表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポニーテールは笑わない。  作者: 藤和春幹
第二章
28/44

第27話 おはよう

 夢を、見ていた。


 悪夢ではない。むしろ、最近の私にしては珍しいことに、快夢と言っても差し支えないものだったと思う。


 よく内容は覚えていない。でも、その温かさは覚えている。



 私はベッドから身体を起こした。真新しい清潔そうなシーツを抜け出し、床に足を着ける。


 立ち上がって私は自分の全身を検めた。


 服は、寝入ってしまう前と同じだった。膝丈パンツと黒い上着という軽装。フリーマーケットで安く売っていたものを見つけて買っただけのものだ。


 下着もそのままだった。私は寝る時はいつも下着を着けないから、心なしか胸が苦しい気がする。まあ、誇れるほど胸も無いが。


 夢見心地のまま、私は部屋を出た。


 廊下をおぼつかない足取りで歩いていき、階段を下りる。――あれ? おかしいな。


 違和感を覚えつつも、私の覚醒しきっていない脳はそれ以上の思考をやめた。代わりに、今度はいい匂いが鼻を突いてくる。味噌の香りだ。


 リビングのドアを開けると、それはさらに確かなものになる。私は段々現実に引き戻されていくようだった。



「あっちゃん。おはよ」


 その声で、私は完全に現世に舞い戻った。


「あれ……」


 寝ぼけ眼で周りを見渡す。


 だだっ広い、と言っても過言ではないだろうリビングは、明らかに私の家とは違っていた。


 それに、私の部屋は一階にあるから、リビングに行くのに階段を降りる必要はないのだ。


 じゃあ、ここはどこだ?


「よく眠れた?」


「あ……うん」


 思わず返事をしてしまう。


 目の前にいるのは、安達奈々。間違いない。でも、どうして彼女が? と、そこで気付く。


「ここって……あんたの家?」


「そだよ。あっちゃん、あの後泣き疲れて寝ちゃったから、使ってない部屋のベッドまで運んだんだよ」


「ああ……そう」


 ふうん。私がその意味を理解するまでに、数秒。


「……うあっ…………」


 数秒後、私は激しい自己嫌悪に苛まれていた。恥ずかしい。超恥ずかしい。


 知り合いの家に泊まるなんて経験は当然初めてだし、しかも、私は意識がなかったのだ。


 運ばれたということは、多分彼女に担がれたのだろうが、そのことを想像するだけで顔から火が出るようだ。


 トドメとばかりに、昨日の記憶がまざまざと蘇ってくる。


 私も冷静さを欠いていたとはいえ、彼女の前で泣いたなんて、墓まで持って行ってでも周りには隠し通したいところだ。


「と、智美さんは……?」


「昨日からビジター三連戦だからいないよ」


 そういえば智美さんにも失礼なことをしてしまった。


「はあ…………」


 ため息を一つ。


 私はそれだけで、もうどうで もよくなっていた。


 前までの私なら分からなかったが、少なくとも今の私には、この状況を受け入れることはそう難しくはなかった。


 何となく、打ち解けた気がするのだ。私が抱えるものを全て吐き出して、彼女も同じようにして、そうしたことで私は彼女に心を許していた。


 ……そうだ。まだ言ってなかったことがあった。


「あの、さ」


「んー?」


「……ごめん」


 私が本気で人に謝るのは、何時ぶりだろう。


「へ? なんで謝るの?」


「一週間ぐらい前だけど。いきなり怒って出て行ったりして、ごめん、ってこと」


 これだけは、しっかりしておきたかった。本来の目的は果たせたとはいえ、私が悪いことをしたのは変わりないのだから。


 しかし、彼女はふるふると首を横に振る。


「あっちゃんが謝ることないよ。それなら、私だって悪かったし。あっちゃんの奥まで干渉するようなこと言っちゃってさ。……ごめんね、あっちゃん」


 あっちゃんあっちゃん言うな。でも、そうか。こういう奴だった。


 もしかすると、彼女のこういう人を気遣いすぎる性格は、彼女の過去が影響しているのかもしれない。まあ、どうでもいいが。


「そういえば、今何時?」


 私は話題を切り替える。そういう私も、結構空気とかは気にする方だ。


「十時半」


「は?」


 今日は平日のはずだったが。あれ……遅刻?


「あんた、学校は?」


 とりあえず自分のことは棚に上げてみる。


「あっちゃん中々起きないからさ。待ってたらこんな時間だし、まあ別に良いかなーなんて」


「そう……」


 確かに、私一人ここに置いていかれても困る。


 今日ぐらいは、できれば休みたい気分だったし、欠席ということにしておいても良いだろう。 静江さんには、後で連絡を入れておこう。


「とにかく、あっちゃん。朝ご飯食べないと」


 思えば、最近よく突っ込みを怠っている。私も着々と変わっていこうとしているらしい。


「ありがとう。奈々」


「うん。……うん? あっ、あっちゃんっ! いま、なんて!?」


「別になんでもないわよ。あっちゃん言うな」


 今度、日頃の仕返しになっちゃんとでも呼んでやろうか。私はそんな不毛なことを考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