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モフモフとの遭遇

 コツン。 コツン。


 痛い…。


 コツン。 コツンコツン。


 や、ちょ、マジで…マジで痛いって…。 誰だよ人の脳天執拗につついてくるのは…。


 コツン。 コツコツ、コツコツコツコツ。


 いた、いたた! いぃった!


コツコツコツコツコツコツ!


「…っだぁあああっもう! だから痛いっつってんでしょーがっ!!」


 両手をブンブン振り回し、ガバッと勢いよく起き上がる。 重たい瞼を怒りの力で無理矢理こじ開ければ、目の前でフラッシュを焚かれたように視界が白く(まばゆ)い光に覆われて目が眩んだ。


「う…あ、何だ朝か…」


 昨日の不気味さが嘘のように、至って普通の森の風景がそこにあった。 いや、大きく枝を伸ばしている木々のせいで日光が遮られ、多少薄暗くはあるが。 それでも夜に比べれば安心感が違う。 もう全然違う。


 お日様の素晴らしさたるや…!!


 爽やかな気分につられて大きく伸びをすると、カピカピに乾いた泥が剥き出しの腕からボロボロと落ちてきた。


「…おふ、きもちわる…」


 意識した途端、何だか肌が息苦しく感じられて、げんなりする。 お風呂入りたい…。


「オイ」


「この世界ってお風呂あるのかな…いや、っていうか、そもそもこの森出られるの…?」


「オイコラ」


「出るまで時間かかるかなー? せめて川でもあればいいんだけど…」


「もしもし?」


「いやでもなあ…」


「オイコラ無視かコラァ! いい加減泣くぞ!」


 男の人の声。

 突然聞こえたそれに、肩がビクリと跳ねた。

 そうだ、そういえばさっきまで私の脳天を激しくツンツコしてきた奴がいたんだ…!

 慌てて周りに視線を巡らせる…が、それらしい人は見当たらない。 あるのは木ばかりだ。


「……げ…幻聴…?」


「おう、下だ下。 足下見ろ」


 足下?

 謎の声に言われるままに視線を下げれば、小さなカラスがちょこんと佇んでいた。


「ひぎゃあああ!? わ、わわっ! い、いつの間に…!!」


「悲鳴とは御挨拶だな」


「カラスが、カラスが喋った!」


 思わずけんけん足で飛び退くとーーただしカラスを踏まないように注意したーーカラスは馬鹿にするようにシニカルな笑みを浮かべた。 …いや、もちろんカラスについてるのは黒くて立派なくちばしなのだけれど。


「まぁ、驚くのも無理はない。 何せ俺様だからな。 お前にもこの高貴なオーラが…」


「声帯どうなってるんだこれ…異世界マジファンタジー…」


「聞けよ」


 本物のカラスというよりぬいぐるみのようなころころとした真ん丸のフォルム。 艶やかとは程遠いモフモフの羽。 尾は小さな体には不釣り合いなほど長く、その先は降り積もったばかりの雪のように白い。 理知的な輝きを秘めた目は上物のルビーだ。

 あ、アフォ毛がある。


「あっ! コラ、オイ、気安く触んじゃねぇこの…!!」


 持ち上げてみると意外と重く、手のひらに生き物のあたたかさが伝わってくる。 体はサッカーボールより少し小さいくらいの大きさだ。

 …可愛いな、これ! 私ぬいぐるみ大好きなんだよね!


 これなら暴れられたって痛くも痒くも…


「オイコラ! ガキ! 離せって言ってるだろコラ!!」


 あ、嘘です。 すっごい痛い。 くちばしと鉤爪メチャクチャ攻撃力高い。


 この子供の体にあまり傷をつける訳にもいくまいと泣く泣くモフモフを解放すれば、カラスはやけに人間らしい仕草で無い肩を上下させて息を整える。 そうして鋭く切れ長な目を私に向けて、


「1つ…聞いて良いか?」


「な、何でしょう…?」


 無駄にイケメンな声で言うものだから、自然と背筋が伸びた。

 沈黙すること数秒、カラスはゆっくりとくちばしを開いた。














「お前…誰だ?」


「こっちのセリフですけど!?」


 全力のツッコミが響き渡った。



* * * 



「なるほど、つまりカラスちゃんは神様であらせられるんですか?」


「まぁ、みたいなモンだな。 とは言っても凶鳥(まがどり)っていって不吉の象徴だって言われてるんだけどな。 ってかお前、カラスちゃんとか…『神様』に対してフランクすぎじゃね?」


「カラスちゃま」


「おちょくってんのかテメェ…」


 大真面目ですけど何か?


 自称神様のカラスちゃま曰くこうだ。

 ヤタガラスという不死鳥の神様のカラスちゃまは、昨日沼で溺れていた私を助けてくれたらしい。

 気まぐれとはいえ助けたからには代価は貰っておこう。

 …と、まあ、こういうこと。

代価……代価かあ……。そうは言っても私、今金目のものなんにも持ってないからなあ……。それこそ1文無しなんだけどどうすればいいんだろう。

まさか体で……なんてのはないよね?


もう一度自分の姿を確認してはもぞもぞとしていると、私の考えを読んだようにカラスちゃまが鼻で笑った。


「安心しろ。 そんな貧相な体なんざ求めてねえし、貰うモンはもう決めてある」


 何だろうな…何かデジャヴを感じるんだよなぁ…。

カラスちゃまのこのフォルムも、この美声も、どこかで…。

 気のせいかな…?


「お前」


「へっ? あ、はい?」


 私好みの美声に呼び掛けられて我に返る。 いけない、ぼーっとしてた。


「お前の名前は?」


「あ、えっと……悠菜です」


 しばらく迷った末、前世の名前を名乗る。 本当は違うだろうけど…今世での記憶が無い今、他に名乗れる名前がない。


「…ユーナ、ね…」


 カラスちゃまは口(くちばし?)のなかで反芻すると、キリッとした表情で胸を張った。


「我はヤタガラス、不死鳥の神。 お前の願いは聞き入れられた。 契約の下、その願いと引き換えにお前の命を預かろう。 我が主よ」


 あ…。


 あ、あ…ああああああああああ!!!!

 何で…何で忘れてたんだろう…!!

 このセリフ、まちがいない!


 ーーこれ、







前世ハマッてたBLゲームの世界だーーーーーー!!!!


誤字脱字等ありましたらお知らせいただけると幸いですorz

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