一騎当千
深夜、城を包囲する武田軍は周囲に警戒しつつも
昼間の戦から解放され少しでも疲れを癒すために眠りに落ちている。
ー さーて、精神力と神仙丸が続く限り荒らしてやろうかね…
集団にはない一人の強みと言うのもある。
真っ暗闇の中、弓を移動しては撃ち移動しては撃つ人間を簡単に見つけられるものではない。
しかし その弓は手榴弾の様に爆発し轟音を轟かす。
ー さて、どうやって城の中に入ろうか
昌幸に会うついでに火薬の調達もしたい。
ー ブースト状態になって走って行くのが一番かな
身体に雷術 風術 水術の魔力を込め速く動ける様になるブースト状態になり、城までおよそ2㎞を駆け抜ける。
途中 武田軍の兵士に何度となく気付かれただろうが 振り返った時、既に龍は遠くへと移動している。
バレようがバレなかろうがどうでもいいのだ。
上田城の大手門が見えたが、当然の様に閉まっている。
しかしブースト状態なら速度を活かし門を飛び越せる。
『!?』
『あぁ すんません 龍撃隊の三國龍です、ちょっと失礼します』
見張りの衛兵が驚くのは当然だ。
しかし そんなのお構いなしにさらに龍は本丸へと駆け抜ける。
『はぁ…お前は何しに来たのだ』
昌幸は心底呆れている。
主要な配下の者を城から逃がしたつもりだ
しかし まさか戻って来る者が居るとは、しかも一人でだ。
『ハッハッハ、ちょっと火薬を貰いに』
…軽い。昌幸は既に命の炎が尽きかけ気が滅入るのを何とか気力で保ち続けてたのだが
目の前に居る龍を見ると、それが馬鹿馬鹿しくなる。
『お前は凄い男だと思っていたが、凄いのを通り越してバカかもしらんな』
フフ…と昌幸は笑う。
『まぁ、そうかもですね。なんたって全然死ぬ気がしないんですもの』
『そういう奴から順に死ぬぞ』
『まぁ普通はそうですよね〜、俺は普通じゃないみたいなんで』
そもそも異世界に転移している段階で普通じゃない。
龍は元の世界の事をたまに思い出すと、まだ長い夢を見ている気がしている。
『城には何人兵士が残ってるんです?』
『500も居ないだろな、逃げろと言ったのだが命令を聞かないのがそれだけ居る』
『そうですか、命令を聞かないとは困った兵士達ですねぇ』
『お前もだよ』
『いやいや 俺は昌幸様を助けに来た訳ではないです、武田家のやり方が気に食わないから来ただけです』
『命令を聞かないなら同じだろ』
『…それもそうですね』
フフ…お互いに笑う。
『では、火薬と神仙丸を貰いますね。魔術砲を補給したいので』
龍は席を立ち、広間を出ようとする
『好きに持って行け、ただ死ぬ様な真似はするなよ』
昌幸の言葉に龍は振り返り
『その台詞は昌幸様に返しますよ』
と言い、武器庫へと移動した。




