前世を思いだしました?
なろうの皆様がすなる異世界転生といふものを私もしてみむとてすなり…(´∀`)/
10/6、少し訂正しました
「生きたいか?」
目の前には恐怖を感じる程美しい深紅の目。深く深く、底の見えない不気味なそれが死に損ないの俺をじいと見つめて笑っていた。
「何を犠牲にしても、生きたいか?」
生きたい?
そんなの…そんなの、とっくに決まってる。
俺は…――
* * * *
ーーその老いぼれのようなくすんだ白。 何て気味が悪いのかしら!
肌なんて穢らわしい底なし沼の泥を塗りたくったよう! 吐き気がするわ。 気持ちの悪い!
一番酷いのはその目だわ。 血の色、チノイロ、血の色! 何て醜い色かしら! あいつとおんなじ、何ておぞましい色かしら!
毎晩毎晩、彼女は私と二人っきりになるといつも金切り声で喚き立てる。 昼の間は瞳の中に押し込めている、恐ろしい程に純粋な闇色の炎が轟々と全身から噴き出す。 御伽草子に出てきた、墨で描かれた鬼のような顔で、真っ赤な顔で、くわっと見開かれたぬばたまの瞳が私を睨む。
けれども私は知っている。 彼女の美しいことを知っている。 優しいことを知っている。 私に振り下ろされるその白魚の指が、如何に繊細かを知っている。
美しい彼女が好きだった。 鬼の彼女が好きだった。 だから私は両手を広げて、毎晩彼女の憎悪を受け止めるのだ。
襖の向こうで醜い子供がくすりくすりと意地の悪い笑みを口の端に張りつけているのも構わない。 彼女だけが私の全てだった。
彼女に殺されるのが嬉しかった。
ずぶり。
耳の奥で泥の流れ込む音がした。 鼻の奥がきつい死の匂いにツンと痛む。
彼女は私の頭を鷲掴みにし、ぐいと一層それを泥に埋め込もうとしている。
「そうよ、そうなの。 初めっからこうすりゃ良かったのよ。 もうあの方の言うことだって構うもんですか!」
死んじまいな! 死んじまいな!
お前なんて× × × × × × × × × !
彼女の絹を裂くような、悲鳴にも似たその叫びが、私の心に熱い鉛を注ぎ込む。 重い。 心が酷く重い。 その重さに、身体が沼の底へ引きずられていくようだった。
良いんだ。
これで良い。 これが良い。
底の無い沼の中で私は目を閉じた。
――本当に?
遠くでどこか懐かしい声が小さく問うた。
――違う! 違う!
そうじゃないでしょ?
彼女が全てなんかじゃない。 『私』の全ては彼女じゃない!
思い出せ! まだ死ねない! 死んでたまるか!
だって私は!
「アーシュさんの足置きになるんだぁああああ!!! ……………………………えっ?」
思わず間抜けな声が出た。 え、誰? 今誰が喋ったの?
周りを確認しようとするが、視界は閉じて何も見えない。 目元に手をやると、どろりとぬめった液体で指が滑る。 青臭い土の臭い。
「そうだ…私、沼で溺れて…え、沼? 溺れた? じゃあここは沼の中? っていうか、もしかして私、死んでるの?」
泥が染みて、網膜がじくじくと痛む。 大きく息を吸う。 冷たい夜の空気が肺を満たした。
「…生きては…いるんだよね?」
とりあえず状況を確認した方が良いかも。 痛いのを我慢してぐしぐしと強く目をこすって泥を拭い、無理矢理に目をこじ開ける。 すると、涙でぼやけた視界に鬱蒼と闇色の木々が生い茂る、暗い森が広がった。
「え、何で森? っていうか確か私は今日は同人誌即売会のオンリーイベントで…へっ? ドウジ…え、待って、私今何語喋った? 森にいるのは神殺しの沼に落とされたからで…はぁっ? 神殺し? 何ソレ?」
おかしい。 思考が纏まらない。 記憶の糸がこんがらがって、どれが現実なのか分からない。
落ち着け…落ち着け、私。 とりあえず深呼吸だ。 ひっひっふー…ひっひっふー…。
目を閉じて息を吸い込み、大きく吐く。 何か違う気もするけど気にしない。
呼吸を繰り返す内に、こんがらがった糸くずの塊が少しずつ解れていく感覚がした。 それはやがて、一本の長い糸となって。
ゆっくりと瞼を持ち上げる。
「…えっと…これ、もしかして転生ってやつなのかな?」
市松悠菜、享年22歳。
どうやら異世界に転生していたようです。
シリアスクラッシュ