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魔女との熱い夜

 テンパの宝物庫に仕掛けてあったトラップにより、俺と魔女はどこかの森に転移した。

 夜の森の中で、はっきりとした場所がわからない。

 少し先に明かりが見え、歩いて行くと俺の感覚がこの異世界に来た瞬間に戻った。

 そう、この村はフルムーン。

 ここは俺がこの異世界で初めに転生した村だ。

 隣に立つ魔女は俺と同じように驚いた顔で言った。


「まさか……。まさかこの場所に転移するなんてね。あのワープのトラップは私達の大事な場所へワープさせたようね。二人の心はシンクロしてたみたい」


「ワープの中で互いの感覚がリンクしたから感じたが、ここはお前の故郷……か?」


「……」


 フフッ……と満月を背に立つ魔女は微笑み、村へと歩き出した。どうせまともな答えはないから特に気にせず、久しぶりに来たこのムーンライト村に俺も向かう。





 ラルク大陸・大都市エゾーチに近い一つの村であるムーンライト村。

 そこはすでに夜である為に寝静まっていて、しん……とした空気のみが張り詰めている。

 俺と魔女は無音魔法サイレスを使い、誰もいない馬小屋へ侵入した。馬小屋の窓枠を全て閉じ、中にある草をかき集め焚き火をした。


「挨拶しなくていいの? ここの村人には世話になったんでしょ?」


「寝てる所を起こすのも悪いし、俺が勇者魔王としてどう見られてるかはわからないからな」


「……どういう事?」


「ここに来た時は、勇者として転生して異世界に来たと勘違いをしてくれて俺を受け入れてくれたが、すでにあれから三ヶ月以上経ってそれなりの事件を起こしている今の俺を村人が受け入れてくれるかはわからない。巨大な力を持つ者を普通の人間が受け入れられないのは、この世界で何度も経験してるからな。自分を異質な存在として見られるのは結構辛いぜ?」


「この三ヶ月ちょっとで色々経験して成長してるわねコウハイ君」


「黙れ魔女。お前だってここが故郷なのに、挨拶もしないのは俺と同じような理由だろ? 俺達はどの人間からも尊敬されると同時に畏怖される」


「そうね。それよりもなーんかお腹空いたわね。コウハイ君がセンパイの為に何か料理作ってよ。腹が減っては戦は出来ないんだからね♪」


「……それは一理あるな。お前は不器用そうだから俺の命の為に何かこの村にあるもので簡単な物を作るか」


「ひどーい! コウハイ君は悪魔よ! 悪魔の勇者魔王よ!」


「黙れ魔女。食わせないぞ?」


 と、ウルサイ魔女を黙らせてまずは馬小屋の奥にある倉庫の中を見た。そこはジャガイモやニンジン。タマネギやキャベツなどの野菜が保管されている倉庫だった。人間用と馬にやるエサの両方を兼ねてるんだろう。とりあえずジャガイモがあったから、古い鍋に水魔法で水を入れて火炎魔法で茹でた。このエゾーチ都市近辺の土壌は優れているらしく、ジャガイモなどの野菜がやけに美味い。これは異世界に来てから食い物の不安を抱えていた俺の不安を一掃する力があるほどの衝撃だった。まさか野菜嫌いの俺が野菜好きになるとは思えなかったからな。それを教えてくれたこのムーンライト村の住人にも感謝してる。


「……塩があればもっと美味いだろうが、このままでも美味いな。空腹は最高のスパイスってか?」


「おいしい! 茹でただけのジャガイモがここまでおいしいなんてやるねコウハイ君! センパイは大感激だよ!」


「たかがジャガイモだけでそこまで喜ばれると、こっちも感激だ。悪いがこの村の物資ををあまり拝借するわけにはいかない。ここは辺境だが、人の心は豊かな村だ。そのおかげで俺も村人から優しくしてもらい助かったが。ここもいつ人のいる村を襲撃するゴールドドラゴンに教われるとも限らないからな。災害にあった時、食料は貴重だ」


「それが本当に自然災害と同じ偶然によるモンスターの襲撃ならね」


「……お前も思ってたか魔女。あのゴールドドラゴンの村々を襲う襲撃はテンパの指示によるものだと」


「それがテンパの罠なのよコウハイ君。早くテンパを倒さないと、いずれこの村も不老不死計画に利用されて村人全てが死ぬ」


「……確かに。この辺境の村なら村人が全員死んでも、ドラゴンに襲われて全滅したって話で通るからな。やはりあのゴールドドラゴンは……」


「テンパのペットでしょうね。あの女は強き者も、弱き者も全てを利用する」


 そうか……。

 あの自然災害のはずのゴールドドラゴンさえ手なずけていたか。

 会話が出来ないモンスターを使えば、誰もがモンスターの本能で戦ってると思うからな。

 考えたもんだぜテンパの野郎。

 そして、ガブリと茹でジャガイモにかぶりつく魔女は、


「もう魔力秘宝・宝玉を扱えるほどのレベルに近いなら、ゴールドドラゴンを魔法で意識を支配して操るのも可能でしょ? なんせ、あの金色のドラゴンってのはあの金髪巻き髪女の特徴でしょ? おそらく身体のカラーも元は違うはずよ。あの女はそういう女だから」


