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ポニーテールは笑わない。  作者: 藤和春幹
第一章
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第7話 全力で来い

 その翌日。


「よーし、敦子! 全力で来い!」


 練習試合を二日後に控えた今日、野球部の練習は市営グラウンドで行われていた。始めは自主練を行い、全員が揃った頃合を見計らって全体練習に入ることになった。


 今日の全体練習の題目はシートバッティング。守備九人を配置し、実戦形式で行うバッティング練習だ。


 キャッチャーには今日入部届けを出したという安達奈々、ピッチャーには私。ちなみにこの学校の投手事情は厳しく、私を除けば一年生に一人いるだけという状態だ。


「……無理です」


 静江さんは十六人目で、しかも私は一人二十球ずつですでに三百球。ボールになった球はカウントしていないため、ここまでで四百球近くも投げている。


 スタミナには自信があるが、さすがにもう疲れた。


 まずはストレート。一応コースは突いてみるが、簡単に弾き返される。外角を逆らわず右へ打ってライト線長打コースへ持っていかれた。


 中継を挟んで返球された硬球にはくっきりとバットの跡が残っていた。


 静江さんは女子ながらかなりパワーがある。


 そのくせ器用なバッティングもこなし、守備も上手いというスーパープレイヤーだ。


「やる気あるのか! ちゃんと投げて来―い!」


「…………」


 もう何も言うまい。


 私はヘロヘロになりながら二十球を投げ終えた。ヒット性の当たりは十五本。


 うち長打が半分以上を占め、柵越えは五本。練習とは言え、ヘコみそうになる。


 しかしこれでようやく終わりだ……。


 そう思いつつグラブを外そうとした私を、さらにヘコませる衝撃の事実が告げられる。


「それじゃあ、最後は奈々君だ。キャッチャーは私がやるからな。最後だから頑張れ!」


「……はい」


「よろしくねー、あっちゃん」


 今の私にはもう突っ込みを返す気力も残っていない。



 練習が終わると、安達奈々が冷たい水とタオルで労ってくれた。


「お疲れさま」


「本当、疲れた」


 たった数時間の間に四百球はさすがにキツすぎる。前にもこのように打撃投手を買って出ることはあったが、新入生(プラス転校生)が加わったために投球数は約五割増しになっている。


「でも、他にピッチャーがいるなら代わってもらえばよかったのに」


 答えるのも億劫なので静江さんににアイコンタクトを取る。彼女は頷いて代わりに喋ってくれた。


「これは敦子のピッチング練習でもあるからな。まあ、軽めの四百球なら大したことはない。もし限界を超えるようなことがあるなら、その前に敦子が自分から降りるだろう」


「でもあっちゃん凄いよ。あんなに長時間投げ続けられるなんて」


「褒めても何も出ないぞ。……と敦子は思っている」


 さすが静江さん。分かっている。あとあっちゃん言うな。


 確かにまあ、こんな練習大したことはない。これよりも、コールド負けしたあの試合の方がよっぽど疲れた。


 やはり、打たれるために投げて打たれるのと、打たれないために投げて打たれるのでは精神的疲労が段違いだ。


「ふっ。どうだ、今度は奈留美もやってみるか? 四百球」


「私は遠慮しときますよ。先輩みたいに体力ないですし」


 当のもう一人のピッチャー、一年生の長岡奈留美は苦笑していた。

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