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城内突入

 やはり、アンチマジックシフトはあったようだが、ジョウほど高レベルの加速魔法を使う術者は、どうやら想定していなかったらしい。


 城門の警備兵も、おそらく頬をすり抜ける風くらいは感じただろうが、あいにく誰も駆け抜ける侵入者に気付かなかった。

 お陰でジョウは無事にアルデラン城内に入り、何食わぬ顔で城内本館を歩いている。


 帝都アルデランは近代都市を標榜ひょうぼうするためか、この城も昔ながらの尖塔の多い(ジョウの世界の)中世風ではなく、例えていえば、シェーンブルン宮殿のような構造に近い。

 城壁と堀こそ備わっていて防御は重視されているが、一度本館まで潜り込んでしまうと、かなりやりやすくなる。


 とはいえ、定期的な衛兵の巡回はあるし、そもそも軍服姿とはいえ、ジョウは親衛隊や帝室警護隊のメンバーではない。

 天井高く、しかもそこに色彩豊かな絵まで描かれた煌びやかな廊下では、あまりに制服が地味だし、逆に目立ちすぎる。


 王宮では見慣れない軍服なので、そのうち、「どうして王族が住むようなこんな場所を、普通の士官があるいているのか?」と誰かが問いただすかもしれない。





「レイ、俺がこうして、何事もなかったように廊下を歩いている間に、塔の中の姫君の居場所を探ってくれ」


『それなら、もう見つけました。塔の中ではなく、普通にこの本館の五階東端の部屋にいますね……今は、無理に眠らされているようですが』


「無理に眠らされている?」


 ぎょっとしてジョウが小声で尋ねると、レイは安心させるように答えた。


『夕食に薬品でも混ぜてあったのでは? 別にそばに不埒ふらちな男がいるわけじゃありません』


「そうか、よし。なら五階へ向かう!」


 ジョウは会話を打ち切り、そのまま何食わぬ顔で五階を目指した。

 とはいえ、廊下中央の吹き抜け構造の二重螺旋階段を使うと目立つだろうから、あえて隅の目立たない階段の方を使った。 


 ただ、これが逆によくなかったようだ。

 たまたまなのか、実はそこが警備の定位置だったのかは謎だが、制服の肩口に親衛隊の記章をつけた金髪の偉丈夫いじょうぶが二人、その階段のところに立っていた。


 気配で少し前から存在は気付いていたが、無害な武官か文官の誰かだろうと予想していたのだ。さすがのジョウも、廊下の角を曲がった途端、階段入り口に親衛隊がいるとは思ってもみなかった。


 しかも、両名共に中尉の階級章がついている。


「止まれ!」

「何者かっ」


 二人して、たちまち腰の剣に手をかける。

 しかも、背が高い方がジョウの腰を見て、非難の声を上げた。


「この城内では、わが親衛隊と帝室警護隊以外は、特別の場合を除いて武装は許可されていないっ。所属を言え、少尉っ」





「いや、今回はその特別な場合に当たるんです」


 無害な笑顔を振りまき、ジョウは構わず接近した。

 手を振り、いかにも事情を説明しますよ、という風に。


「どういうことか!?」


 もう一人が詰問口調で言った途端、ジョウは行動を開始した。

 別に殺してしまってもいいのだが、王女を誘拐するのに、あまり城内で血を流したくない。

 彼女が気にするかもしれないからだ。


「こういうことだ、間抜けっ」


 風のように間合いに躍り込み、まず一番近い一人の首筋に手刀を叩き込む。たちまちくたっと倒れたのを見向きもせず、ジョウはそのまま上半身を捻り、流れるような動作で回し蹴りを放った。

 

「がっ」


 抜剣する暇もなく、側頭部に鋭い蹴りを受けたもう一人が、壁に身体をぶつけ、ずるずると倒れてしまう。

 数秒も経たずに、二人の親衛隊兵士を片付けてしまった。


「練度は悪くないと思うけど、油断しすぎだぞ、諸君。近付く奴は敵だと思わんとー」


 他人事のように言うと、ジョウは二人の襟首えりくびを掴み、軽々と引きずって近くの部屋に放り込んでおいた。

 使っていない客間のようだったが、まあしばらくは保つだろう。


(ケチがついた、急ぐかっ)


 ジョウは小走りに階段を駆け上がり、五階へ直行した。 




 当然ながら、五階フロアの問題の部屋の前にも、護衛が二人立っていた。

 ジョウはこちらはさっきと違い、距離があるうちに眠りの魔法をかけ、そのまま二人共眠らせてしまった。


 片方の護衛兵から部屋の鍵を奪い、それでドアを開けて、二人を中へ放り込む。

 立ち上がると、すぐに目指す彼女がわかった。


 カーテンは閉められていたが、窓に近い壁際に置かれた天蓋付きベッドに、ドレス姿の少女が眠っている。

 それ自体が光を放つような煌めく銀髪と、少し尖った耳が、彼女の血筋を示していた。


「……フェリシー・ローラン」


 僅か九歳の花嫁を見て、ジョウは小さく呟いた。

 会うのが十年早かったが、今でもその美貌の片鱗は十分だった。

 こんな少女を、五十を越えた男の嫁に出そうなんて奴は、外道に決まっている。


 やはり、来て正解だった。


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