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ポニーテールは笑わない。  作者: 藤和春幹
第一章
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第8話 プレイボール

 そして土曜日。


 私は練習試合の日には静江さんに準備を手伝わされるため、大体集合の一時間前に来る。


 普通はマネージャなんかがやる仕事ではあるのだが、残念ながらこの学校の野球部にはそのマネージャーがいない。


「いつも悪いね、佐山さん」


「いえ」


 準備のため部室棟の方へ向かうと、そこへ野球部顧問兼監督の山内先生が話しかけてきた。


 彼は同時に私のクラスの担任でもあり、普段は学校内の事務が忙しく部活に顔を出すことは少ないが、試合には当然同行する。


「そういえば、新しく入ってきた安達さんだけどね。仲良くしてくれてる?」


「別に」


 彼女なら何もしなくても勝手にチームに溶け込んでいくだろう。我ながら人付き合いの悪い私にも、あれだけフランクに話しかけてくるのだ。


 まあ、空気が読めていない感はあるのかもしれないが。


「安達さんのこと、本当によろしく頼むよ」


「? ……ええ」


 私は至極適当に相槌を打った。


 その時、先生が何をそんなに頼みたいのか、私には分からなかった。



 そのうち静江さんが来て、準備が終わったところで部員がちらほら集まり始める。


 九時に点呼をとり、全員揃ったのを確認したところでいくつかキャプテンから話があって、その後野球部は学校を出た。


 場所は一昨日にも練習を行った市営グラウンド。かなり近いので、こうして学校に集まって歩いて行くのだ。


「ちょっと緊張するかも」


 その道中、安達が顔を少し頼りない感じに歪めながら言った。


 私は無視するつもりだったが、小動物のような瞳で訴えられ、不承不承対応することにした。


「あんたでも緊張することあるのね」


「過大評価しないでほしいな。私だって緊張の一つぐらいするよ」


 まあ、さっき発表された今日のオーダーも一因としてあるだろう。


 彼女は入部して最初の練習試合だというのに、スタメン3番キャッチャーで起用されることになっていた。


 いつもオーダーを決めるのはキャプテンだが、彼女の打撃力にはキャプテンも驚くところがあったらしい。


 ちなみに私は五番ピッチャーで先発する。プロ野球ではピッチャーといえば九番が定石だが、ピッチャーの上位打線起用は高校野球の中では珍しいことではない。


 自分で言うのは少し気が引けるが、私は運動神経がいい。


 去年の三年生が引退してからは特に、私が高い打順を打つことも多くなった。スタミナの面を考えて大会では打順を下げられるのだが。


 そうこうしている内にグラウンドに到着する。


 どうやら相手方は先に来ていたらしく、すでにグラウンドには猪口高校のユニフォームを着た選手の姿があった。


 私たちは三塁側ベンチに入る。


 山内先生……いや、山内監督は相手側に挨拶に行くらしく、一塁側に小走りで向かった。よって、場を仕切るのは静江さんとなる。


「よし、各自アップを始めろ! 敦子と奈々君はキャッチボールを念入りにしておけよ!」


 キャプテンの号令で計十八人の部員達はウォーミングアップを開始する。


 何人かは集合待ちの際に大方済ませていたようで、すぐにグローブを持ってキャッチボールを始めていた。


 私もその一人で、まだアップの済んでいない安達を待つ間に静江さんを捕まえた。私の髪はポニーテールに結ってある。


「調子はどうだ、敦子」


「いつも通りです」


「それは何よりだな」


 ボールを放りながら言葉のキャッチボール。大体キャプテンが言って私が答えるだけではあるが。


「お待たせ」


 そのうちに安達がやってきて、今度は彼とキャッチボールをする。


 こちらに言葉のキャッチボールは無かったが、何も言わないということは何も問題が無いということでもある。


 試合開始が近付いてくると、今度はブルペンに入って本格的に肩を温める。


「おっけー。問題ないよ」


「ん」


 アップ終了。


 私たちが三塁側に戻るとすぐに、主審から整列の合図があった。主審を務めるのは猪口高校の選手らしき人だ。


「これより、猪口高校対成峰高校、練習試合を開始します。礼!」


「「よろしくお願いします!」」


 先攻はこちらだ。成峰側はベンチに戻り、猪口側が守備につく。


 投球練習も終わり、一番の屋敷大介先輩が打席に入ると、片手を上げて主審がプレイボールを宣言した。

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