死の商人テンパの都市・ゴールドキングダム
ラルク大陸・大都市ゴールドキングダム。
七つの大陸に分けられるこの異世界の南側にある最大規模の大都市がこの黄金色に輝く、死の商人テンパの居城のゴールドキングダムだ。常に南大陸全土から数多の商人が集まり、日々このゴールドキングダムに集結する新しい魔法関係の書や食料・医療・雑貨などの物が取引され賑わいが絶えない。この黄金の都市は、俺が現代で得ていた知識から生まれた切れ味鋭い刀を模したソードや、携帯用の固形食料などの新商品などのおかげで未だかつてない異様な雰囲気に包まれていた。
(俺の意見を取り入れて作られた商品が山のように積まれ、そして別の商人が買う……。当たり前の事だが、まさか現代での知識を多少教えた程度でよくここまでやったもんだぜ。やはり、魔法を使うと再現度を上げるのは容易なようだな。あくまである程度の再現だが、テンパの努力に答える部下達の働きもスゲーもんだぜ)
俺は久しぶりに見る街並みに懐かしさを感じながら歩く。やはりこの都市は、死の商人テンパの箱庭だけあってスゲー場所だ。ここだけは現代の賑やかさを感じてまわざるを得ないな。
「あの金髪巻き髪女も問題無く商売繁盛してるようだな。この都市は以前よりも増して活気づいてやがるぜ」
都市の西側の商業地区を歩き、物の売り買いを眺めつつ歩く俺は、都市の北側のテンパの居城・ゴールドキャッスルを見据えつつ思う。
(あの魔女の言葉を鵜呑みにするわけじゃないが、確かにテンパには警戒した方がいいかもな。正面から堂々と帰還するのはマズイか……? 実際、魔女はまだ倒していないわけだしな)
そして、一つの商店に入りソフトクリームアイスを買う。
これも俺がテンパに冷却魔法の特徴を生かして製造させた製品の一つ。持ち手のコーン同様にアイス自体もほぼ俺のいた現代と同じ味を再現してて、濃厚で美味いバニラアイスが俺の口の中の熱で溶けて広がる。
「やはり、アイスは濃厚なミルクのバニラアイスに限るぜ。乳こそが男の神だ」
瞬間、小さな黒い物体が通り過ぎた。
同時に、舌先をソフトクリームに伸ばしていた俺の感覚に違和感が走る。
「アイスとられた……?」
「アイスもーらい! 逃げろー!」
「!? 身体が小さい? ミニ魔女か!」
ソフトクリームを盗んだミニ魔女を見つけてしまった俺は周囲の群衆なんぞ気にせず勇者魔王だとバレるような状態で一気に戦闘モードになり、
「野郎!」
ピュー! と新聞紙の絨毯に乗る魔女は自分の身体と同じサイズのソフトクリームを抱えながら空を飛行して逃げる。
まさか! てーか、やっぱり魔女だ!
この俺のレーダー網を潜り抜けて当たり前のように接触して来る奴など、この魔女しかいない。
てなわけで――。
「捕まえるぞ魔女!」
「ここじゃ、自慢のマジックウェポンも使えないよね? 白昼堂々と発砲したら勇者の名が廃るし、テンパも何か警告するだろうしね」
「知っての通り、俺は魔王でもある」
と、さも当たり前のように発砲する。
ここの人々は驚くだろうが、要は当たらなければいい。魔女以外にはな!
