孤軍奮闘3
武田軍の猛攻は苛烈を極めた。
龍撃隊が飯富虎昌の部隊へとゲリラ戦を繰り広げてる間に。
数時間で上田城の南側の砦を落とし、上田城の手前まで大軍勢が迫ろうとしている。
『龍様、上田城が危険です』
合流した龍に雫が上田城の危機を告げる。
『マジか…』
武田軍は速かった。
もちろん騎馬兵が多いから進軍速度が速いとは言えるのだが、それだけではない。
本当の速さとはミスをしない正確さだろう。
山岳地帯の道の狭い場所で敵が待ち構えて居るかも知れない
それなら軍を分散して速攻で上田城を目指す。
上田城の手前の砦で敵に時間を稼がれるかも知れない
それなら一気に落とし上田城を目指す。
小さなミスをせず やり直しのない状態を維持する事が速さと言える。
『あそこまで攻め込まれると正直厳しいなぁ…』
寡兵で大軍を相手にするのは策が限られてくる。
城外に居るのは龍撃隊と本の少しの真田兵だけだ。
城の手前まで侵攻されると最早 ただの無駄な時間稼ぎの籠城戦となってしまう。
かと言って 龍撃隊が決死隊となって武田軍と正面から戦っても
50人では上手くいって千人も倒せれば上々程度だ。
『動員兵数、指揮官の数、兵の質…何一つ勝ち目ないしねぇ…んなら魔術砲とか奴らに出来ない事で補ってやるか』
『…いきなり奥の手ですか?』
辰治が口を開く、数日前に練習し始めたばかりの魔術があった。
『いきなりピンチになっちゃったしねぇ…んじゃ まぁ…武田軍が確認出来る所まで近付こうか』
龍撃隊はそこから武田軍を目視出来る場所まで静かに移動を開始した。
『よし、ここなら使える…雷竜砲準備!』
龍が声を上げると5人ずつ10列になる。
そして一人一人が前の人間の背中に手を当て、伍長5人が2組、手を繋ぐ。
伍長の端っこの人間が雫の背中に手を当て
雫が背後から龍の腰をガッシリと持つ。
『ふぅ……魔力込め用意!』
龍がそう言うと龍撃隊それぞれが雷の魔力を前へ前へと送り込む。
最終的に龍へ魔力が集まると
龍は大きな龍を模った雷の塊を作り上げた。
『ぐ…ぐ……飛ん…でけぇぇえええ!!』
その雷の塊、雷竜砲を龍は全力で放つ。
龍撃隊の隊員は精神力を使い切り気絶する者も数人居た。
雫はギリギリの状態ながら雷竜砲を操作する龍に神仙丸を食べさせる。
雷竜砲は武田軍へと真っ直ぐに飛んで行った。
雷竜砲に武田軍の兵が触れると強烈に感電し気絶して行く。
武田軍の一つの部隊を雷竜砲が通り抜けると上空に旋回し次の部隊へ目掛け方向を修正し飛んで行く。
しかし 1つ2つと敵部隊の兵力を抹消して行く毎に徐々に雷竜砲は小さくなって行き
雷竜砲が消えて無くなる頃には、戦場に武田軍の倒れた兵士の姿が大量に残った。
『ふぅ…これは疲れる…けど かなり敵兵を減らせたかな?』
龍は膝を地面に着き、ギリギリの状態だ。
『はい…ハッキリと確認は出来ないですが5千は倒れてるかと』
雫も龍ほどではないが疲れてるはずだ
しかし、なんとか計算し龍に言葉を返す。
『5千、強烈だねぇ…ハハ…』
50人そこそこで5千人を無力化させるのだから
これ程 凶悪な魔術もないだろう、
ただ撃った後は全員疲れ切ってしまうが。
『ダメ…しばらく休ませて貰うよ…後は昌幸様に任せた…』
龍はそう言うと横になり強烈な睡魔に負ける形で眠りにつく。
ここは木陰だ、そうそう敵に気付かれるとは思わないが
一応 疲れながらも雫は、龍が目覚めるまでなんとか警戒する事にした。




