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過去の夢と勇者魔王の新たなる旅

その日――俺はテンプレ学園の屋上にいた。

昼時の憂鬱な感情がMAXになる俺は勝手に屋上に侵入して一人、ラノベを読んでる。

昼飯もさして食った気がせず、異世界転生系のラノベを読むのにもノリ気がしない俺の心は、先日あったアニメのような事件を思い出していた。

東京消滅事件――。

何の前触れも無く突如、大きなブラックホールのようなものに東京都の大半は呑み込まれ消滅した。その結果、日本の首都は横浜のみなとみらい地区に移されたんだ。


「……まさか、俺が思っていた事が実際起こるとはな。自分が魔王だったら、まず東京を消滅させて人々に絶対的な力を見せつけ、そして消滅させた広大な敷地を魔王である俺、車勇王真しゃゆうおうまの居城とする。でも実際は、魔王なんざ現れなかったがな。次はあの空が開き、異世界から魔女でも現れるのか? 自分で言っててバカバカしくなってきたな……」


今度も自分の想像した事が現実になったら笑えるな……と思いつつ、俺は屋上で寝転がりながら流れる雲が早い青空を見上げた。すると、その空がドアを開けるように一区画だけ開いた。


「空が……開いた? 空が開いた!」


唖然としつつも立ち上がり、真っ黒いドアのサイズぐらいに開かれた次元のゲートらしき場所を見つめる。そこには、黒いフードマントを着た美少女がいた。黒く長い髪に人形ののように整った顔の少女は、ぱっちりとした二重の瞳を俺に向けて言う。


「どうも私は魔女です。勇者魔王にしてあげるので異世界へ来て下さい」


「は?」


勇者魔王にしてあげるから異世界に来て下さい……だと?

おかしな奴が現れたな。

これも東京消滅事件の影響か……?

ふと、俺は手に持つ異世界転生系のラノベの内容を思い出し言う。


「お前が魔女かどうかは知らんが、異世界に行くにはトラックにひかれて交通事故に合わないとならない。交通事故なんて今は起こらないし、他を当たってくれ」


そうだ。

東京消滅事件でおかしな事が起きるのはわかってた。そんな事が起きても俺は関わり合いたくも無い。東京の友達はみんないなくなっちまったんだからな……。と、東京消滅事件の一月前に横浜へ引っ越して来た俺は思う。すると、その魔女は空の次元のゲートから俺のいる屋上に飛び降り着地しつつ言った。が、俺は着地した拍子にフードマントがめくれて見えた魔女の下半身が気になった。


(……?コイツまさかパンツはいてなかった?まさかな……)


そんな俺の興奮を冷めさせる事を魔女は言う。


「なら、交通事故にあいましょう」


「え?」


 瞬間、魔女は上空から飛び降り、俺の目の前に立った!

 コイツ……かなりの美少女だな……。

 そんな事を思ってると俺は腕を掴まれた!

 コイツ……マジだな。


「待て。異世界に行くには俺のような……」


「転生するなら死にましょう」


「……ふざけんなよ? つーか、マジで事故死にさせるつもりか! 怪力女!」


 言いつつ、離れない魔法少女の手を振りほどいた!

 ……あれ? 振りほどけた?

 と思ったら、見えない何かに身体を拘束された。


「何だ! この怪力拘束は!?」


「か、怪力じゃないわよ! 魔法!」


「魔法か。異世界から来たなら魔法ぐらい使えるか……!?」


 魔女が何故か転んだ。

 魔女の奴、何か泣きそうになってやがる。


「これじゃ、事故死されられそうになってる人間が悪者じゃねーか。警察に見つかったから百パー俺が逮捕だね!」


 それにコイツ……。


「生尻見えてるぞ」


「きゃ! 早く言ってよ!」


 オロオロする魔女はめくれたフードマントの尻部分を直し、股間を抑えている。

 子供ならわかるが、おそらく俺と同じ中二でパンツはかないなんてありえんぞ。

 ムカッキー! と怒りそうで怒らない魔女は、


「何で早く言わないの? 変態なの?」


「はぁ? お前が転んだのが原因だろ? 第一に生尻晒してる方がどうかしてるぜ?」


「ムレるからしょうがないでしょ! 生尻は神なのです!」


「こっちの世界では変態だし! てか、尻の話はどうでもいいんだよ! お前の目的は何だ? 本当に異世界に連れて行くつもりか?」


「そうだよ。この頼りになる魔女であるセンパイが貴方を異世界へと連れて行くのです!」


「何で異世界へ行かないとならないんだ? 勇者にして自分の国を救おうとかそんな考えだろどーせ? 俺は昔、異世界への扉が開いて俺が勇者として異世界に行くと思ってたが、最近までは魔王になるつもりだったんだぜ。だから他を当たれ」


