飽経風霜
『なに?そんな面白そうな男が居ったのか!何故 今まで隠してた』
体格は この時代平均の160cm程度だろう
眼光は鋭く その瞳からは 乱世を生き抜いてやると言う力強さを感じる。
『なはは すいません、僕の家臣として父上に紹介したかったのですが』
幸村は 正面に胡座をかいて座している男に
苦笑している。
その男は 武田信玄に(我が眼)と称され
豊臣秀吉に表裏比興と賞賛された
真田昌幸である。
『うむ まぁいい…ちっとばかり揶揄ってやろうかね? 』
(また父の悪い癖が始まった)
と幸村は呟いた。
この日 龍は民家を周り農具や農作物などに付いて調べるために農民達に色々と聞いて回った。
農業について全く知識はないが 現代の知識で何か役に立つ所があるかも知れないし
魔術を活かせる所があるかも知れない。
まずは この世界の物に触れてみない事には
何にも閃かないだろうと考えていた。
そして昼になり
ー腹が減ったな
と城下町の茶屋に寄る事にした。
ここの茶屋は 現代で言うと軽食喫茶と言う感じか
雑穀米 漬物 山菜の味噌汁を頼み 味わっていると
いかにも浮浪者と行った様な身なりの老人が声を掛けてきた。
『おう 兄さん 見ねぇ顔だな どっから来た?』
『ん?俺かい? 最近 こっちに越して来たんだよ』
男を見ると 身なりは汚いが 眼には力がある
(落人って奴かな?)と思った。
『兄さん 酒でも奢ってくれよ』
(何故 知らん奴に奢らにゃならんのだ)とも思ったが
身なりは ともかく この眼の強さは どこか有名な武将に違いないと思い
『あぁ いいよ』と
一緒に濁酒を飲む事にした。
老人は たわいもない話しを酒の肴にしている。
(何処の国の武将だったのかな?)と探り探り老人を見ていたが
そもそも この時代 この世界の国 大名の成り立ちが元の世界の歴史とは全く違うので
現時点で何処の大名が滅亡したのか分かるはずもない。
老人に適当に話しを合わせて居ると
『兄さん ワシぁ 占いが得意なんじゃが 視てやろうか?』
『へぇ そうなんだ じゃぁ一つ頼むよ』
目を見開き ニカッと良い笑顔した後
『任せろ』と目を瞑る。
『兄さん あんたの出身地は遠いなぁ 南蛮よりも遠い』
『ほぅ』
龍は肯定とも否定とも言えない反応をする。
転移者って事を隠すつもりもないが
大っぴらに広める気はない。
初対面の人間になら尚更そうだ。
『ふむ…災難がすぐそこまで近付いておるなぁ』
(災難?)
と思った直後
茶屋の戸と共に 人影が中へと飛んで来た。
ー コレが災難か…
『クソガキ 盗んだ物を返しやがれ!』
戸と共に飛んで来た人影は どうやら子供らしい
床板の上に蹲っている。
その子供は7〜8才だろうか
その蹲って居る 子供の元に さらに小さい女の子が泣きながら走り寄る
『兄ちゃん!』
ー スリか何かかねぇ?
龍は席を立ち 倒れている子供の元へ向かい
『おい 大丈夫か?』と あまり大丈夫そうではない子供に話し掛ける。
『なんだ手前ぇ! このガキの知り合いか!?』
『知り合いじゃないけども この子が何かしたんかい?』
『盗みは死罪だろうよ』
男は どこか嫌な笑みを浮かべている。
『兄ちゃんは何も盗んでないもん!』
『俺が嘘を言ってるってのか!?』
龍は 子供たちと その男のやり取りに違和感を感じ 男に尋ねてみた。
『ところで 何を盗まれたんだい?』
『ん?んなもん…銭だよ!』
辺りを見回すと 店の人間や客達は
血の気が引き青白い顔をしている。
『あんた いつも銭を盗まれては暴れ回っているのか?』
これは おそらく銭など盗まれてはいない
民衆では逆らえない何処かの偉い奴が
難癖付けて定期的に暴れてるだけではないか。
『なんだ手前ぇ! この俺様が誰だか知らねぁのか!?』
ー知る訳ねぇよ むしろ 逆にこの世界で知ってる人間なんか数人しか居ねぇよ
そんな 良くある悪徳代官の様な台詞に乾いた声で苦笑しつつ心の底からツッコミを入れる龍であった。




