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ミストジャマーの森での再会

 異世界へ来た目標であった魔女を倒した俺は、死の商人テンパからもらっていた地図で、この世界のルールなどを教えてくれた恩人であるテンパの城・ゴールドキャッスルへ向かう事にした。魔女を倒しても、現代へ帰るすべを手に出来なかったから一応テンパにも報告しとかないとならないからな。にしても……。


「テンパの奴……こんなミストジャマーの多い所を抜けないと辿り着けない城なんて、相変わらず用心深い奴だな。ま、商人だから仕方ないのか。死のだけど」


 レーダーなどの通信系魔法全てを遮断する天然の霧・ミストジャマーの森を俺は行く。

 森はひたすらに深く、歩く人間はおろか動物ら寄せ付けない魔の結界を放ってる気すらさせる嫌な森だ。時折吹き荒ぶ冷たい風に煽られて落ちて来る落ち葉が顔に当りウザい。

 俺は深くフードマントをかぶりながら落ち葉をブーツで踏みつけ霧の奥を見据え歩く。


(勇者と魔王の魔力を同時にフルパワーで使うのはかなりムリがあるな……全身が焼けるように痛いぜ。やっぱり、勇者と魔王は共存出来ないもんなのかね……)


 と、魔女戦での対魔女用の切り札・ブレイブルシフェルを思う。スペルガンの空の弾丸に勇者と魔王の魔力をフルパワーで込めて放つ威力の反動は、チートな俺でも相当堪えるもんだ……寿命の半分も使うしもう二度と使いたくねーぜ。ま、もう魔女もいないし使わねーけど。今はそれより――。


「レーダーに反応? このミストが濃い場所でこの反応――まさか!」


 魔女!?

 ではないか。

 魔力を開放した魔女のような感覚を覚えたが、それは違った。

 その森の上空に金色ドラゴンを見かける。

 異世界へ着いて初めて転生した村でも見かけた金色のドラゴンが空を飛んでいた。


「人間を襲うゴールドドラゴンか……気付かれるわけにはいかんな。わざわざこんな最悪の場所でムダに体力と魔力を使いたくない。目的地に着くまでは戦わなくていい相手なら避けるのが一番の選択だ」


 この異世界ではドラゴンの災害は自然災害と一緒だ。

 普段は気にもしないのに、ふときまぐれのように人間を襲ってくるからよくわからないと俺が異世界転生した場所のムーンライトの村人も言ってたな。そして、その金色ドラゴンがどこかへ飛び去り、俺はまた森の中を歩き出す。


「……ったく、この冷たい風と落ち葉はどうにかならないのか。――!」


 ふと、頬に異様な熱さが走る。

 左頬が横一文字に切れ、焼けた。

 血がジワリ……と微かに吹き出ている。


「何だ!? ビーム!?」


 ピカッ! と森の奥から黄色い閃光が俺に向けて放たれる。

 この光はビームだ!

 ビーム魔法なんてモノはアイツしか使えない。

 でも……アイツは! あの女は!


(明らかに俺だけを狙ってきてやがる……まさか……まさか奴が生きていたのか?)


 そんな事を考えつつ、俺はダイビングジャンプして近くの大木に身を潜めた。

 そしてハンドガンを手に持ち、焦る気持ちを抑えつつ、


「落ち葉のせいで止まってなかったら頭を撃ち抜かれてたぞ……この世界に来てからレーダーに頼りすぎてたのがアダになったか。くそっ!」


 隠れてた大木に気付いた敵は、そこにビームの集中攻撃を浴びせ大木を根元からへし折った。


(体力は使うが、左目の魔眼でこのミストジャマーの先にいる敵を視認するしかねーな)


 スゥゥ……と悪鬼のように左目が赤く染まり、全身の魔力を全て喰らうように奈落の闇に染まり魔眼が解放された。


「全てを見通してやるぞ! この魔眼でな!」


 堂々と敵の攻撃をくらう広い場所に移動した俺に、無数のビームが注がれる。全ては左目の魔眼で見切れる為、フッ……と半笑いのまま上半身だけを仰け反るように倒しビームの束を回避する――そして、その反動を活かしまた正面に向き直り見据える。


(さぁて……もうこの魔眼からは逃げられないぞ……)


 血の流れよりも赤き魔眼が、ミストジャマーの霧の先の敵を索敵する――が、


(ビームの放たれた位置から逆算してこの直線上にいるばずなのにいない? どういう事だ? まさかビームを曲げてるのか? いや……そんな芸当は出来ないはず……)


