春風駘蕩2
大きい鍋がなかったので 米を炊く釜に たっぷりの水を入れ湯を沸かす。
温度計はない…と言うより 何度のお湯を使うのかまでは覚えて居ないので
適当に沸騰する 結構前
ポツポツと泡が浮いて来たら火を消し
そこに皮を剥き サイコロ程度の大きさに切った甜菜を入れ
しばらく待つ。
1、2時間経った頃 甜菜を取り出し
再び火にかける。
灰汁を何度も取りつつ水飴の様になるまで煮詰め
さらに色が変わるまで 窯の火を調整し煮詰めて行く。
その色が白くなる頃には夕方近くなっていた。
ー 確か こんな感じだったっけか?
元の世界の授業の一環で習った時は
量も少なく 砂糖になるまでは そう時間はかからなかった。
しかし 量も多く そこまで火力の強くない竃で作るため予想以上に時間がかかった。
水飴の様に白くなったら 今度は竃から降ろし ひたすら かき混ぜる。
温度が下がって行く毎に固まり始めるので
後は 底の浅い大きな皿に移し
完全に固まるのを待つ。
翌日 皿に置いている砂糖を見てみると
黒糖の固まりの様でいて 薄茶色い砂糖の固まりが出来ていた。
『おー…良かった 意外とちゃんと出来た』
龍は内心 ホッとしていた。
授業の内容をちゃんと覚えていたというのあるが
松兵衛から譲って貰った甜菜の種類が
砂糖を取れる種類だったと言うのが
何より、ホッとした。
皿から 砂糖の固まりを小さく割り口に入れてみる。
『あー…割とちゃんとした砂糖だ…黒糖に味が近いかな?』
ちゃんとした工場などで作る 結晶状の砂糖とは味が違うが
これはこれで 普通に砂糖だ
工場で作る 作り方は知らないのだし
これから色々と試して行くのが良いだろう。
『ほら 雫も食べてみなよ』
そう言って 砂糖の欠片を雫に渡す。
『…甘い…美味しい…』
良かった。 自分で苦労して作った物を自分で美味しいと思うのは普通だ。
雫が美味しいと言ってくれたのが
龍には嬉しかった。
『よっし まず 収穫した甜菜は全部 砂糖にしちゃおうか』
それから 数日間 収穫した甜菜を砂糖にし続けた。
結構な量の砂糖が出来たので
協力してくれた村人に食べさせる。
そして来年から村の余って居る畑で甜菜を生産する事を頼む。
砂糖作りを村の産業にする為だ。
次に昌幸と幸村に会いに上田城へと向かう。
『久し振りです 砂糖の試作品が出来たので持ってきました』
砂糖の欠片を二人に渡し 食べて貰う。
『甘い…信じられん…』
『美味しい…』
昌幸 幸村の親子は 言葉は違うが似た様な驚き方をした。
そういう反応をしてくれただけで龍は満足だ。
『これを来年から村の産業に出来れば良いなと思って居ます。もちろん安田屋に噛んでもらいますが』
『いや これだけの物が出来るなら十分だろう、これは良い産業になる。龍よ 良くやってくれた』
『はい 何とか成功してくれて良かったです。村の人達のお陰です』
量で言えば 2kg程の砂糖を昌幸に渡し
残りは富山の安田屋の松兵衛を村に呼び
試食して貰った。
反応は上々で 5kg程の砂糖を松兵衛に渡した。
各地の大名や 商家に試食させる為だ。
来年からの流通経路を確保させるのが目的だ。
と言っても 村としては 砂糖の製品の殆どを
安田屋に買い取って貰うので
その安田屋の後 どこに売ろうが関係ないと言えなくもないのだが。
『ふう…』
各方面に 報告を済ませ
安堵のため息を漏らさずにはいられない龍であった。




