初戦闘をしてみた結果
ということで森の前にやってきた僕は早速戦闘の準備のために腰に下げていた先程手に入れた剣を抜いたり差し込んだりして感覚を確かめてからとりあえず森の中に足を踏み入れる。
草木の匂いが一瞬にして鼻につくのを感じながら僕は驚いた。
まず草や木に匂いがあることもそうだけれど、それ以外にも草木の葉を触るとザラザラとしていて本物の草木と同じような感覚なのだ。
「本当にリアルの森の中にいるみたいだ」
そう呟きながらも周りを警戒しながら前に進んでいく。
まずはどこまで進むと敵とエンカウントするのかというのを見極めないといけないし、それにその敵というものがどういうものなのかというのも確認しておかないといけない。
それに、先程の商人らしきNPCの人から聞いた話しだと……
ここに出るのは魔物と呼ばれる存在?
みたいなのだが、魔物と魔族って違うのだろうか?
とりあえずは敵とエンカウントしないことには始まらないのでなんともいえないが頭の片隅には入れておくことにしておいた。
そうしながらも奥に進んでいくと、とうとうというかなんというか気配を感じる。
これはリアルで引きこもりになっている間に身につけた最強のスキル……
コミュ力がないので何かが近づいてきたら無意識にそれを認識してしまうというものだ。
これがあるおかげで何かが近づいてくるというのが気配で察知できるようになった。
ちなみに日常では人と出会わないようにできるのでかなり便利といえる。
そんな通称引きこもりセンサーにて気配を感じるのは一つだけのようだ。
それも通常の人ではない足音の感じとリズムからそれが四足歩行であることがわかったので、獣のたぐいのようだ。
それにしても獣が魔物の類なのだろうか?
普通では魔獣ではないのかな?
そんなことを考えながらも少し頭の中でも戦闘モードに切り替える。
ここはどうしようか?
とりあえず敵には気づかれていないようだ。
でももし不意打ちしてモンスターを倒してしまえば初勝利とはなるがそれでは戦闘をしにきたという当初の予定から外れてしまう。
ここは姿をうまく晒して戦いやすい場所に移動してこのゲームでの戦い方というのを試してみないと……
それにモンスターの動きというのも見てみないことにはこちらで対処しようとしても難しいものがある。
そうだ、百聞は一見に如かずって言うし、それに百見は一行に如かずって考えているしここはやるしかないね。
まずはモンスターの正体を見るためにも魔法であぶりだそう。
「水よ、球となりて敵を撃て、ウォーターボール」
水の球を作り出して気配がある方向に向けて飛ばす。
地面にあたり弾けた水の球はパシャっという音と共に草木に水滴をつけ、更にモンスターがその茂みから動くのを感じた。
それを注視して確認すると、そこには狼のような獣が姿を現していた。
たぶんモンスターの名前的にはウルフというものだろう。
とりあえずは相手をするために引き寄せながら森の開けた場所に出るかな。
そう考えた僕は周りを確認しながらそれらしい場所を探す。
うーん、さすが森の中……
あんまりいい場所がないような。
僕はそう考えつつも足場がちゃんとしていてそれなりに視界が開けている場所を見つけた。
どうやらそれについてきてくれるらしいウルフはこちらに突進を仕掛けてくる。
それを剣を抜刀して、剣先にてウルフの体当たりをそらす。
「ウォォオオオーーん」
そして次の攻撃を仕掛けて来る前にウルフがそう咆哮して向かってくる。
うん、どうやら突進のスピードなどは本当に猫より少し速い程度だから普通にかわすかいなすかすれば対処できる。
後はこちらの攻撃をうまく当てられるかだけれど、まずは普通に剣先でそらしてからの振り向いて縦斬り……
リーチ的な問題で届かない。
く、やっぱり普通に体を動かしてとなると感覚的な距離感というのが難しいな。
よしこういうときは距離を掴むために、あれをしよう。
そう考えた僕はとりあえずまず剣を収めてウルフに向き合う。
そしてウルフの突進攻撃をかわしながらも攻撃をする距離感を目で確認する。
これには目線を常にウルフから離さないようにしないといけないために、変な避け方になるのは正直避けられないが仕方がないことだろうと思う。
そんな体をひねりながらウルフの突進の起動を確認した僕はもう一度剣を抜刀する。
今度はいけそうだ。
そう思って身構えたところで異変に気がついた。
なんだか気配が多くなっていないか?
いや確実に多くなってる、しかも同じウルフのものだと思わられる。
そう一体のウルフとの戦闘に気を配りすぎていたのでどうやら周りを囲まれてしまったらしい。
でもなんでだ?
そう考えて、先程ウルフが咆哮している場面を思い出した。
あ、もしかしてあの時に呼ばれたのか。
く……
さすがに戦いを分析しながらたくさんの敵と戦うというのは僕にはなかなか難しいことなので、ここは……
逃げるしかない。
僕は剣をしまい、すぐにその場から後ろを向いて逃げる。
するとすぐさまウルフの集団がこちらに来た。
うわ、これはヤバイ。
くっそー……
そして僕はガムシャラに走り続けた結果……
「おふるべぃ……」
変な声と共に樹木の根に引っかかり盛大にこけて、後ろからきたウルフに突進や噛み付きなどで蹂躙されて、強制ログアウトの流れとなった。
「うう……
初めての戦闘であれは鬼畜だよ。」
ダイブギアを頭から外しながらそう呟いて机の上に置いていたジュースでとりあえず口を潤す。
まぁでも戦闘のことは距離感さえつかめば普通に生身として戦っているものと考えればそれなりにできることを確認したのでよかったといえばよかった。
「よし、次はあの咆哮をされる前にウルフを倒してやるぞ」
そう意気込んでもう一度ダイブギアを装着してログインしようとしたところ……
「ログインできません。
死亡ペナルティにより二四時間はゲームにログインできません」
そう機械音声で説明された。
「そ、そんな死亡ペナルティキツすぎないか?」
そして僕はダイブギアを外してそう呟くとゴロリと寝返りをうった。