 疑心暗鬼になる俺は、赤き魔眼にてやけにミニマムな物体を発見した。こんな磁場結界のある森に動物? いやモンスターか? と思っていると、その正体がハッキリと見えた。

 小さな新聞紙の絨毯に乗った、黒髪ロングの小人のようなサイズの魔女っ子少女――。


「まさか……ミニ……魔女!?」


「今はミニですが、普通の魔女です。そして貴方のセンパイです! ブイ!」


「ブイ……じゃねーよ。つーか、何で生きてるんだ? 勇者と魔王の魔力を注ぎ込んだスペルガンで完全に消滅させたはずだが……」


 ブイサインをする魔女は小さくなっても魔女だった。ツラだけはかわいいのがムカつくが!

 とりあえず小さくなったミニ魔女との遭遇により、またコイツを始末しなくちゃならなくなり、とりあえずハンドガンで射撃する。ヒャー! と叫びながらミニ魔女は新聞紙の絨毯でフラフラしつつ俺の放つ弾丸を回避した。そして逃げる魔女を狙撃しつつ追撃する。


(おそらく魔女は魔力が足りないからミニサイズになってる。まさか、ブレイブルシフェルが完全に魔女を、消滅させてないとはな……。新しい技が必要か?)


そんな考えの俺に、ミニ魔女は何もして来ない。


「何だ攻撃はもう辞めか? 俺を殺しに来たんだろ?失敗したようだがな」


「タイム! タイム! まだまだ焦る時間じゃないって! センパイは君と戦う気は無いよ!」


「黙れ魔女」


 俺はショートソード二刀流でミニ魔女を確実に仕留めようと接近戦を仕掛けた。

 阿修羅のような乱舞が魔女を襲い、俺の剣により周囲の木々はスパスパと刻まれる。

 まさかここまで苦手なはずの白兵を仕掛けるとは思わなかったらしい魔女は少し漏らしたのか股間を抑えながら焦ってやがる。ザマーミロ!


「ショートソード二刀流? やけに切れ味がいいね。当たった大木が豆腐のように切れてるわよ!」


「この世界に来た初期にテンパに言って無理矢理作らせたもんだ。ある程度知ってた刀の製造方法を教えたら、喜んで鍛冶屋に作らせてくれたぜ。まぁ、これはそれを魔法で生成したマジックウェポンの一つだがな!」


「どうりで、テンパの工場が活発に動いてるわけだ。普通のソードと違って刀は片側にしか刃が無いけど、切れ味はソードの比じゃない」


「なに、刀はあくまで接近された時の予備兵装だ。お前は俺の弾丸で死ぬ。俺自身の弾丸でな」


「その刀ってのは周りの景色に溶け込むね。だからリーチがつかみづらいよ」


「そうかよ!」


 一気に距離を詰める俺はミニ魔女の目の前に立ち、ハンドガンの銃口を向けた。じっ……と俺を見据えるミニ魔女に魔力の高まりは感じられず、このままなら俺の手に握りつぶされてもおかしくない状態にある。


(コイツ……)


 マジで戦う気が無いようだ。

 一体何なんだコイツは?

 ……魔女か。


「撃たないね。もしかして信じてくれた? ならセンパイを立てて話を聞いて」


「あぁ、とりあえず捕まえておく。それから話せよセンパイ」


「わかった!」


 と、魔女を言葉たくみに誘導して俺の手で握る形にした。

 スッ……と小さな魔女に触れると、魔女は驚いた声で、


「オッパイ触った!?」


「は? 小さくてオッパイかどうかよくわからんし!」


「そ、そう? ならいいや」


「いいのかよ……」


 よくわからん女だ。

 とりあえず魔女のオッパイを触るのは悪いから手の平に乗せてやる。ここにいれば接触してる以上魔力の高まりもわかるし、対応は出来るからな。

 そして、魔女は俺がこの異世界へ来た時に初めて世話になった金髪巻き髪美女。死の商人テンパの事を話し出した。


「……だからあのテンパは敵なのよ。今まで幾人の勇者や魔王、魔女が奴の目的で消えたかわからない。千年を生きるあのテンパこそがこの世界の悪魔なの。だから奴の仲間になるのは危険過ぎるわ」


「だからテンパとは持ちつ持たれつの利害関係だ。仲間ではないが、敵でもない。この異世界に来てから助けてもらったのはテンパのおかげでもあるからな。この三カ月はテンパのおかげでこの世界を知り、強くなれたとも言える」