「だいたい、空に異世界への扉が開かないかなんて完全な中二病でしょ?」


「中二病は卒業した。だからお前も諦めろ。俺は受験生だ。これから志望校の校長の悪事や不倫などを見つけて裏口入学するのに忙しいんだから異世界へ帰れ」


「細かい話は後でします。今は事故死しましょう!」


「だから――ぐへぁ……」


 腹に一撃くらい、俺はそのまま魔女の新聞紙の絨毯に乗せられ大きな道路まで出た。

 ここで事故死させて転生させるつもりか……。


「トラックはトラックでもデコトラだぞ? デコトラが来ない限りはやめろよ? ちなみにデコトラとは……」


「とりあえず派手に死ねばいいのよ。異世界転生なんてそんなもん♪」


「……」


 もう観念した俺は、せめてもの願いを魔女にする。


「異世界に転生させるならもっとサービスしろ。ステータスを上げるだの、所持金がすごいだの、広大な土地を所有してるだのあるだろ? チートじゃないと俺は困るぞ?」


「うん、勇者魔王は勇者と魔王の力があるから無敵よ。それより、コウハイ君は他人を殺す覚悟はある?」


 魔女と呼ばれるだけの事はある冷酷な瞳で俺を見つめてきた。

 それに対し俺は、


「敵であるなら容赦無く殺す。俺が悪と思った奴は滅殺だ」


「うん、いい答えだわ♪」


「こっちも聞こう。勇者と魔王の相反する力はどうなんだ? リスクは無いのか?」


「知らない。そんな人間今までいないから。だから試すの。コウハイ君でね!」


「へ?」


「魔王に憧れてるなら、まず魔手をつけないと」


 自分の質問の答えに動揺してる俺に、絶望的な痛みが走る――。

 新聞紙の剣でさも当たり前のように左腕を落とされた。

 軽くなる左半身と、落ちた左腕の血の量に失神しそうになり、道路に倒れた。


(マジ……かよ)


 血溜りの中で、朦朧とする意識の俺は魔女が持つ歪な黒い生き物ように胎動する黒い左腕を見た。これが、魔王の左腕の魔手か。確実にそうだ。何も言わなくてもわかる禍々しさと不快感が魔手だというのを否応無く認識させる。


(これが俺の新しい左腕か……それより痛みで意識が……)


 もう、死ぬのは確実だ。

 この魔女の言う通り転生するのかどうかは知らんが、とっととこの痛みから脱したいぜ。

 フフフ……と微笑む魔女は、目の前に迫る死を楽しむように言う。


「後は異世界で勇者英霊の烙印を注入すれば貴方は勇者魔王になれるわよ。異世界の勇者魔王として転生して私の目的通りに活躍すれば、貴方の欲の全てをうけいれてあげるわ……オーマ」


「殺してやるぞ……魔女……」


 偶然か必然か、そこの道路にトラックが走りこんで来た。

 そして俺はトラックにひかれ事故死し、異世界に転生した。





「夢……か」


 草原の奥の洞窟で眠る俺は、どうやらこの異世界に転生するまでの夢を見ていたようだ。

 あの魔女に無理矢理転生させられた記憶が甦り、思い出すだけでムカムカするぜ。

 そばにある焚き火を消し、全身のデータをチェックする。


「各マジックウェポンステムチェック。通信マジックウェポン。システムオンライン。火器管制マジックウェポン。システムオンライン。マップシステムオンライン。脈拍、血圧、心拍数共に異常。マジックウェポンシステムオールレッド……」


 そして、改めて自分の手で基本武装チェックをする。


 マジックウェポン――。

 現代の武装を魔法で生み出す勇者魔王である俺の特殊魔法だ。

 俺の基本武装はこうだ。

 腰のバックパックに魔力で切れ味を高めてあるダガー四本。

 左右の腰に日本の小太刀のようなショートソード二本。

 背中に魔力の余熱を利用して温めたヒートソード一本。

 両手首の鉄甲の中に仕込んだ敵を捕獲したり、建物を昇る為のアサルトアンカー。

 全身を包む魔法防御があるブラックマント。

 そして最大の切り札である武器は、胸のホルスターにある真紅の魔法銃・スペルガン。


「だが、今はスペルガンは壊れてる。魔女戦で無茶させすぎたスペルガンも壊れたし、テンパに報告がてら会いに行くか。そしていずれは現代に戻り、この勇者魔王の力で覇王になってやるさ」


 この異世界で世話になった死の商人テンパの都市へ向かう事にした。

 魔女がテンパは敵だとか言ってたが、テンパはただ自分の利益になる事をしたいだけだろ。

 高台からハングライダーなどを使ってテンパの都市までショートカットしたい所だが、重火器以上に、他の飛行道具などは魔力消費がデカイ。それに、この先はレーダーが使えないミストジャマーの森が続く。ここは徒歩で行くことにするか。


(勇者魔王としての俺を利用したい奴がいようといまいとどうでもいいさ……。俺は全てを――)


「使える奴はゴミ袋のように利用してやる」


 新たなる決意をする俺は、死の商人テンパに会うため旅に出た。




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