「確かにな。となると、やはり村々を襲っていた目的は宝玉を扱う為の人体実験と、この都市の周辺の村の自分の従わない反乱分子の処理。そしていずれは七つの国に分かれるこのラルク大陸の支配か」


 ゴクリ……と俺は食べていた茹でジャガイモを飲み干す。

 馬小屋の窓から見える周囲の景色をじっ……と眺める魔女に俺は言う。


「俺はこの世界の人間でもないし、一週間ほどしか滞在してないからこの村に対する愛着は薄い。だがお前はこの村が生まれ故郷。相手が知らないなら、それを利用して話しかければいいじゃないか。お前は、もっと素直になれよ。俺を唯一無二の存在・勇者魔王にしてこの異世界に転生させた時のように」


「だからもう誰も私を知らないのよ。だって、魔女になった時点で昔の私の存在は死んでる。だから人々の記憶には残らないようになってるの。魔女は魔女でしかないから。だから村人に話しかけるのなんてありえないわ」


「そうか魔女」


 頭にきた俺はハンドガンで魔女の足を撃つ。


「痛いっ! ちょっと待ってよコウハイ君! 今は休戦協定でしょ?」


「痛いのは身体だけか? 俺と共闘したいなら隠し事は無しだ。でなければ、俺はお前を撃ち続ける」


「……」


 と、魔女のアホに弾丸を撃ち込んでもスッキリしない俺は、魔力で水をお湯にして空中に浮遊させながらシャワーを浴びるオーマシャワーをする事にした。これはシャワーの無い異世界においてシャワーを浴びる事の出来る技だ。水を空中に浮遊させつつ、細かいシャワーのような水を降らせなければいけないから魔力のコントロールにもなっていい修行になってたな。


「食料倉庫の横の個室で俺はシャワーを浴びて身体をキレイにする。俺が終わったらお前も身体をキレイにしろ」


「キレイにした後は、何するの?」


 と、月明かりが照らす窓枠の下の魔女の妖艶な瞳に呑み込まれそうになる俺は、自分の高まる気持ちを必死に抑え武装を全て解除し、


「男は女と夢を抱く生き物だ。しかし、俺は今は夢を抱く生き物だ」


 言いつつ、俺は個室に入り服を脱いでシャワーを浴びた。

 そして、魔女の奴にもシャワーを浴びさせて今夜はここで休む事にした。体力が落ちた状態でテンパと戦っても敗北は必死。宝玉が奴に馴染むまでまだ時間があるから、今日は休む。確実にこの戦いに勝利する為にな。

 魔女がシャワーを浴びてる間、馬小屋にあった大きなカーテンのような布を毛布がわりにして馬草が敷かれた場所で横になる。すると、疾風魔法で身体の水を払い、髪もほぼ乾燥させた魔女が豊かな乳を揺らし、茂みの無いしなやかな下半身を震わせながら現れた! それに俺は驚愕し――。


「お前……何で裸なんだ!」


「マントの下はいつも裸だし、しょうがないでしょ? 早くその中に入れて」


「な、中に入れて!? バカ! 俺は童貞だぞ! いきなり生で入れられるか! いいか! そういうのはな――」


「あったかーい! この馬草のクッションと毛布がわりの布でもあったかいわね。流石はコウハイ君」


「……当然だ。俺はコウハイだからな」


 コイツ……全裸で男の横で寝るつもりか?

 これじゃ、俺が眠れん!

 まぁ、どうせ眠れないからいいんだがな……。

 にしても、魔女の柔らかい弾力のある肌の生々しい感触が俺の男を刺激しすぎて死にそうだぜ……。いや、死ぬ。死んだ。我慢が死んだ!

