ゴミ袋でステルス潜入をする男。勇者魔王・オーマ参上!
真っ黒い夜空を黒いゴミ袋が下界めがけて落下する――。
あれはただのゴミ袋だ……と人々は思い、誰も警戒をする事は無い。
「使える奴はゴミ袋のように利用してやる」
夜風に乗り山の山頂付近から魔力で生み出したハングライダーで飛び、魔女のいるとされる城下町に向けて飛行してから城の頭上でハングライダーを解除し、ゴミ袋で落下してるのはこの俺、オーマだ。ゴミ袋とは安価でステルス機能のある神の製品だ。俺は敵に見つからず、敵の頭を仕留め敵兵の戦意を失わせ勝利する。堂々と敵の正門から攻める勇者なんて時代遅れだぜ……。いや、俺は勇者であるが魔王でもある。
そして俺は自分の勇者魔王としての魔力兵器・マジックウェポンを確認する。
「各マジックウェポンステムチェック。通信マジックウェポン。システムオンライン。火器管制マジックウェポン。システムオンライン。マジックマップシステムオンライン。脈拍、血圧、心拍数共に異常。マジックウェポンシステムオールレッド……よし、全てのパワーが三倍のような赤さ具合だぜ」
魔女のいる城ではエマージェンシーコールが鳴り響き、赤いライトが敵の城全体に戦闘警報を発してやがる。どうやら敵のマジックレーダー網に引っかかったようだな。ここまで来れば、全ては遅いが。いや……この早い段階でバレたとなると、やはりここには魔女がいるな。
俺が殺すべき魔女が。
黒いゴミ袋の中にいる俺は、一直線に魔女のいる城に向けて流星のように降下した。
「この異世界の魔術師と戦うには現代兵器との相性がいいのはこの三ヶ月で実証済み。今の俺なら魔女をも散らせる」
スゥ……と大きく息を吐き、全身の魔力を高めた。
「……シャユウ・オーマ作戦行動に出る!」
勇者魔王・車勇王真は復讐の為に敵の魔女がいる城にゴミ袋で降下した。
しかし――。
その城の屋上にいる黒衣のフードマントを着る黒髪ロングの清楚な顔立ちの美少女。
俺の復讐の相手である魔女の女は真っ黒な瞳で上空から落下する黒いゴミ袋を見つめていた。その、復讐の相手である魔女であるその少女は桜色の唇を笑わせるように言った。
「あれは勇者魔王・オーマよ! 魔王でありながら勇者になったとっても欲張りな世界を変革する悪魔なの!」
「本来なら魔王になるはずだったこの俺に、お前が時期でもないのに無理矢理、異世界に転生させて勝手に勇者の力を与えたのによく言うぜ。流石は魔女……必ず散らす」
「魔女じゃなくてセンパイでしょ?」
「人の世界で覚えた言葉にハマるな魔女」
「むむ……いつも言うけどセンパイって呼んでね!」
「ん? いつも言うけど何だ魔女?」
「センパイ!」
「おう、俺がセンパイか。当然だな」
「ち、違う! 私が! センパイ!」
「私の? センパイ?」
「貴方が? センパイ? アレ?」
「俺様! センパイ!」
「センパイ! パイパイ!」
魔女があれが敵と天晴れ! と扇子を振りながら叫んでやがる!
あの野郎!
こっちがおちょくられてたようだぜ!
これで完全に俺のゴミ袋突入作戦は失敗した。
ゴミ袋の中で敵にただのゴミ袋か……と思わせて敵地に侵入させるこの異世界で編み出した作戦だ。この異世界に来てからの三カ月はこのゴミ袋作戦は役に立っていたのに魔女には通じないようだ。
その魔女は都合が悪いと目をパチクリさせて遠くを見る癖があるが、今はゴミ袋の中の俺をじっと大きな瞳で見つめてやがる。嫌な奴なのに顔だけはいいのがムカツクぜ……。
そして、魔女の掛け声でワラワラと現れだした魔術師達が俺に向けて対空砲火の魔法の詠唱を始めた。
「魔女よ。必ず散らしてやる」