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ポニーテールは笑わない。  作者: 藤和春幹
第一章
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第10話 絶好調

「おーし、しまって行くぞー!」


 大抵はキャッチャーが言うセリフをサードの静江さんが叫ぶ。まあ、前まではキャッチャーだったのだが。


「あっちゃん! 落ち着いて一つずついこう!」


 分かってる。あとあっちゃん言うな。


 先頭打者が打席に入る。左打ちでやや背が低めの男子生徒。


 何度か対戦しているから分かる。この選手は足が極端に速いわけではないが、選球眼がかなり良い。そしてかなり慎重な選手でもある。


 選手情報の伝達は済ませてあるので、安達もそれを心得ているのだろう。


 一球、二球目とサインはストライクのストレート。どちらも見逃し。


 ツーナッシングと追い込んだ。次のサインはスライダー。コースは……外角一杯か。


 三球勝負で仕留めるのね。上等。


 私はワインドアップから三球目を投じる。上手い具合に外側に逃げていき、バッターはこれを引っ掛ける形になる。


「ショート!」


 キャッチャー安達の声に呼応してショートが前進し、ゴロを捌いて一塁へ送球してワンナウト。


 続く二番。こちらは小技が上手い二番だが、ランナー無しでは仕掛けられることはたかが知れている。


 気にせず力押しで行けるだろう。


 またストレート二球で追い込み、最後もインハイにストレートを決めて空振り三振。


 うん。好調好調。


 ツーアウトで打席には三番。勝負強い打撃の持ち主だが、今はランナーなしだ。一発がある打者でもないし、今は警戒する必要はない。


 ここもリードは真っ直ぐ主体だ。


 初球ストレート、二球目はカーブでタイミングを外し、三球目のストレートを内角低め一杯に決めて三球三振。


 結局、初回を九球で終わらせた。


「ナイスピー。調子いいじゃん」


 屋敷先輩が声をかけてくる。私は「いつも通りです」と軽く答えてベンチに戻る。


 一回の攻防を終えて2対0とこちらがリード。


 その後、相手のピッチャーが持ち直し、二、三、四、五回と成峰高校は三安打の無失点に抑えられ、また私はその裏を計二安打に抑えて無失点。


 結局、二点差のまま後半六回の表を迎える。


 この回、先頭打者は四番の静江さんだ。二打席目は三振に終わっていた。


「っしゃこーい!」


 彼女が吼えると両側のベンチが静まり返った。その気迫に押されまいと、ピッチャーは腕を高々と突き上げて投球動作を開始する。


 五回投げてやや落ちてきた球威を取り戻すように、渾身の力を込めたストレートは、


「ふんっ!」


 しかし、キャプテンの一振りに弾き返される。


 全員が見つめる中、打球はぐんぐん伸びていく。そして――



「……あ、入った」



 ――私が小さく呟いた瞬間、ベンチが湧き上がる。静江さんが振りぬいた打球はセンターの頭上を越え、スコアボードに直撃した。


 六回の表。成峰高校の三点目はキャプテンの特大ソロホームランだった。


「ナイスバッティン」


「大したことないさ。敦子、お前も続けよ」


 キャプテンとタッチを交わして、私は打席に入る。


 相手は力を込めた直球をホームランにされた後で、気持ちを切り替えようとしているはず。


 そういう状況で打席には今日ヒットのないピッチャーの私。この場面、私が投げる方なら、確実にストライクを取れるピッチングをする。


 それは相手も同じだったらしい。


 明らかに置きに来ただけの甘いストレート。それを打つのは、簡単なことだった。


「っ!?」


 心地の良い金属音が轟いた。


 ピッチャーの顔が蒼白になる。その視線が見送るのは私が打ち返したボール。


 打球はライト方向にアーチを描き――スタンドイン。ベンチがまた歓声に包まれた。


 二連発を浴び、相手チームは4対0となったところで、ピッチャーを交代するらしい。


 出てきたのは、ちょっと背の低い左投手。投球練習を見る限り球は速いようには見えないが、どうやら変化球を使った緩急で勝負するタイプらしい。


 六、七、八番と立て続けにゴロに仕留められ、六回の表が終了した。

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