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ファンタジーによくある?

雰囲気を重視して方言を使っている箇所があります。

ぶすくれる→ぶすっとむくれる


ちなみに博多弁だそうです。

友人も私も普通に使ってたので標準語だと思ってましたwww


 「ふっひょああああああああ!!」




 私は叫んだ。 あまりの恐怖におののいた。


 吹き付ける風に、震える身体を自分でも抑えられなかった。


 が、そんな私を気にすることもなく、気持ちのいいくらい晴れた青空を颯爽と滑空するカラスちゃま。


 それでも今にも死ぬんじゃないかというくらい必死に叫ぶ私に、流石さすがのカラスちゃまも心配になったらしい。 首を傾げるような素振りで、「どうした」と短く問う。



「こっ…こっこっこわ…!!」


「何だ、高い所は駄目だったのか?」


「ちゃいますよ!! そうじゃなくって…!」



 どこかに降りようとでも思ったのか。 大きな背中に私を乗せたまま、カラスちゃまの身体は急降下した。


 ぶわり、と浮遊感と共に風が吹き付けて。 全力で叫んだ。






「か…っ髪の毛ハゲるぅううううううう!!」






 私の情けない叫び声は尾を引いて青空から落ちていった。






***





「ばかばかカラスちゃまのばか」


「ンだよ、だから悪いって言ってんじゃねーか」



 カラスちゃまの背でぶすくれている私に、面倒くさそうにカラスちゃまは答えた。


 カラスちゃまは、変わらず私を乗せて空を飛んでいた。 速さは先程と大差ないが、今はそよ風一つ感じない。 私の周りには風を遮る結界のような空気の膜が出来ていた。



「…こういう芸当が出来るなら最初からしてほしかった…」


「しょーがねぇだろ。 こんなことで人間の毛がすっぽ抜けるなんて誰が思うかよ」



 失礼な。まだ抜けてない。


 抗議の代わりにカラスちゃまの背中の羽根を引き抜かんばかりにグイグイ引っ張ったが、痛くも痒くもないらしく鬱陶しそうな声をあげられて終わった。



「ったくよ…最初背中に乗った時は飛び跳ねて喜んでたくせによ…」



 カラスちゃまがふてくされたようにぼそりと呟く。


 …だって、そりゃあモフモフの背中に乗って上空飛行!なんてファンタジーな展開、ワクワクもするでしょう。 カラスちゃまではないけれど、まさかそんなことで髪の毛の危機に晒されるなんて思わなかったのだ。

 ファンタジー小説でも空を飛んだらハゲかけました、なんて話見たことなかったし。


 私は忘れていたのだ。 ファンタジーのキャラクター達と違って今世の私の長くて量の多い髪が、泥で固まっていたことを。


 空を飛んだ時、当然のように吹き付ける風に固まった髪の毛はもろに空気抵抗を受けて頭皮ごと持って行かれかけた、その時の私の恐怖と言ったら!



 ぶるり、身震いする。 もう二度とあんな目には遭いたくない。



 私はモフモフに顔をうずめて、そこでようやくホッと息をついた。


 ぼうっとしながら、何となく手を伸ばして見れば、指先が柔らかい何かに当たる。 目には見えないが、空気の膜はどうやら私が両手を広げたほどの幅であるらしかった。



「……便利ですね。 これってやっぱり魔法ってやつですか?」



 脈絡も何もない質問だったが、カラスちゃまはその言葉だけで察したらしい。

あーともうーともつかない唸り声をあげて、戸惑っている様子を見せた。



「あー…魔法…で、良いのか? まぁ、鳥だからな。 風魔を従えてるってな分、この手の術は息するのと同じようなモンだな」


「…ふうま?」



 何だろう。 知らない単語が出てきた。


 聞き返せば、あぁ、と何かに納得したようにカラスちゃまは頷いた。



「自然には力が宿るって考えられてるんだよ。 力を持った自然の精霊が“魔”って呼ばれる。 風魔は文字通り風の魔だな」



 かく言う俺様も人間からすれば魔の一種らしいぜ。


 カラスちゃまはそう言ってケラケラ笑った。それを尻目に私は首を捻る。


ゲームでそんな設定あったっけか……?

うーん、思い出せない……。


「なるほど…じゃあ私には見えないけどここらへんに風魔さんとやらがいるわけですか?」


「じゃね? 俺様も見えたことねぇけど」


「オイ」



 従えてるんじゃなかったんかい。


 風魔とやらの主人にしては曖昧すぎる回答に思わずツッコミを入れる。

 カラスちゃまはただ、どうでも良さげに鼻を鳴らした。



「誰も見たことなんてないだろうさ。 風魔なんてのは人が勝手に風を神格化してそう呼んでるだけだ。 他の魔だってそうだ。 要は自分達の力の及ばないよく分かんねぇものを怖がって崇めてんだよ」



 ちら、とカラスちゃまが地上を一瞥するのに釣られて下を見下ろした。



「まぁ、最も今となっちゃ言葉だけ残って崇めてるやつすらほとんどいなくなったがな」



 広大で圧倒的な存在に思えた森は、上から見てみると大小様々な廃墟に蝕まれていた。



「…あれ、は…都市…? ですか?」


「古代の遺跡だ。 いつの間にか森の一部になっちまってたんだな。 俺様も見るのは久し振りだぜ」



 声の節々に懐かしさを滲ませ、カラスちゃまは遺跡の上をクルリと旋回する。


拍子に体のバランスも崩れたが、空気の壁に柔らかくキャッチされる。 シートベルト無しで飛行機にでも乗ってる気分だ。



「…っと! ワリ、今のは大丈夫だったか?」


「あ、はい。大丈夫ですけど…それより、遺跡って…この近くにはもう人がいないんですか?」



 大きな森だ。 だからこそ違和感を感じる。 森がこんなに大きくなるほど、遺跡が森に埋もれるほど、長い間人の手が加えられてこなかったというのか。


 もしそうなら、当然この近くに人々が住んでいない、ということになるが…



 ――ぶっちゃけ早くお風呂に入りたいので遠いのは嫌だ。



 幸い、カラスちゃまは首を振ってくだすった。



「いや、そうとも言えねえな。 今も森の近くに住んでる奴らはいる」



 ホレ、とカラスちゃまが顎(くちばし?)をしゃくった先には、大きな集落があった。



「あそこに降りるぞ」


「ふわああ! やっと、やっと着きましたか!長かった…!」


「仕方ねぇだろ、これでも一番近いトコだったんだぜ」



 カラスちゃまが笑うのを見て、ふと思い出した。



 ――あの沼から飛び立った時。



 あの時、近くに小さな村が見えた気がしたのだ。

 あれも、遺跡だったのだろうか。 私の気のせいなのだろうか。 それとも単純に、カラスちゃまが気付かなかっただけなのか。


 或いは――……。



「ねぇ、カラスちゃま」


「あ? 何だよ?」


「……いえ、」



 喉まで出掛かった言葉は、結局形にならないまま萎んでしまった。


 怪訝そうなカラスちゃまに笑って、代わりに言った。




「いえ、さっきの鼻息、どうやって出したのかなって思って」


「………………お前ってやつぁ……」


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