Worse person
どの世界でも劣る者は居ますよね。能無し、出来損ない落ちこぼれ。そんな言葉を投げかけられ、バカにされる彼らはなぜそこまで走り続けるのでしょうか?
※他人事のように書いてますけど自分もそのうちです(笑)
2時間前....頂上、記念館
「ふぁーあ、よく寝た」
この時ほど軽量化と題して後部座席を外さないでよかったと思った瞬間はなかった。が、
「あれ、皆もう帰っちゃった?」
フロントガラスに張り付くワイパーには、"卓弥、先かえるよ(・∀・)"なんて紙が嫌味ったらしく挟んである。その奴等の絵文字と仕業に苛立ちながら、自販機で買ったアイスコーヒーを飲み干しキーを回す。いつもどおり、エンジンスターターがボクサーを目覚めさせると、中低音のあの音が室内に響きわたる。スバル インプレッサWRX Sti type-R。今となっては凄く古い車だが、運転が下手な分手入れは入念にしているので、コンディションは並かそれ以上。
「水温チェック、油温チェック、アイドル安定、OK!」
そう言ってシフトノブに手を伸ばしたとき、頂上付近に聞きなれないNAサウンドが鳴り渡る。現れたのは旧式のCR-X。俗に言うバラスポってやつだ。この峠で、頂上に唯一ある街灯の下で華麗にサイドターンをキメてると、折り返し下っていく。そのバラスポのテールランプを見て卓弥は本能的に思った。
"追いかけなきゃ"
6000回転までアクセルを煽り、ローギアにクラッチを繋ぐ。即座に4WDと300馬力に背中を蹴飛ばされて走り出す。
コースインして2速へシフトアップ。バラスポとの差は目測50m。ここのコースレイアウトは、頂上スタートすぐにセミトップに入る長いストレートがあり、そこから右ヘアピンにフルブレーキ。そこからつづら折りの2速度低速セクション、そのあと3速吹けきる道の荒れた中高速セクションと続く。仕掛けるなら後半のダーティーセクション!
3速シフトアップ!バラスポのテールランプをたぐり寄せる。4速シフトアップ!ロックオン!4速5000、5500、6000、フルブレーキ!先行のバラスポはそれより遅れてブレーキ。バラスポがキレっキレのターンインを見せる。それに遅れまいとノーズをインにねじ込む。が、コーナー脱出のときには車半分くらい離れていた。2速吹けきる前に次の左がくる。それを抜けたら次、次、次。
結局、前半のコーナーを10個数える前にバラスポの影は失せていた。
全開で攻めていた。今までないくらい。見える景色さえ違った。ブレーキングポイントはいつもより一本奥にとり、インクリップもよりインに、アウトクリップもよりアウトにとった。完全に全開だった。
「完敗だ....次元が違う....」
EG6,EK9,ZZT23セリカ、色んなFFを見てきた。だけど、あんなライン誰もトレースしなかった。いや、出来なかった。かのインテRさえあんなクイックターンできやしない。だけど、見たことないわけじゃない。あの人のSW20はあのラインをトレースしてた。まあ、次元が違いすぎてただただビビリ上がってただけだけど....。
そんなこと考えていると、またあの甲高いNAサウンドが鳴り渡る。どうやら、折り返したらしい。そして、この荒れた路面を蹴りあげ猛々しく駆け上がるバラスポの眼中に、この青いインプレッサが影も形も入ってないことは火を見るより明らかだった。
ただただステアリングを握り締めることしか出来なかった。