エイプリルフールによせて
私はね
ふだんから嘘をつく人間だから
こんな春のはじめのよき日に
あえて嘘をつく必要性を感じない
そして少し
善人たちのその習慣に
飽き飽きしてもいるんだ
私のつく嘘はせいぜいこのくらいです、と
ほらかわいいものでしょう、
だからおもしろいでしょう、
だから安心して笑ってくださいよ、と
信じ難いほどの醜悪なニュースに毎日まみれて
なにが本当でなにが偽りなのか
みんなわからなくなりながら
この事実だけは確実に嘘だと
明らかに種をあかせるこの日の「嘘」は
善人たちの安全弁だ
綺麗な隠しごとを山のように抱えながらね
もはやこんなささやかな儀式でしか
信用を証明できなくなっているんじゃないのか
ああ、虚ろだね、みんな虚ろだ
自分の存在もよくわからないで私は
まるで幽鬼の棲まう城にひとり迷い込んだようだ
幽鬼はこの春の陽射しの中でだけ
「私は生きている」と言うのだろう
春、穏やかな春、嵐も少しだけあたたかく、それは、
それは誰か人のぬくもりのような温度だと
感じたのだろうね
揺れているたましいだけの存在さえも
いったいどちらが生きているのかわからないな、なんて
涙がこぼれているのは花粉のせいだよ
ああ、もう楽しめないな
城の外ではもうきっと世界は終わりかけている
クラッカーを鳴らしドレスの裾をひるがえして
塗り固められたこの小さな壁の中から
そっと抜け出して幾人が人を殺してくるのだろう
そして気付かずに戻ってくるのだろう
君が善人でいられるのは自分を騙すことに慣れているからだ
ぜんぶがつくりものだっていつかばれてしまったときに
燃え上がるための種火だ
そのために小さな火を燃やし続けている
その火は良心というもので、知っている、
知っている、だから、
窓の外を見ない、だから、
熱も寒気も花粉のせいだ、
そういうことにしておいておくれと、
私は明日もそう言うだろう、明後日も、その先も




