第13話 孤高のマウンド
「センター!」
安達の声がグラウンドにこだまする。真っ直ぐ弾き返された白球を追って、センターの屋敷先輩が駆けていく。
走って、走って、走って……。
止まった。
だが、グローブは掲げない。代わりに、手を額にあてる。
ボールは柵の遥か上を越えて、スコアボードに直撃した。逆転のツーランホームラン。
その瞬間、一塁側のベンチから歓声が上がった。
だが、その声は私には聞こえていなかった。私に聞こえていたのは、自嘲の入り混じった自問自答だけ。
三塁側のベンチと、そしてグラウンド上の成峰ナインは失意に肩を落とした。
だが、その光景は私には見えていなかった。私に見えていたのは、少し滲んだ視界に映るマウンドの土だけ。
なんで、どうして、こんなところで。私は、私……は……っ。
私は俯いていた。そんな私の肩に手が置かれる。
見上げると、そこには安達がいた。彼女は少し悲しそうな表情で、でも声色は優しく、言い聞かせるような口調で言った。
「ちょっと、休もう」
守備の交代が告げられた。
ピッチャーには長岡奈留美。ファーストが外れて、そこに私が入る。いつでも私が行けるように、という策だ。
だが、それ以降私がマウンドに上がることは無かった。
長岡はその後無失点に抑えたが、成峰側に追加点は無く、試合は終了した。
私は六回途中五失点で敗戦投手。
正直、気分は最悪だった。解散となった後も、私はグラウンドの端に座り込んで、何をするわけでもなく俯いていた。
はたから見れば、眠っているか、瞑想しているようにも捉えられるかもしれない。
その私の肩を叩いたのは、やはり安達奈々だった。
「お疲れあっちゃん」
「……あっちゃん言うな」
「元気なさそうだね」
「分かるんなら話しかけないでよ。鬱陶しい」
私は俯いたまま言った。嘘ばかり。
「反省会、しようか」
「え?」
唐突なその提案に、私は顔を上げた。
「そう。今のあっちゃんに何が足りないか、そしてそれをどう補っていくべきか。話し合おうよ」
「……今はそんな気分じゃない」
「じゃあ明日、うちに来てよ。明日のお昼一時、学校前で待ち合わせしよう」
全く話が噛み合ってない。さりげなくデートのような誘い方に私は何も答えなかった。
口を開かない私をよそに、用件だけを伝えて去っていく。「来るか来ないかは自由だけど」という言葉を残して。
誰もいなくなったのを見計らい、帰路につくことにした。既に時間は昼を回り二時になろうとしている。
家に帰ってもずっと、負けた心のもやもやは晴れなかった。




