第15話 親睦会
「とりあえず適当にくつろいでて。準備してくるから」
と、入ったのとは別の扉に消えていく安達。
と思ったらその扉はキッチンに通じているらしく、ダイニング脇のカウンターの向こうでひょっこり彼女の姿が現れた。
今一度部屋を見回してみる。
キッチンとの間を隔てたカウンターの手前はダイニングスペースになっていて、真ん中にはクロスの掛かったテーブルが置かれている。
部屋の大きさに対してテーブルはやや小さめで、周囲には広い空間が出来ていた。
そして、私や他の三人が立っているのがリビング。カーペットが敷かれ、液晶テレビを始めとして様々な家具や装飾品、観葉植物などが並べられている。
だが、それだけ物が並べてあっても、狭いように感じないほどの広さがあった。
「あっちゃん!」
カウンターからお呼びがかかる。というかあっちゃん言うな。
「運ぶの手伝ってくれる?」
カウンターに菓子がなみなみと盛られた器が置かれる。まあ、断るいわれは無いので素直に運ぶことにする。
ダイニングのテーブルに置くのかとも思ったが、どうやらリビングの方に持っていくらしい。言われたとおり、リビングにある背の低いガラスのテーブルの上に器を置く。
「ありがと」
と、安達は何やら麦茶のような茶色い液体が入ったグラスを載せた盆をテーブルへ。
それにつられるようにして全員がテーブルの周りに集まる。
「じゃ、とりあえず乾杯しようか」
何の祝いでもなければ、むしろ逆だとも思うのだが、何も言わないでおく。
「かんぱーい」
ガラス同士が一斉にぶつかる音。
荒木が菓子の器に手を伸ばす。器にはクッキーやチョコレートといった洋風なものから、純和風なしょうゆせんべいまで幅広く取り揃えられている。
「あむ。んー……おお? おー……」
クッキーをくわえてから数秒、なぜかそのまま固まってしまった荒木が覚醒したのは、さらに数秒後だった。
「うめえ!」
要するにそういうことらしい。
「貰い物だけどなかなか片付かないから。どんどん食べちゃってよ」
事情をバラす安達。余るほど菓子があるのか……。羨ましい。
私はとりあえず手前にあったチョコレートをぱくり。まあ、普通に美味い。
「……さて、と」
各自思い思いに菓子を摘んでいた時、安達が立ち上がった。
何をするのかと思えば、彼女はテレビの下の棚のようなスペースを開いて、何やらいじり始めた。
それが終わると、今度はテレビ側面の電源スイッチを押す。少し時間があって、テレビの画面が明るくなった。昼ドラか何かの映像が流れたのは一瞬で、安達はリモコンの入力切替ボタンを押した。
テレビの画面には、某有名野球ゲームのタイトル字が躍っている。これはもしや……。
「ゲームやんの?」
荒木が聞く。安達はうん、と頷いて言った。
「親睦会だよ。いきなり反省会っていうのも萎えるでしょ?」
――――――――
「またあたしの勝ち! あたし最強! にゃーっはっは!」
豪邸のリビングに甲高い叫びが響き渡る。コントローラー片手に狂喜の声を上げるのは荒木千弘。
親睦会、と称したゲーム大会が始まってかれこれ二時間程が過ぎた。
安達が選択したのは、野球経験者でなくとも大体が知っている野球ゲーム。この場にいる五人は全員プレイ経験者で、操作も知っている。
対戦モードで勝ち抜き戦を行ったところ、荒木が安達、長岡、静江さんと三連続で下して今に至る。
ちなみに、私は参加せず、画面を眺めながら器に乗った菓子の容積を減らす作業を続けていた。
しかし、このせんべいは美味い。
「次はあっちゃんの番だよ」
安達がコントローラーを差し出してくる。
「あっちゃん言うな。私はいいわよ別に……」
バリっとしょうゆせんべいをかじりつつ、私は拒否のポーズ。
「ほーう? 何あんた、逃げるの?」
荒木が見下したような視線でこちらを見る。むかつく。
「逃げるんだー? 負けて恥かくのが嫌なんでしょ? ふーん」
「……は?」
カチンときた。
こんな言い方をされては、勝負を受けない方が失礼というものだろう。いや、そうに違いない。
私に勝負を断る理由はなくなった。
「安達」
「うん?」
「コントローラーを貸しなさい」
はい、と手渡された黒い色のコントローラーを受け取る。
「やる気になったのね? ふん。後悔させてあげるわ!」
どっちが。というか、勝負を吹っかけてきたのはそっちだろうに。
私がゲームに参加しなかったのは、負けるのが嫌だったからでも、ゲームが嫌いだからでもない。
「敦子! 私達の仇を討ってくれ!」
「先輩、頼みましたよ!」
荒木、完全に孤立。まあ、声援に応えるわけではないが、全力は尽くさせて貰おう。
いや、全力で行かせて貰おう。
「ほら、早くチーム選びなさい」
言われたとおりにチームを選ぶ。選択肢は日本プロ野球の十二球団だが、私は地元の広島東洋カープを選んだ。
続いてオーダー決めに入る。
とは言っても、両者デフォルトで設定されているベストオーダーのまま動かさず、私はお気に入りの投手を先発に決定。
ルール設定はプロ野球セ・リーグと同じ。つまり、指名打者はなしだ。
「佐山! 覚悟しなさいよ!」
そんなこんなで、試合開始となった。