「他の勇者も魔王も、そうやって懐柔して来たのよ。あの悪魔は人の心の隙を必ずついてくるから。そして、平然とその命を自分の計画に使うの」


「計画?」


「魔女の永遠の命を利用する〈不老不死計画〉よ」


 と、魔女は自嘲気味に言う。

 不老不死か……昔のマンガとかでよくありそうな話だぜ。魔女の話は続く。


「ありきたりだけど、テンパは千年かけて不老不死を研究しているわ。魔女を研究する異教魔術師達と共にね」


 突如、魔女の耳がピクン! とした。そして魔女はテンパの不老不死計画の要を語る。


「宝物庫には、死の商人テンパの宝物があるわよ。〈宝玉〉がね」


 魔力秘宝・宝玉。

 魔女にクラスチェンジ出来ると言われるほどの魔力を秘めた金の玉のようだ。

 この異世界の中でもトップクラスの秘宝ってことだな。

 俺はそのテンパの宝玉を思いつつ、


「確かにそれがあれば次元のゲートが開くな。まさかテンパが現代に帰る為の鍵になるとなんて不思議なもんだ」


「あぶないっ!」


 瞬間、俺達の周囲に爆撃魔法が放たれ地面が爆破される。


「――!? 魔法攻撃? 誰だ!」


 ミストジャマーの先に、何やら影があるがもう魔眼は使ってないからすぐにはわからない。


「おい魔女! あれはお前の味方か? それとも敵か? ――って、いない!」


 よくわからん謎の敵らしき連中の攻撃を受けた隙に、魔女は逃げたようだ。

 クソが!

 落ち葉を踏みしめる音を立てながら、ミストジャマーの霧の奥からその白服集団は現れた。


「逃げたか……しかも、オマケ付きで」


 白の同じ制服を来た異教徒達が現れた。

 コイツ等は聞いた事があるな。

 確か……。


「魔女狩りの異教魔術師か。お前達が魔女の力を危惧して狩りを行おうとも、魔女は不死身だ。無駄な事はいい加減やめたらどうだ?」


 その異教魔術師達の中央にいるリーダー格の男が言う。


「不死身でも、身体が完全に消滅すれば完全に再生するのに一月はかかる。その間、我々は魔女の不死の秘密を研究する事が出来る。この世に不死の存在などは必要ないのだよ」


「故に魔女を狩るか。まぁ、お前達の正義がソレなら否定はしない。だが、俺の邪魔をした罪は償ってもらうぞ」


「どう償う? お前は先日の魔女殺しの力と、先程の魔眼の力で相当疲弊してるはず。周囲は御自慢の索敵レーダーさえ使えないミストジャマー。それで我々異教魔術師に勝てるのかな?」


「黙れ、散れ」


 魔女の言う通り、魔女狩りの異教徒の黒幕がテンパのようだな。

 奴は魔女の不死の力を得ようとしていた。

 不死の力があれば他の世界へも進出出来る。

 次元のゲートをくぐるには一度死ぬ事になるから。

 そして、勇者と魔王の力を掛け合わせて不老も手に入れ、不老不死を得る。


(ったく、この世界へ来てから目標がいちいちブレて困るぜ……)


 溜息をつき、俺は全身の魔力を高める。

 それに呼応するように異教魔術師達も魔法詠唱を始めた。


(魔女が生きていた事もうざいし、レーダーが使えないミストジャマーもウザいし、目の前のクソ異教徒共もウザい……つまり!)


「俺は今、最高に機嫌が悪い。派手に散れ」


 両手にバズーカ、両肩にミサイルランチャーを展開した――瞬間、黒縁メガネの黒いセーラー服を来た黒髪ショートボブの魔法少女が現れる。この女、殺したはずだが生きてたのか。相変わらずのネコ招きポーズをするようだ。……微妙にカワイイのがムカツクぜ。


「呼ばれてないけどニャニャニャニャーン。こんにちは。メスパー登場です……って、もうクライマックスですか?」


「いいや、エンディングだ!」


 俺は自分に放たれる攻撃魔法なんか気にせず、バズーカとミサイルランチャーを乱射した。

 ズバババーーーン! と登場したメスパーの見せ場も無く森の一部ごと吹き飛ばした。

 そして、ここでドンパチやってるからさっきまで空を飛行していたゴールドドラゴンも気付いたようだ。俺はすぐに森を駆け抜け、生き残る連中は全てゴールドドラゴンの火炎放射の餌食になり死んだ。

 そして俺は、おそらくミニ魔女もいるであろう死の商人テンパの都市。

 金色に輝く欲望と快楽に満ちた黄金の国・大都市エゾーチに到着した。


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