 その素肌と素肌を抱きしめながら絡ませてくる魔女は、桜色の唇から放たれる吐息で俺の鼻腔やら何やらを刺激しつつ、


「あれ? コウハイ君はパンツ履いてるね。暑くないの?」


「暑くても。俺はパンツだけは履く派だ。起きた時、フルチンじゃ勇者魔王として格好がつかないからな」


「まぁ、この状況で格好つけてもダサイだけだけどね」


「黙れ魔女」


 俺はこの裸の魔女を抱いたまま休む事にした。

 この女は嫌いだが、この肌の湿った温もりだけは俺を癒す。

 今はそれだけが真実でいい。

 それでけで十分だ。


「……もう寝るぞ魔女。早く寝ろよ」


「そっちが先に寝てよ。こっちが先に寝たらエッチな事するんでしょ?」


「しない。したいならとっくにしてる。この状況に耐えられるのは正に勇者魔王だ。凡人ならお前を好きなように抱いてるだろう」


「それはチキンとも言うわね。私を好きにしていいのよ? この異世界に無理矢理転生させて憎いんでしょ? 殺したいんでしょ? テンパを始末してくれるなら、今は下のスペルガンを魔女に叩き込んでもいいのよ……」


 仰向けで寝る俺に暴れる乳を揺らし、覆いかぶさるように魔女は言う。互いの乳首と乳首が触れ合う感触が互いを刺激するが、俺はそんな事では屈しない。この先、この女を抱くことがあるかも知れないが、それはこの魔女自身との決着をつけてからだ。


「俺は勇者魔王になった時から不眠だ。そして不眠症で髪の毛は真っ白になった。だから今は魔力で黒くしてる。もう知ってたはずだが?」


「そうね。知ってた」


 言いながら、馬乗りになっていた魔女は俺の横に寝る。

 俺は不眠だが、目を閉じて休む。

 これだけでもかなりの回復は得られるんだ。

 それに今は魔女の肌もあるしな。


「俺はお前に付けられた魔手のおかげで、勇者烙印の勇者英霊と魔手とのせめぎ合いで眠れない。おそらく、眠る事が出来たら自分の体内から世界を破滅させる何かが生まれる可能性がある。俺はおそらくこの世界を崩壊させる特異点になるだろう。それがお前が望んだ史上最強になる存在。勇者の勇気と魔王の悪意を重ね合わせた無垢なる悪意・勇者魔王だろう」


「そう、その通りよオーマ君」


「何がオーマ君だ。ふざけるなよ魔女」


 さっき言った通りの不眠から俺の髪は真っ白になった。

 まぁ、ハゲになるよりはマシだが。

 白髪も嫌だから魔力で黒く見えるように染めてる。まだ俺は十代だし、この異世界では色々な髪の色があるがやっぱ俺の感覚じゃ若白髪は辛いからな。

 隣で横になる魔女は真っ黒な奈落のような瞳をまばたきもさせず俺から離さない。いや、瞳だけでなく魔女は自分の足で俺の下半身を拘束していた。まるで自分の男を絶対に離さない欲望にまみれた悪女のように――。


「勇者魔王なら今は世界のお尋ね者だし、寝てる暇も無いしいいんじゃない?」


「そうだな。お前のおかげで常に最高の気分でいられるよ。殺したいほどに感謝する」


「どーも、どーも」


「……俺は必ず魔女を殺す。お前への復讐は必ずするから俺の心配なんてしても気は引けないぞ?」


「私の役に立ってくれる存在なんだから、心配なんてしないわよ。魔女はその名の通り、魔の女なんだからね」


「そうだな。お前を殺さなければならんしな」


「そうね。楽しみにしてるわ」


「必ず殺してやるぞ魔女」


「必ず殺してみなさいな勇者魔王」


 すると、魔女は俺のもっと俺の側に寄り手をとった。


(何だ魔女の奴。やけにあったかい手だな……女の手はこんなにも柔らかいのか。って、魔女を女として意識してどうする。いずれ倒す敵だ敵。しっかりしろオーマ)


 女の手の異様なほどの柔らかさに触れてしまい、自分の気持ちが揺らぐ俺に魔女はトドメを刺す。


「なら、私が眠らせてあげるわ」


「……!」


 俺は突如押し倒されキスをされた。

 しかも、濃厚な舌を絡めるディープキスだ。

 互いの唾液と舌先が、妖艶に交わり俺は自分の新しい扉を開いたような感覚に陥る。

 俺は自分の衝動に任せて一気に抱き寄せると、その魔女が熱いキスで俺の心を溶かす。


(身体が……脳が……とろける。これが本物のキスか。恋人同士がするキス。心では魔女に復讐を誓っていたが、俺も認めざるを得ないな。俺は、この魔女の事を――)


 おそらく、セックスをする時のような特別なキスをされてしまい気絶した俺は魔女の言葉を聞き逃していた。


「言ったでしょう? この世界の勇者魔王として転生して私の目的通りに活躍すれば貴方の欲の全てをうけいれてあげると。次は、私の身体を楽しませてね……オーマ」


 同じ室内で鳴く馬の鳴き声すら感じる事も出来ず、憎き魔女の胸の中で眠った。

 母のような壮大な温もりと、姉のような安らかな親近感。そして妹のような無邪気さを兼ね備えていた魔女の全てを受け入れるように俺は異世界に来てから初めての眠りについた――。



 








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