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ポニーテールは笑わない。  作者: 藤和春幹
第一章
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第6話 夢のまた夢

「まあ、問題があったとしたら他の野手にあるんじゃないかな。筆頭はキャッチャーだね。キャッチャーのリードが下手だと、投手の能力が全然生きないよ。特に、君は速球派ってほどでもないし、配球がしっかりしてないと打ち込まれるのは仕方ないと思う。逆に言えば、リード次第で十分通用するとは思うよ」


 静江さんの言っていたことと同じだ。確かに理に適ってはいるが、若干腑に落ちない所がある。


 捕手一人だけが原因で、あれほどの点数が取られるものだろうか?


 だが、彼女はそれに答えてくれることはなかった。代わりに笑顔で胸を張って言った。


「まあ、私が入部したらリードの方は任せて。キャッチャーなりに自信はあるよ」


「…………」


 うん、とは頷けなかった。


 やがて日も落ち、ナイター施設のないグラウンドは硬球を目で追えないほど暗くなった。


 当然野球部は練習を終えており、今はキャプテンの号令の下一箇所に部員が集まっていた。静江さんは人数を確認して、闇の中喋り始める。



「よし全員いるな。三日後、今週の土曜日に猪口高校との練習試合を組んだ。全員午前九時に学校に集合するように。遅れるなよ! じゃあ解散!」


 キャプテンの一声で部員たちは各々散っていった。


 練習試合は珍しいことではないが、新入生は気になるらしく先輩たちに色々と質問していた。


 ちなみに、律儀にも部活終了までいた安達奈々も、これについて私に聞いてきた。


「猪口高校って強いの?」


「凄く強くはないけど、成績はウチより上」


 県立猪口高等学校は常に県大会で三回戦ぐらいには残るような高校だ。


 全体的に見れば野球部が強いという印象はないが、万年一回戦敗退か、よくても二回戦でコールド負け程度の成峰からすれば十分強豪だ。


「あんたさ」


 私は珍しくも自分から話しかけていた。


「結局、野球部入るの?」


「入るよ」


 彼女は断言した。


「私さ、目標があるんだ」


「何よ」


 闇にも映える綺麗な顔で、一切の迷いなく言い放った。



「甲子園」



「……意外と普通なのね」


「そうかな?」


「思うのは簡単だが、はっきりと宣言するのは難しいものだぞ」


 まだいたのかキャプテン。


「だが、実現するのはさらに難しい」


「分かってますよ。それは」


 当たり前だ。この学校が甲子園、全国大会に出場するなんて夢のまた夢。


 夢の中で夢を見る夢を見るようなものだろう。


「でも、私は不可能だとは思ってません。いくら確率が低くても、ゼロじゃないんだから」


 静江さんは一瞬ぽかんとしたがその後すぐに、くっくっく、と笑って大根役者顔負けのクサい仕草で天を仰いだ。


 正直何をそんなに笑い殺してるのか分からなかったが。


 しばらくして、こちらへ向き直った静江さんは心底嬉しそうにこう言った。


「やる気はあるようだな。歓迎するぞ、奈々君!」


 下らないスポーツドラマのような光景に、私はこらえきれずに溜め息を吐いた。


「あっちゃん、よろしくね」


「え……ああ、うん」


 あと、あっちゃん言うな。

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