外柔内剛
『と言うか 山の奴って何だよ』
山か平地かと聞かれれば どっちも違う海沿いの街出身だと龍は言い返したい
もちろん山もあったのだが…。
『んな事よりよぅ お前ぇ 強ぇだろ。凄ぇ気を放ってやがんな』
ー またか 用心の為に雷術を両手に宿してるが 武人の放つ気とやらは俺にはねぇっつの
上泉信綱にも似た様な事を言われたのを思い出す。
『いや 刀も槍も使えないから弱いさ』
『そうなのか?俺の勘が外れる訳ねぇんだけどな』
『たまには外れる事もあるだろ』
『まぁ いいや そんなら素手でも良いぞ 俺は相手の武器に合わせてやる優しい奴なんだぜ』
(おい…ここは戦場だぞ)と思うも
佐竹義重は コキコキと肩を鳴らしストレッチをし始めている。
『さぁ 存分に殴り合おうぜ』
この山に一人で来る段階で義重は軽装で居たのだろう。
確かに甲冑で歩いて居たら目立つ。
『いやいや 俺に得がねぇだろ、何故に戦わなきゃならんのよ』
ー 自分勝手に話し進めるなよと…
『武人たる者 戦にしろ剣術にしろ格闘にしろ 強い者を探す為に生きるもんだろ?』
義重の歯がキラッと白く光った様な気がしたが気のせいだろう
『俺は武人じゃねーーーーーーーよ』
『ハハハハハ 謙遜すんな 行くぞ!』
そう言うと義重の眼が スッ と鋭くなり
龍に向かって一瞬で距離を詰める。
(見てろ…)
襲い掛かって来る拳を左手でいなし
義重の鳩尾に雷術の掌底を撃つ。
『グッッ…』
義重は2m程 後ろに吹っ飛び
生まれて初めて体感する身体に走る電撃を受け
苦悶の声を洩らす。
『なんだそれ…効くじゃねぇか』
『あぁ 魔術だ、俺は武器は使えないけど この世界じゃ魔術は結構使える方じゃないかと思うぞ』
『ハハ…やっぱお前ぇ強ぇじゃねぇか 魔術をこんなに使いこなす奴なんて初めて見たぞ』
この世界の人は あまり魔術を活用しようとは思わないらしい
折角 魔術を使えるなら使わないと
(勿体ないだろ)と龍は思っている。
ー 今ので気絶してくれると思ったんだけどなぁ…こいつタフだ
慣れる前に一撃で決めるつもりでクリーンヒットを入れたが まだ義重は立っていた
鬼義重と呼ばれるのも伊達ではないのかも知れない。
『…うっし!今度は捕まらねぇ、行くぞこの野郎!』
気合を入れ また義重が動く出す
魔術でも使ったのだろうか さっきよりも数段素早く地面を蹴り
龍が気が付いた時 義重の足が目の前にあった。
『クッ…』
両腕でガードすると
義重はクルッと回転し 足元を狙い蹴りを放つ
今度は後ろに飛び退り 義重の腕を捕まえようと龍は手を出すが 逃げられ さらに拳を繰り出された。
それをまた いなし 腹部に雷術掌底を撃とうとするが 義重の飛び膝が飛んで来る。
時間にして数秒の間だろうが 打撃の応酬を数回 数十回とやり取りした後
二人は同時に後ろに飛び退る。
『ふぅ… お前ぇ やっぱ強ぇぞ 楽しいじゃねーか!』
義重はスポーツジムで良い汗を掻いたスポーツマンの様な笑顔をして言う。
『ハァハァ…俺は楽しくねーよ!』
そういう龍も顔には笑みが溢れている。
対 上泉信綱用に開発した 速く動ける術を使えば 勝てるだろうが奥の手はなるべく使いたくない。
先人が言った (奥の手を使うなら さらに奥の手を持て)この言葉に感銘を受けたのだ。
『お前ぇ 違う術も色々持ってるだろ?』
『ん? いやそりゃ 魔術の種類なんか無限にあるんでないのか?結構 開発したぞ』
『やっぱりか〜… 俺が武器を持たないから 使わないだけか?』
そういう訳ではないが 飛び道具の様な術を使うのは反則な気がするし、死なれても困る。
両手に雷術を纏わせるのが一番 フェアに戦えるからそうしてるだけなのだ。
『殺し合いなら殺す術を使うさ』
と言っても 戦ならまだしも 目の前に居る奴を無闇矢鱈に殺す気はない。
そこは現代からの転移者の短所かも知れない。
『…よし 分かった』
(何を?)と思ったが義重がさらに言葉を続ける
『俺はお前ぇに本気出されたら勝てる気がしねぇ、だからって すんなり負けるつもりはねぇけどな』
『ん? そう?俺の方が強いとは思わんけどね』
『いぃや お前ぇは強ぇ。戦ったから分かる。だから決めた』
(だから何を?)
『ウチの兵共を連れて国に帰るわ』
(はい?)
『お前ぇの部隊と戦って俺の可愛い兵共を無駄に傷付けたくねーからな』
『はい?』
龍は声が出てしまっているのに気付いていない。
『坂東武者はな…』
勝つと思った奴には 何度 負けようが何度 従えられようが いつか勝つその日まで静かに待ち続けるんだ
だけどなぁ こいつには勝てねぇ こいつが親方なら納得だと思ったら
そいつの為に率先して死んでやるのよ
(へぇ…で 俺に勝つまで何度でも向かってくるつもりだと?)
面倒臭い奴と出会っちゃったか?
と龍は思って義重の話しを聞いていた。
『で、だ その坂東武者の俺が今決めた。お前ぇには勝てねぇ』
(はい?)
『だから 佐竹家はお前ぇに従うつもりだ』
ー こいつ 急に何をオカシな事を言い出してんだ!
と龍は 盛大に戸惑っていた。




