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眠りより覚めた男

 とにかく腹が減っている


 眠りから覚めてもう何ヶ月たったのか・・・


 つまらぬ余生、退屈な日常、それとは逆に騒がしい王都。


 この男から見れば何もかもが退屈で怠惰な世界・・・

 ついこの間までそう思っていた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 聖稜王都に働く王国騎士団、その彼ら、彼女らたちの勤務は王城塔の鐘が17回鳴ったとき終了する。


「お疲れ〜」


 王国騎士団一兵士のジャンは軽快に同僚に挨拶を交わす。

 皆も次々とジャンに挨拶を返す、たわいない会話は今日も王城内は騒がしそうだなとか、次の王は誰なんだろうなとか・・・

 これ、最近の騎士団の間では同じ会話が繰り返されている。


 ジャンもさすがに飽きてきてはいた、毎日毎日同じ話題でよく盛り上がれるなぁと。とは思うもののさすがに場の空気を別の話題に変えられるほど彼の話のネタはない。

 しかしここに例の噂が入ってくる、王選の影に隠れてはいるが密かに話題になっているとある店の話。


「なぁ、噂になっている店。俺らで行ってみないか?」


 その話を振ったのは兵隊長のオーバルだった。皆の表情が強張る。何故ならその店は王国騎士団の誰一人が行ったことがない店。値段も不明、どんな物を扱っているのかも不明、ただ給仕の女の子が非常に可愛いということだけ。


「俺は前々から気にはなっていたからな、今日行くつもりだった。ついてくるやつがいるなら俺が奢るぞ」


 隊長の奢り、それは非常に魅力的な発言だったが手を上げるのを躊躇う。だがジャンがこの魅力発言に飛びつかないワケがない。


「隊長!俺行くっす!」


 ジャンの発言に触発されたか、同じく一兵士のガードが手を上げる


「僕も行ってみていいですか?」


 オーバルは他の団員を見るが挙手はジャンとガードの2名。


「よし、ジャンとガードは俺についてこい。噂の店に乗り込むぞ」



 路地裏通り手前---


 赤く光る不思議な灯りに誘われそうな雰囲気がその店にはあった。オーバル、ジャン、ガードの3人は不思議な入り口に戦々恐々しながらも店の扉を開ける。


 開けた瞬間、違和感だった。


「いらっしゃいませ〜!」

「・・・いらっしゃい」


 木目調の店内には夕焼けを思わせる『空』があった。新しいがただどこか懐かしい、さらに噂通り給仕の女の子は非常に美人でスタイルもいい。


「えっと〜、3名様ですー!こちらどーぞ」


 案内された席は新品だったが使い古された感じのイスとテーブル、見慣れない調味料。まさに違和感だらけ


「飲み物どーする?」

「あ、あぁ。取り敢えずビールを3つくれ」


 突然の注文にさすがの隊長も挙動するがそこは冷静に対処


「はーい、ビール3つね〜」


 長い金色の綺麗な髪を振りかざして給仕の女の子は店の奥に消える、と同時にカウンター内の渋めの店主らしき人物が声をかける。


「メニューはそこにあるのでその中から選んでください、うちは『焼き鳥』がメインですよ」


 3人の頭の中にハテナマークが浮かぶ。そして、3人でコソコソ声で話し始める


「(おい、焼き鳥ってなんだ?)」


 隊長のオーバル


「(知らないっすよ、俺もはじめて聞きます)」


 困り顔のジャン


「(取り敢えずオススメって感じで注文してみませんか?)」


 不安そうな感じに話すガード

 その案でいこう、ということで隊長のオーバルが店主に注文をする


「すまないが店主のオススメで作ってくれないか?」

「かしこまりました、本数はおいくつで?」


 本数?これは予想外の質問が返ってきた。


「えぇと・・・1人5本ずつで頼む」


 隊長も混乱しているようだ。


「はーいビール3つお待たせ〜」


 大きなジョッキを器用に持ちテーブルにビールを置く、瞬間3人の目は豊満なバストに釘付けになる。みたことのない給仕服だったが胸元がやけに大きく開いているので見てしまうのは男の性というものだ。

 それとほぼ同時に肉を焼く音が聞こえ食欲をくすぐるいい匂いが漂ってくる。


 これは意外にまともな店なんじゃないか?3人はそう思う。


 不意に店の扉が開き、禍々しいオーラとともに1人の男性客が入ってきた。


「いらっしゃいませ〜!!」


 その男は店内をぐるっと見渡すとカウンターの一番奥に座る。人間ではとても不可能な雰囲気を醸し出し店主に注文をする。


「・・・なんでもよい、飯をくれ」


 店主もその男のオーラに少々ビビりながらも頷きながら何本かを焼く。


「焼けるまで少々お時間を頂きます、お待ちいただく間お飲み物はいかがですか?」


 店主のこのお客を見た感じ。


 ひどく衰弱しているように見えるがそれでも弱っているように見えない。ちょっと急ぎめですぐ焼けるものを提供しよう。


「酒か・・・今はいい」


 店主は焼き鳥をその男性客に一本提供した


「火が通るのが早かったので先にこちらをお出しします」


 カウンターの男は不思議な目でその串をみる、見たことがない・・・鶏肉のようだがこんな食物は初めて見る。

 おもむろにかぶりつく、噛んだ瞬間に違和感、歯応えがありこれは本当に鶏肉か?と疑問符が浮かぶ。しかしそれ以前に美味い。これは酒が欲しくなる・・・


「お飲み物、どうされますか?」


 ここで店主のこの発言、男は迷わず注文をする


「この肴に合う酒がいい。オススメで頂こう」


 たった一本でこの満足感、これなら渋めの酒でもよい。と思っていると店主が出した酒はワインだった。


「『シャルル・ド・ボー』という赤ワインです、これなら先ほどお出しした【せぎも】にもぴったりですよ」


 一方3人の騎士兵はビールを飲みながらこの店の魅力や誤解を小声で語っていた。


「意外だった、焼き鳥というのは見た感じ鶏肉を串に刺し焼いた料理みたいだな」

「ですねぇ、つーかこのビールウマっ。王都で作ってるものじゃないんかな」

「かもしれません。王都のビールってこんなに泡、たちませんよ」


 そんな会話の中、暇なのか給仕の女の子が3人に話しかける


「最近オープンしたんだけど〜、イッチーの作る焼き鳥。マジ絶品だから。アタシもすっごくハマった人だよ〜。ぶっちゃけアタシ見に来る男の人多いけど、メインの焼き鳥食べてってくれるとアタシは嬉しいかなぁ」

「お3人方、お待たせしました。店主オススメ串盛りですよ」


 タレのいい匂い3人の食欲を加速させる、たかが串焼きの肉と侮っていた。かぶりついた瞬間止まらなくなるこの美味さ、サクサクとした食感のもあり、また串ごとに脂の乗りや歯応えも違う。これが本当に鶏肉だけなのか?

 まさに彼女の言った通り『マジ絶品』


 カウンターの男は非常に満足した表情を浮かべこう思った。




 ーここは、面白い。つまらぬ余生を過ごすならこういった場所も一興だなー











更新不定期勘弁m(_ _)m

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