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年季の違い

「抜剣するということは、ご自分の発言の正当性をまさに今から証明するいうことで、これは筋が通っています! 無論、私は喜んでダミアン殿の挑戦を受けましょう。男同士の勝負の結果、ダミアン殿が私を叩きのめせば、私は喜んで自分の発言を取り消し、首でも掻ききって果てましょうぞ。如何いかに!?」


 ジョウが謁見の間にガンガン響き渡るほど大声で、しかもある意味では分かり易すぎる挑発をしまくっていると、レイが感心したように褒めてくれた。


『徹底してわざとらしく、しかも敵を完膚なきまでに追い詰めて叩き伏せるその仕打ち、わたしは好きですよ』

『おうさ。だいたい俺は、ああいうクソ生意気な馬鹿が嫌いだ。なにが王の右手だっ。ぶっ飛ばしてくれるわ』


 ジョウ自身も、こっそり心中で答えてやった。

 これで、まだダミアンが自身が尻込みでもしたら、もう少し煽ってやるつもりだったが、幸か不幸か彼はジョウが思う以上に自信家であり、なおかつ導火線が短かった。


 おそらく、長らく今の地位にいるせいで、あまり喧嘩を売るような奴がいなかったのだろう。


「こわっぱめ、よくぞ言ってくれたっ。そこまで言うなら、このダミアンが年季の違いというものを見せてやろうではないかっ」


 早くも剣を手に、のしのしと歩み寄る。





「年季!? ああ、年季ですかー……はははっ、そりゃ年季は大事ですね、はっは!」


 堪えようもなくジョウが噴き出すと、「なにがおかしいっ」とまた怒鳴られてしまった。

「いや、失礼」

 ジョウはさっと嘲笑の表情を消す。

 たちまち、どこから見ても真面目な顔で言う。


「実は不肖ふしょうわたくし、誰かから『おまえとは年季が違う』と言われると、つい笑い出してしまう、難儀な癖がありまして」


 大真面目に一礼すると、視界の隅でフェリシーが口元を押さえたのが見えた。

 声を出さないように我慢しているようだが、今誰かに脇腹でもつつかれたら、大爆笑してしまうような案配である。

 どうも、ジョウの言い草に受けたらしい。


「しかし、本当によいのか、ジョウとやら?」


 ガストン王がジョウとダミアンを見比べた。

「ダミアンの剣技は予の目から見ても、相当なものだと思うが。それに、フェリシーも少し心配しているようではないか」

 俯いて顔を覆っているフェリシーを見て、どうも勘違いしたようだった。

「いえ。フェリシーに異存はありません」

 ようやく顔を上げ、フェリシーは目尻の涙を指先で拭った。

 ジョウとしては、別にそんな大したことを言った覚えもないので、少し意外だった。やはり、年頃の女の子なのだろう。


「きっとジョウさま――いえ、ジョウなら、不安はないと存じますわ」

「そうか……まあ、そなたがそう言うなら」


 王も興味はあるらしく、ほっとしたように頷いた。

 わざわざジョウに告げる。


「仮に敗れたとしても、義妹を迎え、そなたを厚遇する予の気持ちに変わりはない。それでいいな、ジョウ?」

「はっ。ありがたき幸せ」


 今度ばかりは、ジョウも割と本気で低頭した。

 少なくとも現時点、ガストン王がフェリシーに気を遣っているのは間違いない。それがわかっただけでも、挑発をした甲斐があったというものだ。


「では、この場で簡単な試合を行おう。これ、誰か木剣を――」

「いえ、別に真剣でも私は平気ですよ」

「……しかし、危険ではないか? 万一のこともあるだろう?」


「ご心配には及びません、陛下」


 ジョウはにこやかに言ってのけた。


「ちゃんと加減は心得ておりますので」


 このセリフの意味がわからない者は、さすがにこの場にはいなかったようだが……一番激しい反応を見せたのは、もちろん当事者のダミアンである。





「おのれ、そこまで言うのなら、覚悟するがよいっ」

 怒声とともに剣を振り上げ、躍り込んできた。


(うわぁ……王の右手というから、もう少しマシな腕かと思ったが)


 ジョウはむしろ呆れた思いで、真っ赤な顔の相手を眺める。

 一応、相手が間合いに入るまで待ってやってから、おもむろに動いた。


 ――その刹那、周囲に微かな風の音が満ちる。


 踏み込みと抜剣はほぼ同時であり、ダミアンの剣が頭上に迫った正にその瞬間を捉え、唸りを上げて魔剣の青い軌跡が走った。

 最初の一撃でダミアンの手元から高価そうな剣がすっとび、次に返す刀で、ダミアンの首筋に綺麗に(峰打ちの)剣撃が入った。


 彼が一つの動作を終える寸前に、ジョウは一瞬で複数の動きをこなし、なおかつ、その全てを狙い通りに終えている。

 よろめいて倒れる相手を避け、ジョウは静かに刀を鞘に収める。


 パチンという音の後で、ダミアンがモロに顔面から床に倒れる音が続いた。


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