宿敵・異世界の美少女魔女との再会
黒いゴミ袋のステルス作戦で魔女のいる城に上空から侵入しようとした俺の作戦は魔女に気づかれ失敗した。二つ目の穴が空いたゴミ袋から様子をさぐる俺、勇者魔王オーマに向かって、下界の魔術師達は叫んでいる。
「対空砲火! 城に落ちる前に燃やし尽くせ!」
『おおーーー!』
下界の魔術師達から火炎魔法が凄まじく放たれた。
俺はゴミ袋を破り、自分の姿を衆目に晒す。
漆黒の髪に魔女の衣装にも似た全身を包み隠す黒のフードマントである魔法防護服・ブラックマント。これは主に両手を隠す為にある。相手に攻撃する瞬間を悟られない為のマントだ。
インナーは黒のシャツにベスト。
厚い生地のしっかりした素材を使ってる細身の黒ジーンズに鉄板が入った黒のブーツ。
返り血を浴びるから黒服が一番だ。
毎日洗濯出来るわけじゃないからな。
切れ長の瞳は殺意のみを宿し、俺はマジックウェポンの魔力で両手に現代兵器であるサブマシンガンを生み出し、急降下する風の圧力を受けながら構え、射撃を始めた。
「着地してからも抵抗するなら容赦無く殺す! いいな! これは脅しではない!」
そうだ。
脅しではないからこそ、今の下界にいる敵兵には致命傷にならないように狙撃して着弾させてる。こっちだって異世界へ来て三カ月。殺さなければ生きられなかったからって、当たり前のように殺しはしたくない。目の前の者を全て殺すようになったら、もうそれは人ではないのはこの三カ月で知ったからな……。
「チィ!」
ズゴウンッ! と爆発魔法の衝撃で着地前に外壁に吹き飛ばされ、右手で壁に叩きつけられるのを回避した。目の前には、俺を殺そうとする一人の魔術師いがいる。
「……俺の言葉は通じなかったようだな」
着地と同時に魔術師の一人を殺した。
「一つ……。ん? チッ、ザコを相手にしてたら魔女のいる王宮の間から遠くに着地しちまったぜ。……痛っ!」
魔女の城に着陸するが、壁にぶつかりそうになった時の反動で腕の骨が外れていた。
「よりによって右腕か……折れてないだけマシ――」
「死ね!」
直感がキラリ! と閃き、近くで魔力の反応がする。
その瞬間、背後から敵の兵士が俺に迫る――。
「チィ!」
利き手を使えない俺は左手で腰のバックパックからダガーを引き抜き突き出した。しかし、魔術師との距離はある為に鋭利なダガーの切っ先は届く事は無い。勝利を確信する魔術師と、怜悧にダガーを構えたままの俺の視線が火花を散らす。
「ぐっ……あああっ!」
無様な叫び声を上げ死んだのは魔術師だった。
両手首の鉄甲に仕込んであるアサルトアンカーを射出して魔術師の腹に食い込ませ、アンカーを引き寄せ無理矢理魔術師をダガーに自分から突進させ殺した。
「のおおおっ!」
多少の痛みを我慢し、無理矢理外れた右腕を治した。
すると、俺の脳髄に嫌な女の声が響く。
チョロチョロと現れるウザイ魔女だ。
「一対多数なんだから常に色々な武器を展開させとけばいいのに」
「確かにこっちは一人だ。だからこそムダに魔力を消費するわけにはいかない。必要な時に必要な武器を生み出すのが一番効率がいい」
「そのままだと、いずれ死ぬわよ。むしろここで死ぬわ」
瞬間、背後から氷結魔法で狙撃してきた魔術師をハンドガンで射殺する。
「二つ……」
「二人。でしょ?」
「人間と思ってたら殺しなんて出来ん。だから物としてカウントする。気まぐれでな。人の死を喜びとする魔女ならこの気持ちはわかるだろ?」
「うん♪ 人の死は魔女のエネルギーだからね。勇者魔王という特殊な人間は何がエネルギーなのかな?」
「……勇者や魔王に選ばれた者は特殊な人間。中でもその力を扱える使い手は異世界でも存在せず、預言者達の予知によると別次元の異世界にいるとされた。だからこそ俺は無理矢理異世界へと転生させられた。憎き魔女によってな!」
「この三ヶ月で得た知識ね。それに、魔女じゃなくてセンパイでしょ? 私は貴方のセンパイよ!」
「知るか。散れ――?」
「きゃ!」
突如吹いた夜風で魔女のフードマントがまくれあがる。
俺は恐ろしいモノを見た!
「! 新聞紙のパンツだと……何て斬新な女だ。これが魔女の恐ろしさか……」
そういえばこの魔女は新聞紙を扱う魔女だったな。
ニュースペーパーの魔法絨毯で空を飛んでるのを見た事がある。
「要するに、新聞紙の魔女か」
「そーよ。やっぱムレるからあげる。やっぱマントの下は裸が丁度いいわね♪」
ゴソゴソと新聞紙のパンツを脱いで俺に渡して来た。
「おう、悪いな。これで鼻でもかむ……わけねーだろ!」
「ヒャー!」
ったく! とんでもねー魔女だ!
