メガネ魔法少女メスパー再び
昼間からいる居酒屋の客というのは、やはりどこの世界でもロクでもないようだ。
いきなり俺は、一人の飲んだくれオッサンに絡まれた。
ウゼー……。
どうやらこの男は俺個人を勇者魔王として知ってるようだ。
けど、勇者の俺の顔は誰もが知ってるわけじゃない。つまり、この男はどこかで俺を目撃した事があり、勇者としての力を見ているって事だな。だが、今は――。
「先客がいる。お前なんぞは相手に出来んぞ」
「先客ぅ? 俺のいた国を滅ぼした勇者が何を言ってやがる。先客に合う前にお前は死ぬんだよ勇者魔王! お前を殺して次は俺が勇者になってやる!」
男のかざしていたビール瓶が俺に向けて振り下ろされ破裂する。店内のざわめきと共に、ビール瓶から溢れるビールが床に広がって行く。最後の一欠片のピザを食った俺は、外にいる誰かさんに向かって言葉を放つ。
「いい加減出て来いよ。ビール瓶を魔法で砕いたのはバレてるぞ」
「ビール瓶を魔法で砕かないと、貴方はその男を銃で殺してたじゃありませんか。左手にピザを持ちつつ、右手ではマントの下にハンドガンを持っているのはバレていますよ」
どこからともなく女の声がし、店内に人間はキョロキョロと首を振る。
そして俺の頭をビール瓶で殴れなかった男は、
「くそっ! なんだ今の女の声は? まさか勇者の仲間――」
「俺に仲間なんていねーよ」
と、ハンドガンのトリガーに触れる指に力を入れると、店内の男達の身体が浮遊した。同時に、全ての窓を突き破りその男達は外に放り出された。散乱した窓ガラスの破片で酷い有り様の店内に一人残された俺は、カウンター席でミルクを飲む。
「……超能力魔法でザコ共は排除したか。そのまま殺すのかと思ったけどな」
「この人達は一応、テンパ国の兵士ですからね。人の命は大切です」
「なら、勇者の命も大切じゃないのか?」
「貴方は勇者であり魔王。故に倒すべき相手」
「へっ、難癖つけて俺の勇者の力が欲しいだけだろメガネ委員長」
振り返ると、店内の入口に一人の魔法少女が立っていた。長い黒髪に人形のように整った顔。スラリと伸びる手足にまな板のような薄い胸。そして純黒のセーラー服を着た黒縁メガネの、クラスの委員長みたいな魔法少女――メスパー。
ほぼ無表情のままメスパーは薄い胸をアピールするようにネコ招きポーズをとっておじぎをした。
「呼ばれてないのにニャニャニャニャーン。どうも漆黒のメスパーです。よろしくお願いします。ぺこり」
またコイツか……と思いつつも俺は
「しつこいなメスパー。魔法少女のわりには強いが……いや、うたれ強いが、俺の敵ではないのはこの前の戦いでわかっただろ?」
「貴方が勇者だからこそ、貴方の金玉を奪い勇者の力を得て私は魔女へとクラスチェンジするのです。はい」
「……何度も言うが俺の金玉はやらんぞ。そして俺はお前を殺す」
「私が死ぬ可能性は否定できません」
「否定しないのか。なら散れ」
瞬時にハンドガンを撃った。
テレポート魔法でメスパーは回避し、天井に逆さまで立ってやがる。……気付いてないのか似合わないイチゴパンツが見えてるが黙っておこう。何で黒づくめなのにパンツだけ派手なんだ? 女はよくわからん生き物だぜ。そのイチゴパンツをはいているメスパーは黒縁メガネをくいっと人差し指で上げて言う。
「当たりませんよ。エスパーですから」
「メスパーだろ?」
「そうです。私がエスパーのメスパーです。はい」
「そうか。なら死ね」
サブマシンガンを乱射しつつ、カウンターの後ろに隠れた。奴の超能力魔法はどこから攻撃されるかわからんから、なるたけ姿は見せておきたくは無い。メスパーはカウンターにあるイチゴの入ったケースを浮かべ、それを魔力で凶器にして店内に放つ。それにより、逃げ遅れたらしい数人の男が巻き添えをくらい倒れた。俺がカウンター内を移動すると、今の攻撃でここの店主は死亡したようだ。シェーカーを持ったまま息絶えてやがる。
「狙うなら俺だけを狙え! ったく、頼んだドリンクが台無しだぜ」
死亡した店主のシェーカーを飲んだ。
濃厚なブレンドミルクに魔女の放ったイチゴが混ざってやがる……。
ミルクを殺す邪道な味がするぜ。
怒りと共にメスパー写る鏡越しにハンドガンを撃って、
「ミルクにイチゴなんて混ぜるなよ。混ぜるな危険だ」
「この騒動でミルクにイチゴが入ってまいしたか。それじゃイチゴミルクですね。私のパンツと同じイチゴならば不純ですね」
「自分で不純言うか? それより、テンパ城の宝物庫を知らないか?」
「宝物庫は地下ですわ。でも、城の警備体制をくぐり抜けて地下道へ進入するのは至難の技。勇者といえども生きて出てくる事はないでしょう」
「地下か……つまりこの都市には地下道があるって事か」
「お話はここまで。さて、お遊戯の時間です」
ブゥゥン……と酒場内のイスやグラス。皿やフォークが浮かび上がる。笑うメスパーが自分の黒縁メガネを人差し指で上げた瞬間、その攻撃は開始された。ガシャン! ガシャン! と酒場内部はメスパーの超能力魔法でメチャクチャになって行く。
「超能力魔法でイスやグラスなどを飛ばして来やがるとはな。ったく、面倒な魔法をつかいやがるぜ!」
そこそこの広さの酒場だが、所詮は酒場。
テーブルやイスで自由に動き回れる空間もあまり無く、大きくジャンプをすればすぐに天井に届いちまう。床に散乱した皿の破片をブーツでジャリジャリと音を立てつつ、倒れたテーブルの背後に隠れる俺は、
「ここには高い酒もあるはずだぜ? 場所を変えた方がいいんじゃないか?」
「酒も酒場も、お金で手に入るものですからお構いなく」
「そーかよ!」
飛んでくるワインボトルを横っ飛びで回避つしつつ、サブマシンガンを連射する。
しかし、ブゥゥン……とテレポート魔法を使うから弾丸は全て酒場の壁に命中するだけだ。瞬間移動したようにテレポートを使いつつ、メスパーは言う。
「当たりもしないのによく撃ちますねぇ。魔力の無駄です」
「俺の魔力も減るが、お前だって無尽蔵の魔力じゃない。なら、いつかはチャンスがあるって事さ」
テレポートを使いやがるから厄介だ――けど!
