捲土重来
『お屋形様、武田家からの使者の方が来ました』
『ん、武田家? 分かった 応接室に通してくれるかい』
何となく武田からの使者と言う言葉に嫌な予感はしたが、理由もなく追い返す訳にも行かず会う事にする。
『使者様を中に通します』
案内役が応接室に使者を入れると見た事のある顔が龍の視界に入って来た。
『…おぉ、やっぱりお前か』
『あ?使者に向かってお前は失礼じゃないのか?』
『お前こそ他所の大名様にタメ口はねぇだろ、武田家は躾がなってねぇんだな』
顔を合わせた瞬間から言い合いが始まる。
お互いに嫌い合っているのだろう。
『ふん…死体がねぇなとは思ったが、やっぱり生きてやがったか。主君を捨てて逃げるとは恥ずかしい奴だな』
『勘助さんよ…同盟相手に急襲を仕掛ける作戦しか取れない様な恥ずかしい奴に言われたくねぇよな』
勘助と呼ばれた男は山本勘助と言う名で龍や北条早雲と同じく転移者だ。
早雲曰く、割と早い年代に転移しこの世界で活動して居たらしい。
『あぁ、だけど結局 正面から戦ってボロ負けして這々の体で逃げたんだろ?』
『何言ってやがんだよ、お前らの兵が雷の龍に襲われてかなりの人数が倒れたよな?あれは俺がやったんだわ。俺一人にお前らザコ共が何千人ぶち殺されたか計算したのか?』
『何千人ぶち殺されても真田家を滅亡させれる程に兵が大量に居るからな、戦は個人の強さじゃねぇよな。いかに兵を集められるか、いかに高い確率で勝てるか…これを計算出来た物が戦を吹っかけるんだよ』
『おぉ、流石 先にこの世界に来てた先輩だけあるな、新人イジメが板に付いてらっしゃる。凄い凄い』
『おぉおぉ 負け犬の遠吠えだな カッコ…』
『ウルセェ!お前ぇは一体、何しに来たんだボケ、口喧嘩したいだけなら暇な奴探して挑めタコ』
使者と言うから会いはしたが、龍にはバカバカしい罵り合いをして楽しむ趣味もなければ暇もない。
『ケッ…今日は わざわざ忠告しに来てやったんだよ』
『へぇ』
『北条を信用しすぎると背後から襲われるぞ、早雲はそういう奴だ』
歴史上の北条早雲は下剋上の先駆者として知っては居るが、あの早雲も同じなのだろうか?
『へぇ…で、仮に俺らが北条に背後から襲われたとして武田に何か関係あんのか?』
『関係あるだろ、お前らザコより北条の方が強いからな』
『ほ〜う、なら北条に襲われる前に上杉と戦ってる武田の横っ腹を食い千切ってやるか』
『やれるもんなら やってみろ、お前らの動きは俺の固定スキルで把握出来るからな』
ー 固定スキルで動きを把握?
そんなGPSレーダーの様な都合の良いスキルがあるのだろうか?
『それだけか? ショボいスキル当たったんだなぁお前』
もちろん龍のこの台詞は挑発目的で適当に言っているだけだ。
ここは引くよりも強気で居る事の方が威圧感を与えられるかもしれない。
『いくら対人戦用の良いスキルがあっても戦には役に立たんぞ?』
『そうだよなぁ…俺のスキルじゃ対人戦とやらで今お前をブチ殺してやる事しか出来ないよな』
龍にそう言われ、一人で敵城に来たと言う恐怖が勘助の心に揺らいだ。
レーダーがあろうがなかろうが、勘助の目の前に居る男と自分は、魔王と村人位の武力の差がある。
しかし、それは龍の固定スキルなどではなく、単に魔術スキルを面白がって鍛えた結果なのだが。
『こ…ここで俺を殺したら、武田家が総力を上げて三國に襲い掛かるぞ』
『それは大変だなぁ、でもそれをあの世から見て楽しいか?』
『ぐ…』
『どうした?死ぬ覚悟があるから喧嘩売りに来たんだろ?』
『うっさい!必ずお前をまた潰してやる!覚えてろ!』
『おいおい、逃げるのか?』
龍がそう言い終わる前に勘助は脱兎の如く部屋を飛び出して行った。
『…結局あいつは何しに来たんだ?』
『…さぁ?』
『雫、武田の動きは?』
『…上杉との戦の為に進軍中です』
『戦の最中に攻められたくないから牽制しに来たのかね?ホント良く分からん奴だなぁ』
どこの時代にも新人キラーみたいな奴は居る。
しかし下しか見てない者が上しか見てない者に、いつまでも勝てる筈はない。




