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ポニーテールは笑わない。  作者: 藤和春幹
第一章
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第4話 ファーストコンタクト

 私の通う成峰高等学校は、県内有数の進学校である。


 この学校はグラウンドが狭いため、野球部は十分な練習面積を確保できない。そこで、一週間に三回だけ近所の市営グラウンドで練習が行われる。


 バッティング練習、外野ノックなど広いスペースが必要な練習はそこでやる必要があった。


 では、学校では何の練習をしているかと言うと、この野球部の伝統として自主練習が基本となっている。


 やりたいことをしろ。だがサボるな。それがルール。


「君が噂の奈々君だな? 私がこの野球部のキャプテン、山中静江だ」


「あ、よろしくお願いします」


「実はうちはキャッチャーが不足していてな。非常に助かる」


 がっちり握手。これで彼女も野球部に入らざるを得なくなった。まあ、最初からそのつもりだろうが。


 私はその様子を横目に眺めながら準備運動を始めた。


 足から腰、肩をゆっくりと動かし、体を覚醒させていく。さて走ってくるかとグラウンドの端に寄った私の背中に、声がかかった。


「敦子!」


「はい」


 キャプテンだった。その片腕はしっかりと安達奈々をホールドしている。


「奈々君に野球部のことを教えてやれ。頼んだぞ」


 有無を言わさずキャプテンは走っていってしまった。


「はあ……」


 仕方ない。あの人の頼みだ。


 私はキョトンとしている彼女に、「ついてこい」と手を振った。途端に嬉しそうな顔になり、こちらに小走りでやってくる。


「面白そうな人だね」


「まあ、悪い人じゃない」


「で、これから何するの?」


 私は周りを見渡してみた。十数人ほどの部員が思い思いに体を動かす風景が目に入る。


 素振りをしている部員、ノックを受けている部員、はたまたそれを打っている部員など、そのメニューはバラバラだ。


 自由気ままな練習方式、そして逸材の集まらない公立進学校。


 その要素が合わさって、万年成峰は弱小の烙印を押されていた。


「……大体分かった?」


「うん。まあ要するに勝手にやれってことだね」


「そ。それじゃ、私は勝手にアップしてくる」


 言い終えて、私はグラウンドの周りをランニングし始める。


 少し気になって振り返ってみると、彼女はグラウンド端の影に座り込んで、練習風景を見学しているようだった。私はまた前を向いてランニングを続けた。


 走り終わり、次はキャッチボールをすることにした。


 相手が必要なのでいつも通り静江さんに付き合ってもらうことにしよう――


「敦子。せっかくだから彼女に相手をしてもらえ」


「はあ」


 ――と思って言いに行くと、返ってきたのは唐突な提案だった。


 静江さんが指差すのは日陰に座り込んでいた安達奈々の姿だ。つまり、彼女とキャッチボールをしろということだろう。


 ま、仕方ない。


「始めるわよ」


 ジャージ姿の彼女に、先輩の誰かが置いていったのであろうボロボロのキャッチャーミットを渡して私は彼女と正対する位置に立つ。


「いいよー」


 左手に握った硬球を安達の胸元めがけて弱めにスローイングする。


 彼女はそれを慣れた手つきでキャッチし、今度は私に投げ返してくる。それを難なくグローブで受けて、ファーストコンタクトは無難に終了した。


 その後、徐々に距離を伸ばしながらキャッチボールを続け、互いに三十球ほど投げ終わったところで切り上げた。


 これで分かったことが一つ。


 彼女はかなり肩が強いらしい。距離を離すごとに、むしろ送球は上手くなっている気さえした。


 ウォーミングアップが終わったところで、私は練習に入ることにした。


 ピッチングにはキャッチャーが必要なので、静江さんを呼びに行く。


 彼女の本職はサードだったが、去年の三年生が引退したことでキャッチャーがいなくなってしまったため、臨時でキャッチャーを兼業することになった。


 もし安達奈々が入部すれば、本職に戻ることになるのだろうか。

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