「ここかぁ!」
「ぐっ!」
自分の背後に回し蹴りをすると、テレポートで現れたメスパーにクリーンヒットした。
ズザアァァァ! と外の地面に転がるメスパーは酒場の外に飛び出す。
コキコキと首を左右に振って鳴らす俺は外の敵に向かって言う。
「決定的な事は背後からやると思ってたからな。読みが当たったぜ。入って来いよ。決着をつけるぞ」
外で転がっているメスパーに向けて言った。
そのメスパーは入口から堂々と俺の前に姿を現した。
「ほう? てっきり窓から来るかと思いきや入口から来るとはいい度胸だな! ――!」
瞬間、割れた窓からメスパーが現れた。
俺はハンドガンをそのメスパーに向けて撃って倒す。
そして、入口のメスパーは俺を羽交い締めにした。
「お前はパワータイプじゃないだろ」
「これでいいのよ。分身はまだいるからねぇ」
「何? 分身だと?」
すでに酒場内部には複数のメスパーが居た。そのメスパー達は俺に魔法攻撃を浴びせる。
「ぐあぁぁぁ!」
そして、俺の怯んだ隙を利用して六人のメスパーは全方位から迫る。
かかったな……と俺は口元を笑わせた。
魔力で右手にダイナマイトを出現させたんだ。
「この爆弾はもう爆発するぜ?」
これで、メスパーのダミーと本体がわかるはず。
コイツ等の中で一番驚き、逃げようとするのが本体だ。本体ならダイナマイトの攻撃はくらうわけにはいかねーからな。それを探せば俺の勝ち!
全てのメスパーを見据える俺は魔王の魔眼を使い見極める。三百六十度の視界を得る魔眼は便利だけど、体力も魔力も消費量が大きく割に合わないからここぞという時にしか使えない。勇者と魔王の力は本来共存出来ないものだからな。そして、魔眼を使う俺は驚愕の事実を知った。
「何だ? 全員突っ込んでくる!?」
コイツ等の中にメスパー本体はいないのか!? なら、奴はどこに――。
「残念、無念。私は外に出たままでしたの。さて、終わりにしますわよ」
と、外から分身を操っていたメスパーは微笑む。
外にいるメスパーは浮遊しつつ酒場を見据え両手をクロスさせつつ、自分の胸を揉んだ。
「はうぅ……」
モジモジしながら感じてるメスパーに、下にいる男達は興奮を隠しきれない。イチゴパンツも丸見えだしな。どうやら、やはり超能力魔法は感度が上がれば上がるほど能力が増すようだ……ハレンチな能力だぜ。だが、悪くない能力だ。そんなこんなで、魔法少女メスパーの一撃が酒場に降り注ぐ――。
「超能力魔法・メテオブレイク!」
隕石が落ちるような重圧で、酒場ごと潰された! 店内にいる俺も、容赦無く天井の崩壊に巻き込まれる。メスパーによって店内から放り出されていた男達は、店内から放り出されていて良かった……とほっとした顔をしていた――が、
「さて、これで生け捕り完了ですわ。では男衆、勇者オーマの身を発見して下さい。その後、拘束しますので」
『へ?』
「わかりませんか? この酒場の残骸から勇者オーマを発見するのが貴方達の仕事です。やらないなら……」
『うわあああっ!』
男達はメスパーの超能力魔法で再度浮かび上がる。今度はどこに飛ばされるかわからない男達はメスパーに恐怖し、メスパーの言う通り酒場の残骸に潰される俺を探す事になったようだ。そんなこんなで、超能力魔法で酷い仕打ちを受けた俺は――。
「城の地下道へ出たか……都合がいい」
ホコリまみれになりながらも、メスパーの言っていたテンパ王国の宝物庫がある地下へ進入を成功させた。おそらくこの道を行けば、地下エリアの宝物庫まで辿り着くはず。そしてパラパラ……と砂が落ちてくる頭上を見上げた。
「上の穴は木材などで塞がってるから、上手くいけば追ってはここにいる事を気が付かないだろう。さて、行くか」
俺はゴールドキャッスルの薄暗い地下道を駆ける。