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女子高生ルックスの魔王レイ


『三十秒あれば、この貧相な城ごと、敵部隊を全滅させられます』

「いやいや、今はもう時代が違うよ。そんな真似したが最後、俺とおまえは世界の鼻つまみものだ」

『わたしは別に気にしませんが』


「はははっ」

 ジョウは思わず声を上げて笑った。

 確かに、三百年前には全世界を敵に回していた魔王エグランシアが、その程度の風評など気にするはずもない。

 実は、ジョウ自身も心の底では気にしていないのかもしれない。……しかし、今は腕の中にフェリシーがいる。


 ジョウのせいで、彼女にまで悪評が及んでは、申し訳が立たないだろう。

 それに彼女は既に、不思議そうにジョウを見つめていた。





「どなたとお話ししているのでしょう?」

「ああ、俺の体内には、実はかつて封印した元大敵がいましてね。今や敵どころか、心強い味方ですけど」


 レイの機嫌取りではないが、最後に彼女へのフォローも入れておく。


「まあ、召喚術ですか! フェリシーは初めて見ますっ」


 口元に手をやり、初めて子供っぽく瞳を輝かせる。


「今や、魔法は廃れ気味ですからね。むしろ、知ってる奴の方が少ないかと」





「いつまで戯れ言を吐くかっ」


 ユリウスなんとかが、鋭い声で咎めた。

 ちなみに、のんびり雑談していた間に、それこそ四方八方から敵兵が集まり、今やジョウは十重二十重に囲まれている。


「周りを見ればわかるだろうっ。貴公の試みは失敗した! 今のうちに殿下を解放し、降伏するがいいっ」

「俺の目はちゃんと開いてる。うるさいよ、おまえ。がなり立てると、せっかくの男ぶりが下がるぞ。もう少しだから、ちょい待て」


 むしろ穏やかに言い返し、ジョウはレイに指示を出した。


「実体化の必要はない。アストラル体(幽体)でも、おまえなら女の子一人を運ぶくらいは余裕だろ? 俺の隠れ家まで頼む」

「えっ」


 たちまち、今まで落ち着いていたフェリシーが、心配そうにジョウを見上げた。


「ジョウさまっ、まさかお一人で残るおつもり――」

「いや、特攻とか俺の趣味じゃないんで、これはあくまで戦うための手段です」


 包囲中の連中に聞こえないよう、フェリシーに囁く。


「ただ、今は一足先に殿下に逃げてもらった方が、気兼ねなく戦える……それだけです」


 説明すると、フェリシーが水色の瞳でじっとジョウを見つめた。

 それこそ、まばたきもせずに。


「あとから、迎えに来て下さるのですね?」

「もちろん! 言ったでしょ? 俺に特攻の趣味はない」

「……わかりました。ジョウさまの仰る通りにします」


 ためらいがちに彼女が頷いた瞬間、ジョウは声を上げた。


「話はついた。レイ、頼むっ」


 声を上げた刹那、ジョウの頬を微風が撫で、そして眼前が陽炎ように揺らぐ。周囲の兵士達の目には、あたかもジョウの体から、無数の光の粒子が一斉に分離したように見えたかもしれない。

 その輝きはたちまち一つに収束し、信じ難い女性へと変化した。


 ……つまり、ブレザーの制服を着用した、黒髪長身の女子高生に。


 当然ながら、周囲の敵兵達がどっとざわめき、後退った。この世界ではあまり見ないような格好だし、何事かと思ったのだろう。 

 長い黒髪と黒瞳、それに切れ長の瞳を持つ容姿自体は、魔王エグランシアだった頃の彼女の姿そのものである。


 ただし、もちろんブレザーの制服は違う。

 以前、ジョウがレイに日本の思い出話を語ってやった時、なぜか彼女が、昔ジョウが通っていた高校に、いたく関心を示したのである。

 しまいにはジョウの記憶を辿ってその制服を確かめ、以後の自分の普段着と決めてしまった。


「わたしの肉体年齢は、永遠に十七歳のままです。であるなら、このお洒落な服を着る資格もあるはずです」


 ……というのが、レイの弁である。

 長い黒髪をなびかせ、濃紺のブレザーには校章のワッペン、さらにきっちり黒パンストまで穿いた女子高生姿になっているのは、全くもって彼女の趣味というわけだ。


「……俺の趣味では断じてないぞっ」


 反射的に呟くと、レイがすかさず言い返した。

「高校生だった当時は、同級生の女の子を眩しく見ていた、と言ってたように記憶しますが?」

 ハスキーな声のレイに、ジョウは顔をしかめて抱いたままのフェリシーを差し出す。

「当時は当時! 反論は後のこととして、この子を頼むっ」




「……承知しました、マスター」


 微笑した後、レイはうやうやしく低頭する。

 目を丸くしたフェリシーを自分が抱きかかえ、そのまま一切の予備動作もなく、たちまち上空に舞い上がった。アストラル体でも彼女程度の重量なら、余裕で運べるはずだ。


「ジョウさまっ、お気を付けて!」


 最後に、我に返ったフェリシーが慌てて声を放つ。

 ジョウはわざと哄笑して、手を振ってやった。


「はっは! 任せてくださいっ」

 

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