「てなわけで、ミニ魔女だろうと根本的な魔力は変化は無い。ここで会ったが百年目。散らすぞ」
「ちょ!? ままま、オーマ!」
「黙れ魔女」
ズバババッ! と驚き叫ぶ群衆に当たらないようにハントガンを連射する。ミニ魔女も自分の飛行する進行方向に人がいる場所を選んでるから、いいタイミングで射撃が途切れてやりずらいぜ。何発かは当たってるが、奴は止まらない。流石は不死身の魔女か。すでに三分の一のソフトクリームを食い終わるミニ魔女は、口元から黒いフードマントを真っ白なミルクの白濁液で汚しつつ背後を振り返りつつ言う。
「これからテンパの元に正面から会いに行くのは危険だよ。あの女の不老不死計画が最終段階に入ってる以上、勇者魔王オーマはテンパに利用される存在になるだけよ」
「お前の言う通りに動くと思うなよ。そんな判断は自分でする。テンパが敵対行動を取るなら、俺が散らすまでよ」
「その反骨心。忘れないでね」
「黙れ魔女」
ブワッ! という人混みを抜け、ミニ魔女は一気に逃走するつもりか新聞紙の絨毯の高度を上げた。
両手の手甲に仕込んであるアサルトアンカーを使い、建物の壁にアンカーを突き刺しつつ俺も空中を高速移動する。一気に間合いをつめられたミニ魔女は動揺を隠せない。
「早いっ! やっぱ身体が小さいと動きが遅くなるわね!」
「当然だ。その小さな身体じゃ、多少吹く風ですらモロに影響を受けるからな。そろそろ鬼ごっこは終わりだミニ魔女」
スッ……とアサルトアンカーを使い空中移動してた俺は地面に着地する。宿敵のミニ魔女を左手に捕まえて。そして、俺の左手で特に抵抗しないミニ魔女は、周囲が屋台ゾーンというのを確認して目を輝かせつつ、
「……やるじゃんコウハイ君。私を食べ物で捕まえるなんて高等技術どこで覚えたのかしら?」
「そりゃただの偶然をお前が自爆して必然にしただけだ。お前は案外食いしん坊だ。なら、この屋台ゾーンはお前にとっては鬼門だからな。特にここの屋台ゾーンはギョーザが美味いんだ。俺のいた世界と同じレベルで美味い。特にギョーザが好きでなかった俺がハマるレベルだからヤベー味だぜ」
「なら食べさせてよ。一つぐらい」
近くのギョーザ屋の匂いが、俺とミニ魔女の食欲をそそる。なので……。
「ギョーザ食ったら散らすぞ。人のいない場所でな。そして、俺は魔女の魔力を全てこの左手の魔王の魔手で吸収して現代に戻るゲートを開く力を生み出す特殊兵装マジックウェポン生成に取り掛からないとならん」
ギョーザ屋の店主に金を支払って、俺は五個入りパックを買った。そして、フーフーと口で少しギョーザを冷ましてやりミニ魔女に分け与えた。俺は猫舌だから冷ます癖が出たが、まぁミニ魔女が何も言わないからいいだろう。そのミニ魔女は身体のサイズの割には凄まじいスピードで四つのギョーザを一気に完食した。流石は魔女だな。
「どうやら腹一杯か。さて、散る時間だ魔女」
「その前に、この残りのギョーザもコウハイ君も食べるといいよ。冷めてるのが一つあるからどーぞ」
魔女があーんと口を開けろと言わんばかりにギョーザを俺の口に運ぶ。何か照れるな……。彼女がいたらこんな感じなんだろうか? でも、彼女が魔女なんて嫌だけどな! と、変な妄想をする俺は顔だけはカワイイミニ魔女の両手で抱える少し冷めたギョーザを口に運んでもらう。
「おう、悪いな。あーん……!?」
瞬間、俺の口に異物が侵入した。
ような気がした。
いや、これは……!
「ほふっ!? ほふふっ!?」
猫舌の俺に熱いギョーザを口に突っ込んできやがった! 美味いが、この熱さは舌を殺すぜ! まさか――ミニ魔女の野郎!
「ま、魔法でギョーザを熱くしたな魔女! 舌が痛えっ!」
「ニョホホ。油断大敵だよコウハイ君。勇者魔王でも弱点はあるもんね。ではとりあえずさらば!」
新聞紙の粉雪で視界を殺し、魔女は姿を消した。クソが……俺の猫舌を狙ってくるとはな。奴は絶対にゴミ袋のように利用して、散らしてやる!
「舌が熱で痛い……が、ここでじっとしてるわけにもいかん。まだテンパに俺がこの都市にいる事は知られたくないからな。魔女の言う事を聞くわけじゃないけど、一応の用心だ。一応のな」
とりあえず、一つの騒ぎを起こしちまったから街が落ち着くまで東地区の方のカフェにでも入って何か飲んで食べてから城へ向かうか。西地区から東地区へ向かった。
そして一軒の飲み屋を発見し、とりあえずそこに身を隠すように入った。