臣には…』
『いえ、龍さんは私の家臣ではありませんでした。父の家臣ではありましたが…。それに龍さんには今の所、恩しか受けてません、今度はこちらが龍さんに恩を返したいのです』
恩を与えた覚えはないが、龍撃隊や火薬や最期の悪あがきの事を言っているのだろうか?
『うーん…しかし良いのですか?俺の家臣で』
一緒に居たいと感じるのは龍も一緒だ。
なので断る訳にも行かず、かと言って家臣と言うのはどうなの?と。
他に何か道はないか模索するが龍にはその道をまだ探せない。
『はい。是非 お願いします。それでまずは…私の方が身分も下、年齢も下なので敬語をやめていただきたい』
幸村は笑みを浮かべながら言う。
『お…おう?…分かった』
『では信繁様には今日から家臣となって貰います。もちろん佐助、雫、才蔵もな』
佐助が素直に良し!と喜ぶのは想像通りだったが
雫は無表情の中にも口角がニヤっと上がっていて嬉しそうなのが見てとれる。
珍しい反応だ。
『龍さん、それと信繁 様 もやめて下さい。信繁で』
『いやいやそれはいくらなんでも…』
おいおい これじゃ どちらが身分が上か分からんよと思ったが幸村がさらに続ける。
『呼び難いなら名を変えます。気分転換したいので。一緒に考えて下さい』
幸村は もっとナヨナヨした感じだと思っていたが
やはり戦国武将の血筋を引いているのか
次々と意見の言う名の命令を出して来る。
『な…名前を?』
そんな簡単に改名ってするものなのか龍には分からないが
改名すると言うなら一つしか候補は浮かばない。
『では幸村と言うのはどうでしょう?』
『幸村…良い名ですね。それに決めます。只今から私の名は真田幸村。これより三國家の為に身を粉にし命を懸けて恩を返し続ける覚悟ですので、これから宜しくお願いします』
『こちらこそ 宜しく』
幸村の文言に(堅い堅い)とツッコミそうになるが
こういうのも この時代の正式な挨拶なのかと思い直し
納得したフリを龍はした。




