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(文通相手の)王女誘拐を決意



 城崎丈きざき じょうが、王女を誘拐する決心をしたのは、当人からもらった以下のようなマジックレターが原因である。




○五月二十日○

お別れです


フェリシーのたった一人のお友達であり、親愛なるジョウさま。

三日前に書いた通り、フェリシーは他国へ嫁がされるようです。

お、お相手は、大陸辺境のガラグレイスという、少数民族の国で、そこの族長のようです。

ダンドロスというお名前だそうですが、既に齢五十八歳だそうです。

……フェリシーはまだ九歳ですのに。


養父は、滅亡寸前だったエルフ一族の王族末裔であるフェリシーを故郷の地から奪い、養女とされましたが、それはおそらくこのような時のためだったのでしょう。

フェリシーがガラグレイスへ嫁ぐことで、彼らは帝国の支配下に入ることを承諾したとのこと。

……本来は政治の道具として使われることに納得すべきかもしれませんが、フェリシーは無念でなりません。


元より、エルフ一族の血が流れるフェリシーは、ブラウフェンベルグ帝国とは、なんの関わりもない身。

それが、望まぬ養父に無理に養女にされたかと思えば、こんなことになるなんて。


……愚痴ばかり書いてごめんなさい。

でも、ジョウさまはたった一人のお友達なので、どうしても聞いて頂きたかったのです。

ガラグレイスへ向かう使者達が、明日には到着するそうです。


ミラーマジックによるマジックレターは、鏡さえあれば可能とはいえ、もはやフェリシーがジョウさまに文を送ることはないと思います。

だって、花嫁としてかの国へ赴いたら、もう二度と以前のような気持で文章を綴れませんもの。


この一年間、本当にありがとうございました。

助けを求める声に応えてくださり、フェリシーは嬉しゅうございました。

それと……前の手紙でも書いたけれど、長い間、身分や年齢を隠していてごめんなさい。

でも、フェリシーはどうしてもお友達が欲しかったのです……許してくださいましね。


どうぞ、今後も壮健で、健やかに……フェリシーは異国の地でジョウさまのことを考えて過ごすことにします。


フェリシーの少尉さまへ 

フェリシー・ブラウフェンベルグこと、フェリシー・ローランより 




  



「くそったれの皇帝め!」


 大型の鏡に浮かんだ文面を三度読み返した後で思わず唸り、ようやく城崎丈――いや、ジョウは席を立った。

 狭い私室の中で、机をひっくり返して暴れ回りたい気分だったが、その力は、今後のために取っておくことにする。

 フェリシーは、元々はランダムマジックによる、彼女からのマジックレターでの呼びかけで知り合った女の子だが――。


 前回のマジックレターで初めて知ったことだが、まさか相手がジョウの仕える国の王女様で、しかもまだ九歳だとは思いもしなかった。


 その驚きも覚めやらぬうちに、この結婚話である。

(しかも、相手は辺境の蛮族のヒヒじじいじゃないか! 確か、年取った相撲取りみたいなおっさんだぞ、あいつって。おまけに、女たらしで有名だしなっ)

 記憶によれば、蛮族のくせにハーレムまで持っているとか? 新聞で見た、銀板カメラで撮影した写真を思い出し、ジョウは顔をしかめる。


 まぎれもなく、自分がこのアルフェンリーク大陸という異世界へ迷い込んでからこっち、最悪の出来事だった。

 ジョウは窓から石畳の街路を見下ろし、しばし考えたが……しかし、幾らも考えないうちに結論が出た。



「よし、こうなったら王女を誘拐する!」



 本気かよっ、と自分でも思わないでもない。

 せっかく経歴を誤魔化し、帝国軍の士官学校に潜り込み、ようやくそこを卒業して少尉の任官を受けたばかりなのである。


 三百二十歳という実年齢も、なんとか見かけの若さでごまかすことができた。

 しかし、王女誘拐などの大事件を起こせば、どのみち遠からずジョウが犯人だとバレ、今の身分も失うだろう。

 しかし、フェリシーの養父である現皇帝に愛想が尽きた以上、あまり今の身分に拘る理由もなくなってしまった。


 俺は王女を誘拐し、ヒヒじじいから救う!


 決意した途端、ジョウは嘘のように気持が落ち着いた。

 むしろ、もっと早く決断すべきだったとさえ、思った。


「待ってろよ、王女様。あんたをじじいに渡したりはしないからなっ」


 ジョウは机に戻り、早速ミラーマジックを使い、マジックレターをつづった。

 内容はごく簡単に、「自分が助けに行くので、心配しなくてよい」的な、正気を疑われるような内容である。

 まあ運が良ければ、彼女が見てくれるだろう。


 鏡に映るマジックレターを見るには、最初に二人で決めたパスワード的な封印解除の呪文が必要なので、他人に覗き見される気遣いはない。

 仮に封印解除前に見られても、鏡が曇っているように思われるだけだ。

 まさか、魔法を使った文通が原因で王女誘拐を決意するとは思わなかったが……ジョウの心に後悔はなかった。


 待ってろ、フェリシー。俺には強い味方もいるし、必ずおまえを助けてやる。


 ……今も体内にいるはずのかつての魔王エグランシア(レイ)の姿を思い出し、ジョウはニヤッと壮絶な笑みを浮かべた。

 真面目な少尉さんの仮面も、今日で終わりだ。


 今宵、俺は花嫁候補の王女を誘拐する!


異世界侵略の話が終わったので、新たに別の物語を始めます。

こちらもよろしくです。


……かつての魔王(外見は少女)を体内に封印し、彼女と共に生きている戦士の話ですね。

それが魔法の文通を経て、相手の王女のために戦うことになる……という。

例によって、タイトルなどは、全て仮です。


○知らなくてもあまり問題ない用語○

マジックレター

ミラーマジックと呼ばれる魔法を使い、鏡の上に文章を書いて任意の相手に送る。

解呪のキーワードがないと当人達以外には読めないので、文通に使われることも。

ランダムマジックで、不特定の相手と繋がって文章をやりとりする、ネット的使い方もできる(やりとりのきっかけがコレ)。

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