さっきまではいてたパンツを渡すとはとんだ変態魔女だぜ。
魔女に対する怒りの理由を再燃させる俺はサブマシンガンを狙撃し続ける。
「魔王になるはずの俺をただの魔王じゃなく、勇者魔王にした罪を償ってもらうぞ!」
「元々はノリノリで勇者魔王目指してたじゃん! スゲー存在だってね!」
「まさか自分の身体にリスクがあると知ってれば憧れはしない。第一に魔王には憧れてたが、まさか左腕を切り落とされるとは聞いてないぞ! あの時、俺がどれだけの恐怖を味わったが教えてやる!」
「だって魔王になるには魔王の魔手をつけなきゃならないしね。それよりも左手、手袋してるけど魔王の魔手の調子はどう?」
「さぁな。答える義務も義理も無い」
確かに俺の左手は白い魔法結界のある魔法手袋をしてる。
自分の左腕になる魔王の魔手は見たくない……。
自分の手じゃないって感覚が恐ろしいのさ。
「その様子だと魔手にはまだ慣れてないようだね。ならマジックウェポンの調子はどう? まず貴方が持つ基本武装は……」
「すでにこの三ヶ月で調査してるなら知ってるだろ?」
「じゃあセンパイと答えあわせしよう!」
「フン。散れ魔女」
マジックウェポン――。
現代の武装を魔法で生み出す勇者魔王である俺の特殊魔法だ。
俺の基本武装はこうだ。
腰のバックパックに魔力で切れ味を高めてあるダガー四本。
左右の腰に日本の小太刀のようなショートソード二本。
背中に魔力の余熱を利用して温めたヒートソード一本。
両手首の鉄甲の中に仕込んだ敵を捕獲したり、建物を昇る為のアサルトアンカー。
全身を包む魔法防御があるブラックマント。
そして最大の切り札である武器は、胸のホルスターにある真紅の魔法銃・スペルガン。
「……俺は勇者と魔王の力を同時に秘めているが、相反し合う力は安定せず魔力も無尽蔵にあるわけじゃない。ふと、気を抜けば一気に俺は人を超越した魔物にでもなるだろうよ」
「じゃあ早く力を安定させて、最強の存在になって私の役に立ってね♪ じゃ、ね」
と、逃げる魔女。
逃がすわけにはいかない! と俺はアサルトアンカーを魔女の背中に狙いを定めて駆ける。すると、俺を屠る為に気配を消して頭上で待機していた魔術師が電撃魔法を放って来た。
「!? ブラックマントの前では通常魔法など!」
真上からの電撃をブラックマントで防ぐ。
魔女の姿が消えた事に腹を立てる俺はその魔術師の足をハンドガンで撃ち抜く。
「足を撃ったからもう立てないだろ。魔女の居場所はどこだ? 答えろ」
「……」
「答えなければ殺す。これは脅しじゃないぜ。この落ちた写真は家族だろ? 今死ぬわけにはいくまい?」
俺は魔術師の眼前に落とした男の家族写真をつきつけた。
「……ここを真っ直ぐ行き、左の扉の横のスイッチを押すと隠し扉がある。そこを昇ると魔女のいる城の最上階だ」
「わかった。貴様は生かしておく。家族は大事にしろよ」
「すまねぇな勇者魔王。俺達は魔女を守れとテンパ様に言われているだけの魔術師。別に魔女の仲間じゃないのさ。けどな……あの魔女すら手なずける主の死の商人・テンパ様には……」
その魔術師の言葉を半分ほど聞いた俺は、すでに男の言った方角に向けて駆ける――が、マジックサーチシステムの反応が背後から迫る何かを確認した。俺は歯を噛み締め、半身になり背後を振り返る。魔術師は、自分の立場の辛さを訴えるように泣きながら俺を最大出力の電撃魔法・ギガボルターブラストで攻撃してきていた――。
(このままだとダメージを受ける! 魔女戦の前に無駄なダメージは――)
それを魔王の魔手である左手で受けた。同時に白い手袋が燃え尽き、黒く血管が浮き上がる不気味な魔王の魔手が姿を現す。自我を持つ魔手の魔力吸収により、ダメージは無かった。けど、魔手に栄養を与えれば与えるほど魔手は成長し、俺の精神は確実に蝕まれやがて支配される。が、今はそんな場合じゃやない――。
「……! バカヤロー!」
サブマシンガンをぶっ放し、蜂の巣になる男が死に、その背後で黒い何かが蠢く。
それは長い黒髪が触手のように揺れ動く悪魔にも見える黒服の魔女だった。
「うーん。助かったわ。これだけ魔術師を殺してくれて。サンキュー!」
「仲間を殺されて喜ぶとはな。戯言魔女が」
「残念ながら仲間じゃないの。それに、魔女は孤独な生き物なのよ」
その妖艶な笑みの魔女に、俺は見とれてしまう自分にイラ立ちつつ切り札の真紅の魔法銃・スペルガンの引き金を引けるよう意識して魔女と対峙する。