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いじわる言わないで

 ジョウとしては、自分が戦場に赴く分には一向に構わないが、しかしフェリシーもとなると、話は別である。

 当初の考えでは、フェリシーはあくまで城に残り、遠方から命令を下す形になるだろうと思っていたのだ。




「いや、あのですねぇ」


 こうなったら、フェリシーを通じて命令を撤回させようと思ったジョウだが、意外にも、彼女自身が熱心に言った。


「仰りたいことはよくわかります、フェリシーの少尉さま。もちろん、ガストン殿はフェリシーはこのロワール城に残り、ここからジョウさまの活躍を見守る形にすればどうかと言われました」

「なんだ! じゃあ――」


 ジョウが言いかけた途端、またフェリシーが身を乗り出す。


「でも、それではフェリシーが耐えられないのです。フェリシーはジョウさまのおそばにいたいですっ。もう一人はいやっ」

「……う」


 えらくはっきりきっぱり言われ、目尻に涙まで浮かんでいるのを見て、ジョウはちょっと言葉を失った。

 今の今までさほど意識していなかったが、気まぐれなどではなく、どうやらこの少女は自分を本気で慕っているらしいことがわかり、愕然とした。




「そ、それにっ」

 ほんのりと頬を染め、フェリシーはひどく恥ずかしそうに目を逸らした。

「それに?」


「それに……ぐ、軍事作戦って、遠くのお城に籠もっていても、実際に戦場を見ないとわからないものでしょう?」


 全くもっともな意見だが……ジョウは苦笑して尋ねた。

「それ、本音で語ってます?」

 たちまちフェリシーは俯いてしまう。

 膝の上で両手を組み、しきりに指を動かしていた。


「いいえ……本当はフェリシーにとって、戦場のことは二の次です…………いじわる言わないでください」


 小さい声で呟く彼女を見ていると、ジョウはまたしても「ああ、俺はなんで十年後のこの子に(以下略)」とまたしても思わざるを得ないほど、愛らしかった。


「ちょっと、耳を触ってもいいですか?」


 唐突にジョウが訊くと、フェリシーは「え、え……? それはもちろん、はい」と目をまたたいた。 

 許しが出たので、前から触れてみたかった彼女の尖った耳に、そっと指で触れてみる。

 普通の人間の耳より薄い肉付きであり、しかもやたらとすべすべして手触りがいい。

 ジョウが考え込みながらふにふにと耳をいじくっていると、フェリシーが小さく震えて笑い出した。


「うふふふっ」

「あ、くすぐったいですか」

「ええ、少し……エルフにとって、耳はすごく感じやすいので」

「なるほど。これは失礼」


 手を放すと、フェリシーは慌てて首を振り、「ジョウさまに触られるのは、むしろ嬉しいですよ」とわざわざ言ってくれた。


「ありがとう。とりあえず、今度の楽しみに……ちょうど、考えがまとまりました」

「は、はい」


 緊張したように見つめてくる彼女に笑いかけ、ジョウはわざわざベッドから出ると、小さく声に出した。





「封印されし我がしもべよ。ジョウ・キザキの名において命じる。我が召喚に応じ、その姿を現せ――ホワイトファング!」


 ジョウの声に応じて眼前の空間に青白い魔法陣が出現し、回転を始めた。

 すると、床から見て縦向きに展開した魔法陣から、いきなり巨大な魔獣が姿を現し、すたっと床に着地する。


 ブルブルッと体を震わせた後、ジョウの方を見た。

 動物で言えば毛並みからして、ゴールデンレトリーバーに似ているが、ただし毛並みは純白だし、体躯たいくも犬の数倍はある。フェリシーくらいなら、二~三名は背中に乗れるほどだ。


 そいつの頭に手を置き、ジョウは命令を告げた。



「彼女を守ってくれ。頼むぞ」

 フェリシーを手で示すと、忠実なしもべは彼女のそばに近寄り、彼女の足元に鼻先をすりつけた。

 怖がるかと思ったが、フェリシーの方もむしろ大喜びでホワイトファングの頭を撫でていた。

「わあっ」

 珍しく子供っぽい声に、ジョウはまた苦笑してしまう。


「当面、こいつを護衛としてフェリシーの影に忍ばせておきましょう。戦場では俺の目が届かない時もあるでしょうけど、こいつがいれば、まず大丈夫ですしね。もちろん、今後はフェリシーが呼んでも、ちゃんと応じてくれますよ」


 途端、フェリシーがぱっと立ち上がる。


「では、連れて行ってくださるのですねっ」


 駆け寄ってきて、ジョウの胸に飛び込んで来た。

「おっと」

 戸惑ってしまったが、ジョウもそっと腕を回してあげた。


「話が逆でしょう? 指揮官のフェリシーが、副官の俺を連れていくんですよ」


 抱き締めながら、ジョウは軽く彼女の背中を叩いてあげた。



 ああ、俺は益々深みに嵌まってるなと思わないでもないが……なぜか、悪い気分ではなかった。

 


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