八面六臂
夏の日差しが強くなったある日
上田城から幸村と佐助が訪ねて来た。
村と上田城の距離は近いので
気軽に来れる距離ではあるのだが
幸村も忙しいのだろう。
『おぉ やってますねぇ』
5人隊の訓練をしてる所を幸村に声を掛けられ龍が振り向く。
『おぉ 信繁様 来てくれましたか』
『様は やめて下さい。身分は上ですが こちらが教えて貰う身ですから』
そう幸村は笑って言う。
『それじゃ 信繁殿で』
『うーん それで我慢しときます』
幸村の隣で佐助が苦笑していた。
『今日 信繁殿に来ていただいたのは ウチの村の部隊を見て貰う為と その許可をいただきたい』
幸村がもう一度 5人隊の方を良く見てみると
全員 小さな弓を持ち歩いている。
『村の部隊と言うのは 弓隊なのでしょうか?』
幸村は不思議そうな顔をして龍に質問する。
『弓部隊に近いかもですね ただ普通の動きではなく 遊撃部隊の様な特殊な動き方をしたいと思っています』
『『特殊?』』
幸村と佐助が同時に呟く
佐助は雫から多少だが部隊の情報や
村での魔術スキルの育成やらを聞いてはいたが
それでも (特殊な遊撃部隊とは?)と
疑問に思っていた。
『ウチの部隊は 攻城戦や山間部での戦などを目標に訓練しています。野戦などでも戦えなくは ないですが…まず ちょっと見てみて下さい』
龍がそう告げると 複数ある5人隊の中の1つの部隊に顔を向ける。
『威嚇砲撃イチ!』
と龍が100m程 先にある的に向かって指を差し そう叫ぶと
5人隊が 弓を構え 同時に 火薬付きの弓を
普通の弓の軌道で射る。
弓が的に着弾するタイミングに合わせ炎術が発動し火薬に引火、
轟音と共に爆破した。
幸村と佐助は口を大きく開け
ポカーンと音が聞こえて来そうな顔をしている。
次に龍は『隠密砲撃イチ』と5人隊に今度は静かに声を掛ける。
左手で的に指を差し
少し遅れて右手を振る
すると5人隊が 今度は的に向かって真っ直ぐの軌道で狙いを付け矢を放つ…
と同時に的が轟音を轟かせ爆発している。
先程以上の衝撃を受け幸村は身体を硬直させていた。
放たれた矢が全く見えなかったのだ。
種子島銃より速いかも知れないと
そう思っていた。
龍は幸村と佐助の方に振り返り
『と まぁ こんな感じで 部隊を遊撃させ 敵を混乱させる戦い方を出来るかなと思っています』
1発1発の火薬の消費は 銃より多いが
命中精度やその威力を考えたら 結局 銃より燃費が良いだろうと考えていた。
なにより轟音と言うのは 物理的なダメージも大きいが
精神的なダメージの方が遥かに大きいはずだ。
フッ…と幸村は我に返り
『これは…なんて恐ろしい武器を…』と呟いた。
『んー…武器の恐ろしさよりは その運用法の方で敵に驚いて貰いたいと思っています』
例えば…突如 後方から爆音が聞こえたり
普通の弓部隊の中に5人隊を紛れ込ませ 一斉射撃させたり…
『その時 その時で色々作戦立てれるかなと思って居ます。その意味で特殊な遊撃隊かなと』
確かに弓の一斉射撃に紛れて あの火薬付きの矢が飛んで来ていたら堪らない
普通の弓の射撃でさえ一斉射撃されたら脅威なのに その内 数本だけが爆発すると…
そして 作戦に依っては5人隊が10人隊へ
10人隊が50人隊へとそれぞれ連携出来るように
伍長 什長を置き 50人長は龍本人であると告げる。
『あと 50人隊は二つ作って居ます 交互に戦に出るつもりです』と
もはや どこから どう驚けば良いのか分からないと
幸村は こめかみを抑え苦笑していた。




